第5話 逃亡2日目と脱出の発覚

陽が天辺てっぺんに差し掛かる頃、横になっていた俺は目を覚ますと、エリナベルに膝枕をして寝ていた、目を開けるとエリナベルの顔がドアップで見えて。


「うわっ!」


と大声を出して飛び起きてしまった。


「悲鳴を上げるなんて失礼じゃない」


「ゴメン、ゴメン。エリナベルの綺麗な顔がドアップでこっちを見つめていたからびっくりしたんだよ」


そう言う訳をして周囲を確認する。 特に変化は無い様だ。身支度を整えて、エリナベルもフード付きのローブを羽織り出発の準備をする。


「昼間は、一緒に歩いて移動しようか」


「それが良いわ。私も歩きたい。半年ぶりに外の空気を吸って自分の足で歩いているのだものいっぱい歩きたいわ」


「そうだよね。でも追手があるのは間違い無いから、町や村には寄らないよ」


「構わないわ。それよりも自然を満喫したい」


こうして、徒歩で森の街道に戻って移動を続ける。ゆっくり歩いていると、色々な植物が目に入る。それらを鑑定すると、薬草や食用の草があり、それを採取しながら進んで行く。そうして街道を外れては薬草やハーブを摘んで街道にもドルを繰り返していると、夕方になって来たので、食事を摂る為に、街道を外れて木の陰に隠れながら食事を摂った。


「それじゃ、そろそろ高速移動をするよ」


と言って、エリナベルに背を向けると俺に身体を預けて来たのでおんぶして、半円の風の障壁、身体強化を発動して縮地で駆け出した。

暫く移動を続けると、森を抜けた。そして抜けた先には大河が見えた。その大河には街道の延長線上にかるこれまた大きな橋が見えて来た。その橋の周りには宿屋や商店が街道沿いに立ち並んで町の様になっている。

橋の前には検問ゲートがあり料金を払わないと橋は通れない。しかも、今は真夜中なので検問ゲートは閉じられていた。

俺は風の障壁を解除して隠密スキルを起動させて検問ゲートをよじ登り、橋に降りると駆け出した。

隠密スキルを起動させたまま反対側にも検問ゲートがありそれをよじ登ってゲートの屋上に立つと目の前には大きな街があった。

城壁に囲われていてその壁の屋上には兵士が巡回していた。

俺は慌てて検問ゲートから、飛び降りてここから隠密スキルを解除して、風の障壁を作って大河沿いに走り、街を大きく迂回して反対側に周り西の街道沿いに走り去った。

ある程度進むと街道に出て、移動した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


エリナベルが脱走した事に気づいたのは監視員が夕食を運んだ時だった。

監視員の男は慌てて、同僚に声をかける。


「大変だ!第5が居ないぞ!」


「なに!どうしてだ!こっちには来てないぞ。おい!外の立番にも知らせろ!」


「あぁ。分かった!」


こうして、立番の監視員から夜間警備の近衛騎士に連絡が届き。当番の伝令役騎士が王の離宮へと急ぐ。そして伝令役騎士から王の護衛騎士に知らせが届き、護衛騎士から王へ報告が行く。


「陛下。黒の塔から第5王女が失踪致しました」


「なに!王城、離宮を騎士、兵士、使用人を動員して探せ!そして近衛騎士団長と宰相を呼べ」


「畏まりました」


「何がどうなってる。今までなんの動きも無かったのにここに来て。クッソ!」


第5王女は文字化け職業を授かるとそのまま黒の塔に幽閉された。第5王女の母である側室の出身は男爵家の3女で、メイド見習いとして王城に勤めていたところを王が見初めて側室にしたが、第5王女を産んで直ぐに亡くなってしまった。


そもそも、なんの後ろ盾も無い第5王女は特に何もさせずにいた為、存在は希薄になっていたのだが、王は一応自分の子供ではある為、職業授与の儀を受けさせた。良い職業にでも就けば、外交のコマにでもする積りだったが、寄りにもよって文字化け職業を授かってしまった。


リスホルン王国の過去の王にはとんでもない遺言を残す者がいた。文字化け職業の者が現れたらその者を養子として王を禅譲せよと云うもの。次代の王が揉み消したが、貴族の前で宣言された為に、その事を記した書物が貴族の中には残っている家もある。


遺言を受けた次代の王が、王権の簒奪を恐れて、神語の読める者を追放、または読めない者へと入れ替えて、当時流れていた帝国の噂を利用して文字化け職業を国民に忌み嫌わせた。


そんな事もあって、文字化け職業を得た第5王女の処分を検討する為に黒の塔に閉じ込めていたのに逃げられてしまった。騎士が報告にやって来る。


「陛下。王城内隈無くまなく、また離宮には使用人を使って探索致しましたが見当たりません。範囲を王都に広げたいと思いますが許可頂けますか?」


「許可する。それと宰相と近衛騎士団長と各騎士団長に執務室に来るように伝えよ」


「はっ、畏まりました」


王は騎士に執務室に集める様、指示を出し自らも離宮から執務室に移動した。護衛騎士を伴って執務室で宰相や各騎士団長は待つと近衛騎士団長がやって来る。


「失礼致します。王城内を再度隈無くまなく探索させましたが、第5王女の姿は何処にもありません」


「そうか。となると城の外に出たか」


「これだけ探しても見付かりませんので、恐らくは」


「そうだな。探索範囲を広げようと思うが、

近衛騎士団長としての意見を聞きたい」


「失踪時の時間帯ではまだ各城門は空いております。ですから王都に潜伏するよりも外に出たと考えた方が良いと具申致します。


そして方向としましては、南の行き着く先は海ですのでこちらは、あり得ません。北も隣国に行くのは山越えがありますから10歳の子供が移動するには現実的に無理でしょう。

となると、西か東になりますが、東の帝国は亜人が多く住む国ですから、可能性は低いかと、私が考えるに西の帝国方面に集中して探索されるが良いと具申致します」


「卿の考えは分かった。先ず、牢はあやつ一人では絶対抜け出せん。第3者が介入している事は間違い無い。しかも、誰も姿を見ていない云う事は、特殊スキルを使っていると考えた方が間違いは無いだろう」


近衛騎士団長と王が話をしていると執務室の扉がノックされる。王は、ノックを聞いて、


「入れ」


と声を掛ける。すると護衛騎士が、


「宰相と各騎士団長がお越しになりました」


と伝える。宰相が、


「こんな真夜中にお呼び出しとは如何なるご用件でしょうか?」


その問いに、王は、


「第5王女が失踪した。第3者の介入によるものと考えられる。既に、王都を出奔しゅっぽんしていると、われと近衛師団長は考えている」


「なっ!」「なんと」「それは一大事」


宰相、第1騎士団長、第2騎士団長の順に驚きの声を上げる。


「それでだ、近衛騎士団長以下近衛騎士団には衛兵を使い、無駄とは思うが王都の探索をおこなってくれ。宰相は各領主に宛てる書状の作成を第2騎士団は伝令の編成を第1騎士団は追手の編成をおこなってくれ」


それを聞いた宰相は、


「して、行き先はどちらとお考えで」


われと近衛騎士団長の考える方角は西と思っている。南は海のどん詰まり、北は山越え、東は亜人が多い、となると西に向かうだろうと思っている。」


「そうですな、王女の年齢を考えますと西が妥当かと。畏まりました。早速、書状を作成致します」


「近衛騎士団は衛兵の編成をして参ります」


「第2騎士団は伝令として2人1組として5班編成して事に当たります」


「第1騎士団は追手を何人出しますか?」


「10名1組として3組出してくれ」


「畏まりました」


こうして第5王女への追手が放たれた。




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