一通目 青木からの返信
午後、スタッフミーティングが終わると青木は引出しから手紙を出して、カメラマンのまとめ役をしている小野ゆいに相談をもちかけた。
◇ ◇ ◇
さて青木であるが、ロケ撮影もする写真スタジオのオーナーでもあり腕のいいカメラマンでもある。青木の撮る子どもたちの表情には定評があったので、いつの間に子ども専用のスタジオと認識されるようになっていた。
青木の他には八人のパートのカメラマン(小野も大杉もカメラマンだ)が所属していて、その多くが青木が主宰している写真撮影講座の卒業生だった。彼女たちのほとんどは母親でもあったので子どもの扱いについては慣れていて好評価をもらうことが多かった。(我が子に我慢出来なくても、仕事となったらどんな理不尽も笑って受け止められるものだ)
所属カメラマンの数が多いので何かの時の対応も容易なうえ、同時に数ヶ所の撮影も出来ることから、機動力のあるスタジオだと思われていた。
◇ ◇ ◇
青木は小野に、大杉からの不思議な手紙を渡した。
「なぁ、小野。これはつまり、大杉が今年も浦安の例の場所に遊びに行ってるってことかな」
小野は一通り手紙を読むと、ニヤニヤしながら言った。
「違いますね。今回は「魔法と剣」と書いてあるので、大阪のあのスタジオ・ジャパンじゃないですか」
「子猫を助けるとあるが?」
「うーん。そこなんですよね」
小野はスマホをしばらくいじってから、ひとつの画像を青木に示した。
「今大阪で『子猫を挟んだ君と僕』っていう2.5次元の舞台をやってますね」
「2.5?」
「アニメとかマンガが原作の舞台のことです。マイナーでコアなファン以外には人気はないらしいですが、大杉さんの推しが出ているようです」
「つまり?」
「つまり。連勤が終わったのでその日のうちに大阪行きの高速バスで推しの舞台を見に行って、ついでに仲間とテーマパークも堪能していると」
「堪能しているのか」
「おそらく」
小野は頷くと、手紙を青木の手に戻した。
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大杉 結奈様
毎回丁寧なお手紙ありがとうございます。次回があるならば、次回からはメールかラインでけっこうです。
今回は子猫を助けるために『異界』に行ったとの由。中世ヨーロッパで剣と魔法だそうで、楽しんで頑張っているようでなによりです。
夏場は撮影も閑散期でカメラマンの交代は融通がつきますからこちらのことはご心配なく。
欠席したミーティングの内容については小野くんからラインがあると思うので、確認しておいてください。
九月にはロケイベントも幾つか予約が入っています。月初から出社してもらえるよう、よろしくお願いします。
「異世界」からの社会復帰はそれなりに大変だと思うものの、大杉君なら慣れたもので問題ないと僕は思います。
現場に戻るまでは、しっかり楽しんで世界を広げてきてください。
最後に蛇足ではありますが、手紙を書く時相手への呼びかけは統一した方がいいです。
青木 啓介
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青木はこの文面を大杉にラインで送った。
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