第12話 パドキアに到着
セサミ王国を出てパドキア魔導国を目指し二週間が経過した。
俺たちは丘を乗り越えると遠く離れた場所に見える城下町を見下ろしていた。
巨大な壁が全周を囲み、中央には湖があり、橋が架かっている。中心には城が建っているのだがセサミの城よりも規模が大きく高い。
魔法技術が発達しているということで建造には大規模な魔法と大勢の魔導師が関わっているのだろう。
「ようやく、到着しましたな」
ふと横を見ると、団長がホッとした様子で城下町を見ていた。
「あれが俺たちの目的地の……」
「パドキア魔導国ですわ」
風が吹き、髪とスカートを押さえながらコトネアは城を見る。
「セタットの襲撃を完璧に躱したおかげで、誰一人欠けることなくここまで辿り着けました。これもすべてヨウスケ様のお蔭です」
彼女はそう言うと頭を下げる。
きめ細やかな金髪が風に揺れていた。
「そんなことはない。ここにいる皆のお蔭だろう」
最寄りの街で馬車を乗り換え、装備や服も変えている。
今の俺たちは立派な王女御一行だ。
俺たちが何一つ問題なくここまで来られたのは、彼らが情報を収集しここまで立ち回ったからだ。
俺は他のメンバーに同意を求めようと視線を向けると、
「途中で遭遇するモンスターの速やかな排除に加えて、転移を用いて周囲に悟られずに情報を共有。これを察しなければならなかったセタットに同情すら湧きましたよ」
「本当に、能力だけではなくその活用の着眼点が素晴らしい」
「転生者とはすべてこのように博識なのでしょうか?」
なぜか他のメンバーからも賞賛を浴びてしまい恥ずかしくなる。
このくらい、転移が使える前提で考えれば思いついて当然。持ち上げられると気まずい。
「ひとまず、先を急ぎませんか?」
そんな空気を変えようと、俺はさっさと先に進むことを進言する。
「そうですわね、ここで霊薬さえ手に入ればヨウスケ様の転移でセサミ王国に戻りお姉様の治療ができます。後少しです」
行きは自力で辿り着く必要があるが、帰りは転移で一瞬だ。
霊薬を手に入れたら俺だけセサミに移動すればニアの治療も一瞬で終わらせることができる。
俺たちは真剣な顔で頷きあうと、パドキアに入国するのだった。
★
時は陽介たちがセサミを出発してから一週間後まで戻る。
「一切動きがないだとっ! ふざけるなっ!」
セタット王国ではデルムッドが部下の報告を聞いて怒鳴り声をあげていた。
『丸一週間城門に張り付いて見張りをしていたのですが、出入りする人間も少数。見逃すとは思えません』
デルムッドの剣幕に怯えながらも報告を続ける部下。ほとんど不眠不休で働いているにもかかわらず処罰されてはたまらないとばかりに事実を告げた。
「ちっ、何か動きがあれば報告しろ」
通信の魔導具がブツリと切れ、デルムッドは視線をサルビアへと向けた。
「……っ!」
暴力を振るわれると思い、身体を萎縮させるサルビア。
「おい、サルビア。お前言ったよな? セサミ王国の第二王女は情に厚く他人を見捨てることができないと」
「……はい」
「なら、どうして城から出て来ないんだ? あぁっ?」
デルムッドはサルビアに顔を寄せると威圧した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
恐怖でサルビアは両手を前に出し目を瞑りながら謝り続けた。
「手前の安い謝罪なんてききたかねえよっ!」
デルムッドは右手を振り上げるとサルビアの頬を張った。
ーーパンッーー
乾いた音が響き、サルビアは後ろに倒れる。
その場にいる他の者はデルムッドをおそれており、一切口を挟むことができずにいる。
「あぐっ……」
デルムッドは倒れているサルビアの髪を乱暴に掴むと自分の方を向かせた。
「まさかお前、第二王女に同情してわざと情報を漏らしたんじゃねえだろうな?」
「そ、そんなこと……しておりません」
頬が熱くなり痛みを感じる。サルビアは怯えながら目に涙を溜めるとそう言った。
「はっ! どうだかなっ! パーティーで仲良く話していただろうがっ!」
何年か前にセタットで開かれたパーティーに、コトネアは父親に連れられて参加したことがある。
そこで他の王族に虐められているサルビアを庇ったことがある。
「サルビアは……この国に来ることが彼女の幸せだと……思っておりますから」
サルビアは顔を上げるとハッキリと告げる。
セサミ王国の現状は詰んでいる。
王家の血を引く正当な後継者は第一王女のニアと第二王女のコトネアしからおらず、このままニアが命を落とせば、彼女は争いの渦中に身を投じることになる。
セタットは現在、戦争に備えて力を溜めており切り札も用意している。
同時に三国を相手にすることも考えており、いざ戦争になった時にセサミにいるかセタットにいるかでコトネアの安全度が変わってくる。
「だったらよぉ、もっといいアドバイスをしろや! 大事な第二王女がこれ以上危険な目に遭わないようにな」
デルムッドは「このまま手間取らせるなら、いざ手に入れた後コトネアを酷い目に合わせる」と含んでいた。
セタットの第一王子も第一王女も自分以外を政治の道具としか見ていない。もしコトネアがセタットに来たとして、護ることができるのはデルムッドしかいない。
「彼女の性格からして、姉の死を見過ごすとは思えません。おそらく何らかの方法で監視の目を掻い潜り、今頃はパドキアに到着していると思います」
先程までと違い、デルムッドをおそれることなく主張するサルビア。
「だとしたらどうする?」
「脱出方法がわからない以上、いつ戻るかもわかりません。遠方からの監視で第二王女を捕えるのは不可能です」
(ごめん、コトネアちゃん)
サルビアは頭の中で一度謝ると、
「少人数で城内に侵入し、彼女が戻ったところで攫うしかありません」
もしコトネアをセタットに連れてきたとしても、絶対に自分が護る。そう覚悟を決めたサルビアはデルムッドの目を見て進言するのだった。
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