第4話 オリハルコン王貨
「まずはこの世界で何をするべきか……」
能力の使用については今のところ問題ないことが確認できた。
後はカルミア様から頼まれた世界征服という目的に沿って行動するのだが……。
「そもそも、今のままじゃ不可能だよな」
転移による長距離移動手段と無限に弾丸を撃てる拳銃があるとはいえ、これだけで世界を支配できるわけがない。
カルミア様の話では世界中に国やら宗教やら部族やらが存在しているらしく、一人で統率するのは不可能だ。協力してくれる仲間が必要になるだろう。
俺の能力は転移と魔力武器作成。普通の転生者が得られるチートが一つに対して二つ持っている。大きなアドバンテージを得ているのだが、それでも世界を相手に戦うには地力が足りていない。
「とりあえず、チート能力をもっと充実させるのが優先事項だろうな」
カルミア様に質問したのだが、この世界では人や魔物などを倒した際「相手がこれまで蓄積してきた経験の一部」が経験値となって流れ込むのだという。
経験値が溜まればレベルが上がり、その時に潜在値も増えるそうだ。
レベルが上がると身体能力が上がり魔力も増えるらしい。
強い敵を倒せばそれだけ強くなれるのだが、弱い敵を倒してもそこまで成長しないらしい。
なので、まずはモンスター相手に経験値稼ぎをするのが手っ取り早い。
休んだことで体力と魔力がある程度回復してきたのを感じとったので、次は実戦でもしようかと考えていると……。
――ぐぅ――
腹の音が鳴った。
「そういえば、転生してから何も食ってないんだった」
腹を押さえるとふたたび音がなり空腹を訴えかけてくる。
「ひとまず飯の確保が最優先かな?」
俺は転移を使いその場から移動するのだった。
「ここがこの世界の人間が住む国か」
身体が空腹を訴えかけてから十数分後、俺は城壁を見上げていた。
何か食べられる物はないかと思って転移での移動を繰り返していたところ街道を発見した。
馬車が数台通れそうな広い道で、街道沿いに進めば街があると考えたのだ。
しばらく進んでいると丘をのぼった先から見下ろせる城下町があったので、こうして見物しにきた。
城壁の高さはゆうに十メートルを超えているようだ。
城門に近付くと列ができており、列の人間は少し兵士と話をしては門を潜り抜けていく。
このまま立っていても仕方ないので俺も列に並ぶことにする。
「身分証はありますか?」
自分の番になると兵士が声を掛けてきた。見た目が若く、新卒兵士のようだ。
「えっと……ありません」
「そうですか、ではこちらのゲートを通過してください」
兵士はそう言うと門の横にあるゲートへと誘導した。
「これは?」
「こちらはとある魔導師が発明した魔導具で、強盗や殺人・強姦などの凶悪犯罪を行った者に反応する仕組みとなっています。犯罪者を野放しにするわけにはいかないので、身分証がない方にはこちらを潜って入国してもらっているのですよ」
兵士はそう説明すると「さあ」とせっつく。後ろに他の兵士も立っていてこちらに意識を向けている。
「わかりました」
魔導具の判定とやらが気になるが、元の世界ではもとよりこちらの世界に来てから何ら悪いことをしていないので大丈夫だろう。
「はい、ご協力ありがとうございます」
ゲートを潜ると青く輝き兵士の顔に笑みが戻った。
「身分証は各職業ギルドや国に申請すると発行されます。お持ちでないなら手続きをすることを勧めますよ」
「ありがとうございます」
今のところ必要としていないのだが、丁寧な対応に好感が持てる。
カルミア様が征服して欲しいというくらいだからもっと酷い場所かと思ったが、国の入り口の兵士がまともということはそこまで腐っていないのではないだろうか?
城門を抜けて中に入ると、整備された街並みが広がっている。
街の中心には城が建っている。おそらくこの国の王族が住んでいるのだろう。
「と、それよりまずは飯だな」
いずれ顔を見に行くこともあるかもしれないが、とりあえず空腹を満たすため行動することにした。
しばらく歩き回っていると美味しそうな匂が漂ってきた。
そちらに視線を向けると露店で串焼きが売られていた。
「すみません」
「はいよ!」
肉を焼いていた中年の女性に声を掛ける。
「この通貨は使えますか?」
カルミア様から事前に渡されていたお金を見せる。
「ちょっとあんた!?」
「な、何でしょうか?」
「リムトーヌ帝国のオリハルコン王貨じゃないかい!? すぐにしまいな!」
慌てて懐にしまい彼女を見ると、女性は周囲をキョロキョロ見て警戒していた。
「それって何なんですか?」
あまりの反応に驚き、聞き返してしまう。
「そんなことも知らないのかい」
女性は飽きれた表情を浮かべ溜息を吐くと説明してくれる。
「リムトーヌ帝国ってのは今から数千年前に滅んだ魔導文明を発展させた国さ」
「なるほど」
「超希少金属のオリハルコンを用いて傷つけることもできず永遠に美しさを保ち続けるこの王貨は世界中の収集家が欲してやまない物だよ」
カルミア様は「一応足りるかわからないのですが、これを当面の資金にしてくださいね」と軽く渡してきたのだが、そんな価値があるものだったとは……。
「これ一枚で何が買えますかね?」
念のため確認で聞いてみる。
「うーん、そうだねぇ……。私が噂で聞いた話だと王都にある貴族の屋敷複数と取引した貴族がいるらしいよ」
(どうしよう、全部で十枚もあるんだが……)
貴族の屋敷と言えば元の世界でいうところの都の中心にある豪邸クラスだろうか?
昔興味本位で調べたことがあるが、最低でも5億高いものだと50億はくだらなかった記憶がある。
それが複数ともなるとこれ一枚売れば一生安泰なのではないか?
(いや、でも……なぁ)
安泰な人生を送りたいがカルミア様から頼まれているのでそういうわけにもいかない。
「他にお金はないのかい?」
「ええ、これが唯一のお金になります」
そう答えると、女性は串焼きを数本袋に入れて渡してきた。
「あの……お金ないんですけど?」
どういうつもりなのか、彼女の目を見る。
「国立美術館でしか見られないような凄いものを見せてもらったからね。これはお礼にしておくさ」
「あ、ありがとうございます」
脂が滴る肉を見ていよいよ空腹が限界だったので非常に助かる。
「これを換金できたら、また絶対に食べに来ますから」
「若いのにしっかりしてるね、ほら。これもサービスだ」
俺の返事に気を良くした女性はそう答えると、カゴにつんでいたリンゴのような果物を渡してきた。
俺は肉串と果物を受け取りその場を離れるのだった。
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