第3話 王都を脱出

俺は、振り返り泣き叫ぶ王女に


「待ってて。必ず迎えに来るから。」


2階のその場所を後にした。

そして、1階にいる監視2人に互いがいつも通りに仕事を行っていて何も変化していないと云う暗示をかける。

それにって、机の引き出しにある鍵を取り出しても、気付くことは無かった。

そして、2階に上がり王女の幽閉されている牢屋の鍵を開けた、


「ガチャ」


「王女様お待たせしましたね」


驚愕の顔をした王女が、


「えっ。出られるの。本当に出て良いの」


「俺が、連れ出してあげるけどもうこの国には戻れないよ。そして平民として生きて行くんだ。俺と一緒に。それでも良いかい」


「良いわ!良いに決まっているじゃない。そして貴方となら何処までもついて行くわ。だって生まれてずっと独りだったんだもの。貴方お名前は?私は、エリナベル。ただのエリナベルよ」


「俺は、アステル。ただのアステルだ。これから、宜しくな。じゃ、ここから逃げ出そう」


そう言って、手を差し伸べるとエリナベルも手を出して来てお互いが手を握り合う。

俺は、エリナベルを引き寄せて牢から出してやる。そして牢の扉を閉めると鍵を掛けて、1階に降りる。

そして、鍵を引き出しに戻し、エリナベルの手を握って、


「これから、隠密と気配遮断を発動させてあの二人の暗示を解くから絶対に声を出しちゃ駄目だよ。もうすぐ交代要員が来るからその時に一緒にここから出るからね」


「分かったわ。声はアステルが良いと言うまで出さないわ」


俺は、隠密と気配遮断を発動して、二人に掛けた暗示を解く。そしてエリナベルの手を握って交代が来るのを待つ。


そしてその時がやって来た。

交代要員が塔の扉を開けて入って来た。

そして開けっ放しの扉から、俺達2人は塔の外に出た。

そして、使用人宿舎をを通って、使用人通用口から王城の外に出た。


まだ油断は出来ないから、エリナベルをお姫様抱っこして、縮地を使いながら、西地区の冒険者ギルドへ向かう。

冒険者ギルドに近付いて来たのでスキルを解除してエリナベルをお姫様抱っこから開放した。


「もう声を出しても良いよ」


「ぶは〜っ、もう恥ずかしかったんだからね。抱き上げるならそう言ってよ!あぁ、でも外に出られたわ~。もう、…これで、……あの、つらい……ヒック、日々かぁら…ヒック開放される……ヒック、のね」


「あぁ。ごめんごめん。それより今から冒険者ギルドに登録するから。そう云えば職業プレートは持ってるの?」


「…ヒック、それは……。肌身離さず……ヒック、下着に挟んで……ヒック、持っているわ」


「それは良かった。冒険者ギルドの登録が済んだら、この国を脱出しよう」


「そうなれば、本当の自由に……ヒック、なれるのね」


「そうだね。それじゃギルドに入るよ」


まだ陽も高いので冒険者もそんなに居なかった。受付カウンターで、顔見知りになったアンナさんに、


「アンナさん、ギルド長を呼んで欲しいのですが、アステルの案件でとお伝え下さい」


「分かったわ。今呼んで来るから待ってて」


アンナはすぐに立ち上がって奥の階段を駆け上がって行った。そして、ギルド長を連れて戻って来た。そしてギルド長が、


「アステルの案件と聞いたが、もしかしてアステルと同じ職業か?」


「実はそうなんです。この子の登録をお願いしたいのですが」


「そうかぁ。分かった。アステルの部屋へ行くぞ」


ギルド長はスウィングドアから階段に向かって進んで行くので、俺もエリナベルを連れて自分の部屋に向かった。

部屋に3人で入って俺が紹介を始める。


「こちらが冒険者ギルド長のドラムスさん。

ドラムスさん、この子はこの国の第5王女エリナベル殿下です」


「今はただのエリナベルです」


「なんと!と云う事は、殿下も文字化け職業なんだね」


「殿下はやめて下さい。城でも余り言われた事が無いですから、エリナベルと呼び捨てで構いません。もう私は、平民ですから」


「分かった。それじゃ、職業プレートを出してくれ」


エリナベルはスカートの奥に手を突っ込んで、プレートを取り出しテーブルに置いた。


[エリナベル・リスホルン]

[ᛗᛁᚴᛟ《巫女》]


「文字化け職業だな。分かった。それじゃこのプレートに魔力を流して。このカードが冒険者を証明するギルドカードだ。詳しい話はアステルから聞いてくれ。で、今から出て行くのか?」


「はい、夜になればエリナベルが居ない事が発覚しますから」


「そうか。ちょっと待ってろ」


そう言うとギルド長は部屋から出て行った。

2人きりになって、エリナベルにこの国が文字化け職業を嫌う理由に心当たりが無いか聞いてみた、


「この国の文字化け職業に対する弾圧に何か心当たりある?」


「実は、牢に閉じ込められる時に、私の父が言ってたんです。神授王権って知っていますか?」


「良くは知らないけど神から王と定められたって奴だよね。教会の話で出てくる」


「ざっくり云うとその通りです。そしてリスホルン王国では過去の国王の遺言で神語で書かれた職業の者が現れたら王権をその者に渡せと言う物があるみたいなんです。それをしないと神罰が下るって話だそうです」


そんな話をしているとギルド長が戻って来た。


「待たせたな。未成年のお前達が、理由も無く他国に行くのは無理があるから、カバーストーリーを考えた。

お前達の両親は冒険者のパーティーを組んでいて魔物にやられて全滅してしまった。残されたお前達は、帝国にいる親戚の所に向かうという設定だ。

それを補完する為に、この手紙を渡す。

2通はお前達が帝国に行く理由を俺が証明して許可を出していると云う書状だ。国境で出せ。こちらがリスホルン王国国境用でこっちがイフリートリッツ帝国国境用だ。没収されても良い様にけてある日付が違うから間違えるなよ。

そして、王国の町か村でなにか言われた時には、これを見せろ配達の依頼書だ。

これは、帝国用の配達依頼書になっている。

それから、帝国に入ったらライプストール辺境伯領になる。そこの領都を目指せ。

この手紙は辺境伯領都にある冒険者ギルドのギルドマスターに書いた手紙だ。必ずギルドマスターに見せろ。

そして、最後のこの手紙は、ライプストール辺境伯宛に書いた書状だ。これは、あっちのギルドマスターと相談して使え。

それじゃ、下に降りてエリナベルのクラスアップを行うぞ」


ギルド長は、全ての手紙を渡し終えると、部屋を出て行く。俺達も続いて部屋を出た。

1階の受付カウンターに着くと、


「エリナベル、ギルドカードを出してみろ」


エリナベルは言われた通りに、ギルドカードをギルド長に渡すと、


「アンナ、ギルド長権限で、エリナベルをFクラスに昇格させる。手続きをしてくれ」


とエリナベルのギルドカードを受付カウンターに置く。それを受け取ったアンナは、


「畏まりました。暫くお待ち下さい」


と言って手続きを始める。魔道具にカード通すと、カードのクラス表示がGからFに変わった。


「お待たせしました。カードをお返しします」


とエリナベルにギルドカードが返される。

俺は、肩掛けカバンとマジックポーチをエリナベルに渡して、


「このカバンとポーチはエリナベルの物だこれを使ってくれ」


それを受け取ったエリナベルは、


「ありがとう」


と言ってマジックポーチを腰に付けてギルドカードを収納し、マジックバックである肩掛けカバンをたすき掛けにした。それを見届けて、


「ギルド長、何から何までお世話になりました。あっちで落ち着いたら手紙を書きます」


それに続いてエリナベルも、


「本当にありがとうございます。落ち着いたら私も手紙を書きます」


「おう。待っているぞ。2人共、向こうで幸せにやるんだぞ。それが俺への一番の恩返しだ。上手くやるんだぞ」


「「はい」」


こうして、冒険者ギルドを後にして西門に向かった。西門から外に出る時は検問は無く、俺達はすんなり王都を出て行くのだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る