五通目 「母からの手紙」について私たちが思うこと


「それで? 目が覚めたら胸元からその手紙が出てきたわけ?」

不思議な夢を見たらしいフウミンこと横井史香に、北嶋凛子がワクワクしながらそう聞いた。


「まさか。手紙がそんなところから出てきたら、むしろホラーじゃん」

「そりゃそうか。マンガじゃないんだし」

「胸元から手紙は出てこなかったけどさ、ばあちゃんちになんかメチャ古い手紙っぼいのがあったなと思い出したわけ」

フウミンはそう言うと、大きなトートバックから巻かれた小ぶりの掛け軸を取り出した。


「なに、なに?」

隣のパソコンで写真の選別をしていた門野夕紀が目敏く見つけてキャスター付きの椅子ごとコロコロとやって来た。


「夕紀ちゃん。ほら、この夏にさ。家に眠ってるお宝を鑑定するあの番組が収録に来るじゃん。それに出そうかなと思って」

フウミンが掛け軸を広げながら言った。


 集まった皆で覗き込むと、それは表装された古い手紙だった。素人にも流暢と感じる筆文字はおそらく女性のもの。そこまでは全員がわかった。わかったが、いかにせん古文の素養のある者がいないのでそこから先何を書かれてあるのかについては、誰にもわからなかった。


「ねぇここ、武光ってあるよね。こっちは母?」

「あ、大友って読めない? これ、ほらここ」

「ここさ、14ってあるけど年齢かな」

分からないなりに、それぞれ読めたところを指さす。


「ここさ、ここ。不動って書いてある気がしない? あと菩薩? こっちは殿様、叔父かな?」

「すごい! さすが我らがリーダーゆいちゃん。賢いね」

「大友って、なんか聞いたことあるよね。歴史系のゲームだっけ」

「ねえ、もしかしたらさ。これって殿様に付いて京都とかのお寺巡りしてる息子の武光に出したお母さんの手紙なんじゃない?」

「あー、なるほどね。14才の修学旅行ってか」

「きっとそうよ。当時は新幹線もないし、修学旅行も大変だったろうねぇ」 

「ならこの手紙は安否確認と、土産のリクエストとかじゃない?」

「平和だねぇ」


 どんな時代も親子のやりとりって変わらないねと笑ったあと。全員がふと奥で仕事をしている青木オーナーを思い出した。ここで彼にも聞いてみるようかという雰囲気になったのを、ゆいが止めた。


『ダメ。青木さん、この前手紙で詐欺に遭ったんだって。今「手紙」ってワードに過敏になってるらしいよ』

五人にだけ聞こえるヒソヒソ声で大西美宇が言って、小野ゆいと頷きあった。


 その場に納得と憐憫の混じった空気が流れた。


 フウミンは掛け軸をもう一度見ると、みんなに声をかけた。


「ねえ。これ鑑定に値すると思う?」

「うーん、どうだろう。そもそもなんでフウミンんちにこの手紙があるの?」

「フウミンって大友さんちの子孫?」

「大友」だけは読み取れたた夕紀が尋ねる。


「親戚に大友って名前の人はいなかった気がする。母方のお祖母ちゃんが九州から嫁に来たらしいんだけど、そこの実家は菊池っていうんだけどね。そこんちがさ蔵を壊すから中のものを親族に形見分け? とにかくあげるって言ってね。それでコレもらったらしい」

「ふーん。ま、その番組で価値があるかどうかを鑑定してくれるんだから、出せばいいんじゃない」

「だよね」

「収録見に行く!申し込みまだ間に合うかな」


 凛子がウキウキと言った。


 

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