七通目 遠方の兄への返信
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杉井
お兄ちゃん、今回は何処に行ってるの?
毎回毎回、電波も届かないような場所に好んで行くんだから。
今回は昔ながらの生活を続けている民族とかじゃなくて、そういう生活を選んだ人たちのところにいるの?
「生物としての根幹を見つめ直している」のはかまわないけど、山形の山奥に買った「ぽつんと」建ってる「一軒家」はその後どうなってるのかな。リフォームしたら遊びに来いって言ってたから楽しみにしてるんだけど、そう言ってもう三年たつよね。
出来れば今年こそ雪の季節が来る前に招待してもらえると嬉しいな。
そういえばこの前あの番組、『世界の果てってこんなとこ』見たよ。隊列の中にお兄ちゃんがチラチラ映ってたよね。元気そうでよかった。ほかの秘境を紹介する番組でも時々コーディネーターのところにお兄ちゃんの名前があるよね。
頑張ってるお兄ちゃん、キラキラしててサイコーにカッコいいよ。
自慢の兄ってやつだよ!
そろそろその橋も直ってるだろうし、この手紙は現地オフィスで受け取れるんじゃないかな。いろいろ大変だろうけど、若くもないんだし(アラフォーだもんね)無理しないでね。
大事なことなのでもう一度書くけど。
冬になる前に、お兄ちゃん自慢の「一軒家」には行きたいなぁ。
前に話したと思うけど、七五三のシーズンが終わったらスタジオのみんなで山形に遊びに行く予定なの。お兄ちゃんのあの家なら部屋数も多いし、全員泊まれるでしょ。ちゃんと直したらあそこメッチャカッコいいと思うんだよね。
あの家と真っ黒に日焼けしたお兄ちゃん、早くみんなに自慢したいよ!
(まだアラサーの)陽子より
追伸
お兄ちゃんからの手紙、着払いだったんだけどさ。想像以上に高かったよ。
どこをどう経由して那珂市の事務所に届いたのか、何故事務所が払ってくれなかったのか、直接説明よろしくね。
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「ねぇ。この返事、鳩に括って飛ばすの?」
ごく普通の封筒に一風変わった返事が収まるのを眺めつつカメラマンのまとめ役小野ゆいが陽子に聞いた。
「まさか。事務所宛に出したら、向こうで兄のところに転送してくれるはず」
「それよりさ、ヨッコちゃんのお兄さんって冒険家なの?」
異国を旅したらしい何重にも重なっていた封筒をつつきながらフウミンが言った。
「うーん、冒険家とは違うかなぁ。あえて言うなら秘境オタク?」
「「「秘境オタク?」」」
スタジオの声が揃った。
「そんなオタクがあるんだ!」
「うん、なんかね。元々は大学を卒業した山形でネイチャーガイドしてたんだよね。それがさ、何がどうなってソッチ方向に行ったか謎なんだけど。」
「ソッチって、どっち?」
「秘境方向?」
「そう。秘湯巡りくらいで止めてくれたら良かったのに、人類未踏の地への憧れ止まずとか言って、海外に行っちゃった。そんな家族がいるってさ、面白いけどメチャクチャ大変」
「わかるわぁ!」
夫が一風変わった戦場専門のカメラマンをしている凛子が、心から賛同した。
「でもイイな。うちのヤツは行ったらほぼ行方不明なんだけど、陽子ちゃんのお兄さんはたまにテレビに名前が出るんだもんね」
その後彼女たちの話題は初冬の山形旅行の話しに流れていくのだが、彼女たちが無事に山形の一軒家に泊まれるかかどうかは、杉井陽子の兄次第なのである。
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