女神から依頼を受け、俺が『異世界』を征服することになった件~チートマシマシで異世界勢力図を塗り替えていきます~

まるせい(ベルナノレフ)

第1話 女神カルミアの頼み事

『倉田洋平(くらたようすけ)様。目を覚ましてください』


 起き上がると、目の前に美しい女性が立っていた。透き通った白い肌に輝く金髪。絹のような布を巻いているだけのような衣服。


『私は女神カルミア。異世界を統べる女神です』


 どうやら女神らしい。俺は動揺しつつも自分の置かれた状況を思い出す。 その瞬間、自分が死んだ時のことを思い出した。


「くっ……はぁはぁ」


 思わぬ光景に膝をつく、何だあれは……。俺は本当にあんな目にあって死んだのか?


「うっ……オェッ!」


『ああ……大丈夫ですか? 桶をどうぞ!』


 目の前に桶が差し出され吐いていると背中を優しくさすられた。


『ゆっくり……落ち着いてください』


 優しい声を掛けられ次第に落ち着いていく。ふたたび思い出しそうになるが身震いをして記憶から追い出す。


『申し訳ありません、あまりにも凄惨な死に方でしたので記憶を封印したのですが、自力で解かれてしまったようで……』


 どうやら彼女の配慮で死因を思い出せなくしていたのを破ってしまったらしい。


「いえ、こちらこそありがとうございます」


 心配そうに顔を覗き込んでくる女神に答える。しばらくして落ち着いてくるとだんだんと状況を把握してきた。


 死んだ俺と雲の上のような場所、そして美しい女神とくれば展開は決まってくる。


 異世界転生というやつだろう。


 通勤の合間にスマホで漫画を読んでいるのだが、最近この手の話が多い。


「えっと……異世界転生であってますか?」


 喉を鳴らし、念のため彼女に確認をすると、


『そうですそうです。話が早くて助かります』


 女神カルミアは両手を合わせると笑顔を見せた。今までの人生で一番美しい女性が屈託のない笑みを浮かべていたので胸がドキドキしてくる。


 彼女はそんな俺の内心を知らずか話を続けた。


『倉田様には私が統べる世界に転生して欲しいのです』


 彼女は指をピッと立てると打って変わって真剣な表情を浮かべる。


『剣と魔法と魔物が存在している世界で、様々な国や部族や宗教が存在しており、常に争いが絶えません』


『もしこのまま放置してしまえば主神の怒りを買って滅ぼされてしまうのです』


「カルミア様が統べているのにですか?」


 俺がつい口を挟むと、彼女は眉根を歪ませる。


『主神は倉田様が生まれた場所も含むすべての世界を管理しております。私以外にも神や女神がいてそれぞれの世界を担当しているんですよ』


「なるほど……」


 よく考えてみれば当然だろう。一体どのような神が管理していたのかが気になる。


『それでですね……優れた潜在能力を持つ倉田様には異世界に転生して欲しくて――』


「いいですよ」


『よいのですかっ!?』


 言葉の途中で遮り返事をすると、カルミア様は食い気味に顔を近付けてきた。


「多分この提案を断ったら元の世界に生まれ変わるんですよね? それは面白くないですし」


 これまでの人生、44年生きてきたがそこまでわくわくするようなものではなかった。


 大学を卒業してからは毎日会社との往復を繰り返し社会の歯車に徹する日々。


『そうですね、もし断られた場合は元の世界で生まれ変わることになります』


 カルミア様はそう断言した。


『私の世界に転生していただく場合、肉体を二十歳ごろに戻しますし、転生特典を授けることもできます』


「それは助かりますね」


 元の身体は四十半ば、ガタが来ていることもさながら食事を摂っても胃もたれがしたり他にもいろいろ不具合が出ている。


 そんな状態で転生させられても何もできないだろう。


『私が倉田様に求めているのは、主に悪いことをしている住人の更生です。ああでも勘違いしないでくださいよ、神託とかも聞いてくれないですが悪い子ではないんです!』


 カルミア様は慌てた様子で腕をパタパタ動かす。とても可愛らしい。


「いや、女神様の言うことを聞かない時点で駄目なのでは?」


 そのせいで俺が派遣されることになったのだから、フォローになっていない。


「具体的にどうすればいいんですかね?」


 更生と言っても色々ある。会社の部下にやるように厳しく導けばいいのか、それとも優しく指導すればよいのか。その辺について聞いてみると、カルミア様は口元に手を当て考え始めた。


『そうですね、世界征服をしていただけたらと』


「は? 世界征服?」


『そうです。今の世界が荒れ果てているのは世界中の者が争い続けているからです。ここで倉田様が一発ガツンと世界を支配してしまえば秩序も保たれて平和な世の中になると思うのです』


「それって、世界を敵に回して戦えということでしょうか?」


 俺の質問に、カルミア様はキョトンとした表情を浮かべ首を傾げた。


 その無垢な瞳とあまりの可愛らしさに毒気を抜かれる。


『あくまでやり方は倉田様にお任せします。武力だけでなく知略や謀略を巡らせて実質支配してもらえればと』


 笑顔で怖いことをいうカルミア様。


「……まあ、できる限り頑張ります」


 こういう時は「できない」と口にしないのがサラリーマンの習性でもある。問題に当たったらとりあえず対応するしかないのだ。


『では、倉田様が異世界に持ち込むための能力について説明しますね』

 俺の内心など知らず、彼女は笑顔で話を進めるのだった。

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