第6話 第二王女コトネア
「ぷはっ!」
戦闘が終わると、俺は少女の猿轡を外してやる。
「危ないところをお助けいただき、ありがとうございました」
よほど怖かったのか目に涙を浮かべ頬を赤くして縋り付いてくる。
「たまたま通り掛かっただけだよ」
微かに少女か声が聞こえたから様子を見にきただけだ。あれがなければ気付くことはなかっただろう。
「私はこのセサミ王国第二王女コトネアと申します。あなた様のお名前を聞かせてくださいませんか?」
「俺は倉田陽介だ」
助けた相手がこの国の王女ということに驚き、まじまじと彼女を見る。
光沢が浮かぶ滑らかな金髪に染み一つない白い肌、滑らかなシルクのドレスはこれまで触れてきた生地の中でも最上級のものであることは間違いない。年のころは十七か十八程だろうか?
背が低く顔の輪郭が丸みを帯びており幼い印象を受けるが、元の世界で見たことがないような美少女だ。
「クラタ……ヨウスケ……様」
そんな彼女は、何故か俺の名を呟きながら瞳を潤ませている。先程の人攫いが余程怖かったのだろう。
「王女様!!」
そんなことを考えていると、路地の両端を鎧を身に着けた騎士たちが塞いでいた。
「スパイが入り込み、王女の姿を見失い探しておりましたら妙な音がして駆けつけましたが……どのような状況でしょうか?」
他の騎士よりも綺麗な意匠を施した鎧を身に着けた男が近付き、俺を見ながら王女様に質問をする。
「混乱に乗じて男たちが私を攫おうとしたところを、ヨウスケ様が助けてくださったのです」
「なんと!」
誤解から争いにならずに済みそうでホッとする。
騎士たちが地面に倒れている男三人の身体検査をして拘束していく。
俺たちがそれを見ていると……。
「団長! 誘拐犯の懐からこのような物が……」
紋章が刻まれたペンダントが俺たちの前に差し出された。
「これはっ!? セタット王国の紋章!」
「セタット王国?」
俺が首を傾げてポツリと漏らすと、
「セタット王国はこの国の北部にある大国ですわ。一年の大半を氷雪に閉ざされた国で戦争に力を入れており、強力なスキルを持つ騎士や魔導師を多く抱えております」
コトネアがその国について説明をしてくれた。
「……ありがとう」
「いいえ、このくらい大したことありませんわ」
俺が礼を言うと彼女は微笑み、何でも聞いて欲しいとばかりに見上げてきた。
「陽動をして王女を攫おうとしたことから考えても、いよいよ強硬策に出てきたのでしょうな」
騎士団長の言葉に何か事情があるのだと察する。
彼は考えごとをしながらも俺の全身を見回すと……。
「失礼、ヨウスケ殿とおっしゃられましたな? もしよろしければ一緒にお城までにきていただけないでしょうか?」
「えっと……なぜでしょうか?」
いきなりの招待に俺は身構える。
「王女様を助けていただいた礼もしなければなりませんし、何よりぜひ国王に会っていただきたい」
何やら思惑があるようなのだが、言葉の端に焦りのようなものが浮かんでいるきがした。
「そうは……言われても……」
こちらはまだこの世界に来て半日。これからゆっくりこの世界のことを知っていく段階なのだ。
いきなりこの世界を悪くしているかもしれない人物に会うのは避けたいと思っていた。
断って転移で逃げようかと考えていると指先に冷たいものが触れた。
見てみると、俺の手に触れているのはコトネアの右手だった。
彼女の手が震えているのが伝わってくる。
「……駄目……でしょうか?」
瞳を潤ませ見上げ確認してくる。流石にこのように聞かれて断るのは気が引ける。
俺は溜息を吐くと、
「……わかりました。少しだけなら」
そう答えた。
「ありがとうございますっ!」
両手で俺の手を握り嬉しそうにするコトネア。この笑顔を見られたな受けてよかったのではと考えるのだが……。
「それではヨウスケ殿、こちらに。馬車を用意してありますので」
いつまでもこんな裏路地に王女を留まらせているわけにいかないからか、団長が俺の肩をつかみグイグイと押してくる。
その力は見た目通りに強く、やや強引な感じがする。
「ちょっと、逃げないですから! 肩から手を放してもらえませんか?」
コトネアに右手を掴まれ、団長に押された俺は、まるで連行されるような様子で馬車へと押し込まれるのだった。
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