第7話 世界の情勢を知る
「いきなり招待してしまって御迷惑ではなかったでしょうか?」
馬車に乗せられると、俺はコトネアに話し掛けられる。
俺の正面にはコトネアが座っており、その横には団長が座り腕を組んでいる。
「王女様こそ、他に何か用事があったのではないですか?」
こちらは特に用事などなかったので、彼女について聞いてみるのだが……。
「ええ、本来は東にあるパドキア魔導国を訪ねる予定でした」
「そちらは構わないのですか?」
俺が質問を重ねると、コトネアは眉根を寄せる。
「…………ええ。問題、ありませんわ」
どう考えても問題がありそうにしか見えない。
誘拐騒動があったから護衛を増やすつもりなのか、俺をお城まで連れていくことが優先なのかまではわからない。
「それよりも、ヨウスケ様」
「うん?」
「ヨウスケ様はこちらの世界の知識をあまりお持ちではないのですよね? もしよろしければ私に説明をさせていただけないでしょうか?」
「それは助かる……って、今何て?」
彼女はまるで俺がどこから来たか知っているかのような態度を見せた。
「不思議そうな顔をされていますね」
「どうして俺がこの世界の人間でないと思ったんだ?」
「それは、ヨウスケ様がこの国の……いえ、この世界の状況を把握されていなかったからです」
俺が首を傾げていると、彼女は説明を始めた。
「かつて、我が国は大陸を支配する大国でした。ですが、東西南北の国に強力な指導者が現れたことでそのバランスが崩れてしまったのです」
「北のセタット王国は太古より生きる伝説のドラゴンを討伐し、莫大な財宝を得ました」
コトネアはそれぞれの国の事情を語っていく。
「南のポセドニア王国は海の魔物を統べることで海を支配し貿易を行うようになりました」
次第に勢力を伸ばす他国に対し、領土を削り取られていく自国。
「東のパドキア魔導国では怪我に毒に病などを治す薬の開発に成功し、世界中の医療を支配しています」
どの国もこれまで存在していなかった優れた技術を持つようになり、人々は豊かな暮らしを求めて国を離れ始めた。
「西のアニマ大森林ではエルフを代表とした亜人が魔物や精霊を従えるようになり、勢力を拡大してきております」
そこまで説明をして彼女は真っすぐな瞳を俺に向ける。
「それらを成したのは突然世界に現れた黒髪の青年と史実にあります」
団長とコトネアが真っすぐに俺を見つめる。
おそらく、俺以外の転生者や転移者がそれぞれの国を興したのだろう。
「勿論、それだけで判断できるようなものではありませんが、ヨウスケ様の異常な能力とこの世界に対する知識のなさからカマをかけさせていただいたのです」
そういってコトネアは頭を下げる。
ちょうど目的地に到着したのか馬車が停止しドアが開いた。
「それでは、ヨウスケ様。こちらへ」
俺はコトネアに促されると城内へと入っていくのだった。
「私はこの国の王、ゼロス三十四世。この度は娘の命を救っていただきありがとうございます。国王としてではなく、コトネアの父親として礼を述べさせていただきます」
俺が案内されたのは、王座がある荘厳華麗な場所ではなく私室だった。
国王のゼロスは元の世界の俺と同じくらいの年齢で、頬がコゲ目の下に隈を作った中年の男性だった。
「先程、コトネア様にも申し上げましたが、本当にたまたま通り掛かっただけです。犯人を制圧はしましたが、それ以上は騎士さんたちの活躍によるものですから」
謀略を見破ったわけではなく、運が良かっただけなのであまり買いかぶられると気まずい。
「早馬の報告によりお待ちしておりましたが、ヨウスケ殿は転移者なのですかな?」
もう少し探り合いをするのかと思ったがストレートに切り込んでこられた。
「いいえ、俺は転移者ではなく転生者です」
「となると、どこかの国に生まれその年まで隠れていたと?」
「その辺は説明が複雑で、俺自身もよくわかっていないのですが、女神様がそう言ってましたので……」
肉体を再構築して健康体にして若返らせてくれたのだが、転生者と転移者の区別がつかないのでそれ以上言えることがない。
「いずれにせよ、どこかの国に所属しているというわけではないと?」
真剣な顔をして俺を見る国王とコトネア。
「ええ、まあ。この世界に来たのが今から半日前ですから……」
「ヨウスケ殿! どうか我々に力を貸してもらえないだろうか?」
「お願いします。ヨウスケ様」
その必死な様子に何か事情があるのではないかと察する。
「力を貸すというとどういったことをすればよいのですか?」
俺が質問をすると、二人は顔を上げ表情を崩す。
「実は、私の娘の一人が病に倒れておってな……」
「私がパドキア王国に向かおうとしていたのは、あらゆる病を治癒する霊薬を買い付けに行くためだったのです」
「どうか、娘の命を救うために協力してはもらえないだろうか?」
他の転移者のように俺を国家の象徴として祭り上げるつもりなのかと一瞬疑ったが、どうやらそうではないらしい。
もしそういった提案をしてくるのなら断るつもりだったが、この依頼は人命救助が目的となるので受けても構わないだろう。
転移との相性もよさそうだ。
「わかりました、そういった事情なら協力しましょう」
二人の焦燥を浮かべた顔を見た俺は、依頼をうけることにした。
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