五通目 過去からの「母の手紙」
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可愛い千代丸
いえ いまは菊池 四郎 武光殿でしたね
武光殿は今 どちらにおいでなのですか
もう元服を済ませ
今さら神隠しに遭ったとは 母はどうしても思えぬのです
僅か十四とは言え 鬼神のごとく剣も弓も達者なお前様が
人に遅れをとるはずがありませぬ
でもいくら初陣とはいえ お前様が討たれるはずはない
お前様には不動明王様と 観世音菩薩様のご加護がついています
そう母は信じております
なにか事情があってのことならば 母は全てを飲み込みましょう
なにゆえ姿を見せぬのか 言えぬ
しかし今こそ
お前様が お
この文を かの地に詳しい
文のひとつ 便りのひとつでよいのです
お前様の無事を 母に知らせてくださいませ
さすればこの母が 万の援軍を差し向けましょう
武光殿 いまこそ お前様の時なのです
いま菊池のお
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新月の庭はひたすら暗かった。高床の廊下に所々吊るされた釣り灯篭の揺れる灯りではその足元すら照らすことは無理だろう。水音が聞こえるのは庭に遣り水が引かれているからなのか。植えられた何かの葉が闇に隠れている自分の肩にかかり、風で首筋をくすぐった。
正面の御簾の奥には二台の燭台が置かれ、灯りに挟まれた艶のある文机で書きものをしている夫人がいる。さらさらと流れるような筆で何やら書き上げると、筆を置きほうと息を吐いて闇に向かって声をかけた。
「ウトモ」
呼ばれて影が一つするすると御簾の前に進んだ。夫人は墨が乾いたのを確認すると、先ほど書いていた紙をくるくると巻き、きちんと畳んでもう一つの紙で包んだ。その封書が御簾の下からそっと差し出され、影がそれを受け取り胸元に隠した。
廊下から消えた影は、次の瞬間自分の前に立っていた。
「お前の方がかの地に詳しい。お前が届けよ」
「え? わたし?」
そう言った自分の声で目が覚めた。
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