第3話 チート能力を試す
「ここが異世界か……」
転生させられた俺は周囲を見渡すと新鮮な気持ちになっていた。
自然が溢れており、川のせせらぎや木々が風で揺れる音が聞こえ暖かい風が頬を撫でる。
まるでハイキングに来たかのような気分になった。
「最後に自然一杯の場所にきたのはいつだったっけ?」
入社数年目くらいに会社のリクリエーションで近くの山に登った時くらいだろうか?
あの時は上司のありがたい言葉を聞きながらだったのでとても疲れたのを思い出す。途中からリュックを押し付けられたのでなおさらだ……。
そんな嫌なことを思い出してしまっていたのだが、
「身体が凄く軽いな」
鏡がないのでわからないが、カルミア様の言葉通り肉体年齢が二十歳まで戻っているのだろう。重さを感じずとても清々しい気分だ。
「と……まずは取得した能力の確認をしないとだな」
元の住んでいた世界ではないのだ。油断していると魔物が現れて襲い掛かってきかねない。今のうちに何ができるか把握しておいた方が良いだろう。
俺は周囲を見渡すと遠くにある河原を目的地に設定する。
次の瞬間、能力が発動し景色が切り替わった。
「成功……だな?」
目の前には川があり水が流れている。数百メートルの距離を一瞬で移動してきたのだ。
「これが『転移』か。凄い能力だな」
何度か周囲に視線を向け転移してみせる。目まぐるしく景色が切り替わるが、能力を行使している万能感から気分が高揚してきた。
「瞬時に能力が発動する上、疲労もない。これなら身の安全を確保して行動できるぞ」
魔物や盗賊などに囲まれたとしても、転移の能力があれば攻撃を受けることなく立ち回ることができる。
(何せ、世界中を飛び回ることになりそうだからな)
世界を征服するというからには、世界中を行き来できなければならない。
この世界がどれだけ広いかわからないが、移動にあまり時間を掛けるようでは主神とやらの怒りが落ちて世界が先に滅ぶだろう。
「後はもう一つの能力も試しておくとするか……」
俺は周囲を見回すと、ちょうど良さそうな場所に転移で移動するのだった。
「さて、試してみるとするか」
ところどころに岩が存在する荒野に俺は立っていた。
この世界で安全を確保する方法として選んだ一つ目の能力が『転移』だった。
同じ能力の使い手がいたとしても、俺がどこに転移するかわからなければ捕らえようがないわけだし、行動範囲も広がる。
いきなり世界征服をするのは土台無理な話なので、まずは生き残ることを優先した結果の選択だ。
そうすると、次に必要になる能力は何なのか?
魔物も存在する異世界で生き抜くために必要なのは戦闘力である。
真っ先に取得を考えたのは『全武器マスター』『全魔法マスター』だが、武器や杖などの装備を手に入れなければならないし、魔法に関しては使えるだけで威力を上げるにはそれなりに時間が掛かるとカルミア様に確認した。
今は手っ取り早く手軽に扱える戦闘力が欲しい。
そこで思いついたのが『魔力武器作成』だ。
説明に「ありとあらゆる武器を魔力により作り出すことができる」と書いてあったので、カルミア様に確認してみたところ元の世界の武器も作成できるとのこと。
これまでに触れたことがなければ駄目らしいのだが、社員旅行でグァムに行った際、射撃場に連れていかれ何丁か撃ってみたことがある。
「さて……『魔力武器作成』」
能力を使うと手に拳銃が出現した。記憶に残っている限り以前取り扱ったものと同じに見える。
「おおっ!」
ただし元の拳銃とは違い、銃身の外側を虹色の光が動いている。まるでゲーミングキーボードのような……。
「これなら、魔法にも引けをとらないからな」
技量が必要な武器と違い、引き金を引くだけで殺傷力を得られるうえ、詠唱も必要ないので、ソロで活動する俺にピッタリだろう。
「早速試し撃ちをしてみるか……」
グリップを握り、両手で構えると狙いをつける。
近くにある岩に向けて引き金を引いた。
――パンッ!――
乾いた音が響き渡り岩に小径の穴が開く。
「どうやら、問題ないみたいだな」
オートマチックピストルで十五発撃てるのは実物で体験済み。
――パンッ! パンッ! パンッ!――
肩慣らしとばかりに連続して撃つ。岩に穴が沢山開いているが、てんでバラバラな場所だ。
十五発撃ち終わるとピストルを下に傾けリロードをする。弾が装填されたのか重さが加わった。
「元の世界にいたころよりは力が強化されているな?」
射撃場ではこのくらい撃てば腕に痛みと疲労があったのだが、異世界転生した際に身体能力が上昇しているようだ。
俺はもう一つ拳銃を作り出すと、両手で撃ち始めた。
硝煙の臭いはなく、銃身が熱くなることもなく弾が発射され続ける。
だんだんと勝手がわかってきたのか命中精度も良くなってきた。
「弾を気にせずに撃ち放題ってのはいいな」
射撃場の場合は五種類の銃を撃たせてもらったのだが、それだけで二百四十ドルも支払うことになったので、少ししか撃つことができなかった。
弾の補充も一瞬だし、これならば余程のことがなければ後れを取ることはないだろう。
「とはいえ、これは少しずつ疲れてきているな……」
『魔力武器作成』には魔力を消費する。弾一発を生み出すのにそこまで魔力を消費しないようだが、既に数百発は撃ち出している。流石に疲労を感じた。
五種類の銃を撃ち分け、最後にライフルを作り出すと……。
「そういえば、魔力を込めれば威力が大きくなるんだっけ?」
最後なので少し多めに魔力を流し弾を作ってみる。
目の前の岩は既にボロボロなので、数百メートル離れた場所にある岩めがけてライフルをぶっ放した。
――ドゴンッ!――
これまでの小径とは違って、明らかに弾よりも大きな穴がぽっかりと開いていた。
「今、当たると同時に爆発したような?」
こんなのは現実のライフルでは起こらない現象だ。
「銃+魔法の付加効果ってやつか?」
これなら多少強力なモンスターが相手でも立ち回ることができそうだ。
「とりあえず、訓練はここまでにしておくか」
結構な疲労を覚えたので拳銃を消した俺はその場で休憩をするのだった。
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