第11話 倉田陽介の戦い方
「すぐ片付けてくるから待っててくれな」
不安そうに見守るコトネアに俺はそう声を掛けた。
団長が言った通り、遠くにモンスターの影が見える。全部で五匹、四肢で大地を蹴りこちらに向かってきている。
犬……? いや、狼系のモンスターだろうか?
元の世界の大型犬よりも一回り大きいサイズだ。これがこの世界の生物の標準サイズなのか今はわからない。
「御武運を、祈っております」
言っても聞かないと諦めたのか、コトネアは不安そうな表情を浮かべると、両手を前で組み祈りを捧げる。
今回の目的は様々だが、彼女の不安をなくすのも目的の一つだ。
「援護は必要ですかな?」
接近してくるモンスターの挙動を確認していると、団長が声を掛けてきた。
俺は周辺に注意を払うと、近くにある巨大な岩を見た。
「いえ、大丈夫です。転移を使って戦うので、討ち漏らしたモンスターが流れるかもしれないので、団長さんはコトネアを護ってください」
初めての試みなのでタイミングが合うかわからない。最悪何匹か討ち漏らすことも考えられるので、可能性について触れておくべきだろう。
喉をゴクリと鳴らす。この決断で、俺は初めて生物の命を奪うことになるからだ。
横にある大岩に手で触れると、
「行きます!」
次の瞬間、大岩とともにモンスターの真上に転移した。
ーードンッ!ーー
岩が地面に落ち、振動ともに土埃が舞い上がった。
「けほっ」
目を開けてることができず、俺は右手で口を覆うと土埃が入ってこないようにする。
(完全な不意打ちだったからモンスターは押し潰されたはずだが……)
視界が晴れるまでは油断できない。
何か動く気配や音がないか意識を集中していると……。
『ガウッ!』
生き残った個体がいた。
モンスターはいち早く俺に気付くと襲いかかってきた。
素早い突進なので、背を向けて逃げていれば俺の身体能力では追い付かれてやられていたに違いない。
「おっと!」
『ガウッ?』
だが、転移の前には無意味。
見えている限りすべての攻撃を避けることができる。
転移を使い、背後に移動した俺はキョロキョロ首を回し目標を探すモンスターを見る。
右手には魔力武器作成によって作り出した拳銃を握っている。
「こっちだ!」
声を掛け、モンスターの注意をこちらに引きつけた瞬間転移を発動する。
瞬時に視界が切り替わりモンスターの背後をとった俺は、連続で五度引き金を引くと銃弾を撃ち込んだ。
ーーパンパンパンパンパンッ!ーー
『ガ……ウ……?』
最後に振り向いたモンスターは俺と目が合うと、驚き目を見開きそのまま地面に倒れ絶命した。
「ふぅ、一人でも何とかなったな……」
視界が晴れ、他に討ち漏らしがないことを確認した俺は脱力すると岩に寄りかかった。
息切れがする。
初めての戦闘を経験したからか、それとも大岩を転移させたからか疲労が溜まっており汗が噴き出ている。
「ヨウスケ様!」
コトネアが走り寄り、団長が後に続く。
「お身体は大丈夫なのですか?」
彼女は俺の下にくるなり体に触れると、怪我がないかチェックうぃ始めた。
こちらを気遣っているからかソフトタッチをされくすぐったく感じる。
顔や身体が近く、コトネアの良い匂いが鼻先を掠める。
「ちょっと汚れただけで怪我一つないぞ」
これ以上は耐えられなさそうだったので、まったく問題ないことを告げ彼女の両肩に手を載せ距離を取った。
「よかったです!」
ところが、コトネアは俺が無事だと確認するとホッとした表情を浮かべ抱きついてきた。
コトネアの柔らかい部分が身体に当たり、よくない状態となる。
「お、おい……汚れるぞ」
全身に土を被り汚れていたので、それを理由に離れるように説得するのだが……。
「いいんです。ヨウスケ様が無事で嬉しいんですから」
彼女には通じず、そのような笑顔を見せられては引き剥がすこともできない。
こうなったらしばらく離れないだろう。俺は溜息を吐くと彼女の頭を撫でることにした。
(そういえば、モンスターを倒したわけだが……)
四匹の狼と最後の一匹の命を奪った直後、身体に何かが流れ込んできたのがわかった。
おそらく、カルミア様が言うところの経験値というやつだろう。
少しは強くなったのかもしれないが、現時点で実感が湧かないと言うことはそれ程レベルアップしていないのかもしれない。
ゲームと違いステータスが表示されているわけではないので何とも言えない。
(それでもわかる数値もあるか……)
俺は他の転生者と違い、この世界でも新たな能力を獲得することができるので、潜在値と取得する能力の項目だけは見ることができる。
(今の戦闘でどれだけ潜在値が増えたかな?)
期待をして画面を開き確認するのだが……。
「増えてない……だ……と?」
そこそこ強そうなモンスターを五匹も倒したと言うのに、潜在値は一切増えていなかった。
言葉が漏れたからか、胸に顔を埋めていたコトネアが顔を離し見上げてくる。
吸い込まれるような美しい碧の瞳が揺れている。
(カルミア様は確かにモンスターを倒せば潜在値が増えると言っていた。何か見落としがあるのか?)
後から能力を取得できると思ったから俺は『転移』と『魔力武器作成』を選んだのだ。強化できなければ計画が大きく狂ってしまう。
そのことについて至急考えなければならないと焦りを浮かべていると……。
「それにしても、やはり転移は物凄い能力ですな」
団長が若干引いた様子で話し掛けてきた。
「大岩ごと転移してモンスターを押し潰し、避けた相手も転移で撹乱して強力な攻撃で仕留める。このような闘い方をされてはどのような達人でも勝てませんよ」
「団長さんにお墨付きをもらえると嬉しいですね」
彼は近衛騎士団長なので、セサミ王国で一番の騎士という立場らしい。
そんな彼にそう評してもらえれば、この世界で生き抜く自信になる。
「ヨウスケ殿が味方で良かったと、心の底から良かった思いましたぞ」
その表情は焦りを取り繕うことができていなかったので、逆に信用できる。
俺は彼の言葉に笑顔を返すのだった。
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