七通目 遠方の兄からの手紙
その日青木写真スタジオに、着払いでやたら海外のシールがベタベタ貼られた薄汚れたが小さな荷物が届いた。
宛先は杉井陽子。スタジオのカメラマンだ。最終的な送り主は茨城県那珂市にある事務所だった。見知らぬ荷物には非常に懐疑的になっている青木は、荷物を受け取る前にその事務所を検索してみた。どうやら海外、しかも秘境と言われる地域に出張オフィスを多く抱える事務所のようだった。
青木はロケ撮影に出ている杉井陽子にラインで了解を取り、安くはない料金を立て替えて荷物を受け取った。
「青木さん、すみませんでした」
スタジオに戻った杉井陽子はその怪しげな荷物を怪しみもせず、バリバリと開けた。かえってそばで見ていた青木のほうが、そんなに大胆で大丈夫なのかと心配するほどだった。
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(一枚目 英語)
この手紙を偶然見つけてくださった方へ
この手紙を、街の下記の住所へ届くように手配していただけませんか。
住所は私の仕事先です。ここへご連絡いただければ、後ほど十分に謝礼をさせていただきます。
あなたのご親切に感謝を。
◇ ◇ ◇ ◇
(二枚目 日本語)
杉井 陽子様
陽ちゃん。
元気でいるか? 連絡が遅くなってすまない。
俺は今、電気も満足に通っていない、遠い国の辺境の奥地にいる。
何故こんな所にいるのかというと。海外出張を終えて帰国しようという時に、ちょっとした犯罪トラブルに巻き込まれそうになった。その時力を貸してくれたのが、この村から来た青年だったんだ。
英語とジェスチャーで意気投合し、いつの間にか村まで一緒にやってきてしまった。
村の全員が英語を話すわけじゃないが、それでもみんな俺の話を楽しそうに聞いてくれる。みんなに俺の特技を披露したり、寝食を共にしたりしているうちに、あっという間に数日が過ぎてしまった。
ここには電話もないし、もちろんネットもない。村の外への連絡手段といったら、週に一度か二度、街に働きに出る誰かに手紙を託すことぐらいだ。
その頼みの綱でさえ、大雨で川にかかったたった一本の連絡橋が落ちて、使えなくなってしまった。お決まり過ぎて笑っちゃうだろ?
街にある出張先のオフィスには、村に行く前に連絡しておいたから、陽ちゃんにも連絡が行っていると思う。オフィスには村のことをよく知ってる人がいたから、そこまで心配はされなかったみたいだ。
橋が直るまで、もう少し、ここの穏やかな暮らしを味わっていようと思う。とっくに帰国しているはずだったのに、なんてのんきなんだ、って陽ちゃんは呆れているだろうね。
この村は、自分たちでこの暮らしを選択した人たちが集まってできている。電気のない暮らしがこんなにも心を落ち着かせてくれるなんて、俺はここに来るまで思いもしなかった。この世界で日々を生きるという、人間としての、いや、生物としての根幹を見つめ直している心境だ。
橋が直っていないのに、どうしてこの手紙を書いたのか。村の人が、伝書鳩を飛ばそうと言ってくれたからだ。街まで飛んでくれれば、街にいる村の関係者がオフィスへと届けてくれる。その後、オフィスの知人が日本まで送ってくれるはずだ。でも、鳩は途中で力尽きるかもしれないし、動物に食べられてしまうかもしれない。期待はしないでくれ、って笑ってた。
帰国がいつになるかは、まだわからない。ひとまず、この手紙が無事に陽子に届くことを願う。
心配しないで、もう少しだけ待っていてくれ。
杉井
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「ここまで無事に届いたってことは、その鳩、誰かのところまで頑張たんだ」
陽子は薄汚れた封筒を優しく撫でた。
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