第11話

「ありがとうございました。でも戸籍って結構簡単に作れる物なんですか?」

「そうでもないよ。今回は村の代表者の推薦が一定数あったからね。薬師殿に私、マーロからの推薦だよ」


 ババアとマーロさんってどっちも村の重要人物だったのか。


「君が問題を起こせば、今回の推薦人にも迷惑がかかるから気をつけてくださいね」

「えっと早速なんですけど、さっき門番の方を殴っちゃって」

「聞いています。リュナ様に狼藉をしようとした門番ですよね、よくやりました」


 奥さんが既に把握していたらしい。村長さんは苦笑いで頭を書いてるけど問題ないのかな。


「この村以外に行くことがあれば、腕の件で嫌な思いをすることはあるだろうが、無闇矢鱈に暴力を振るったらダメだからね」

「はい、わかりました。その戸籍の登録ってなんか証明書があるんですか?」

「国内であれば小さな村でも首都との連絡手段があるからね、そこで照会してもらうことができるよ」


 そんな簡単に連絡が取れるんだな、無線機や携帯電話みたいな魔道具でもあるんだろうか。


「そういうシステムになってるですね。あと戸籍とは関係なんのですが、師匠のことを門番のおじさんが恩人と言っていましたがどういうことなんですか?」

「そうですか、薬師殿は気難しい方し、自分から功績を誇るような話はしないでしょうね」


 ババアのことを控えめな人間みたいに言うけど、たぶん別人ですよ。よく自分のことを天才とかドヤ顔で言うタイプです。


「この村を含めてブレイズ辺境伯領であった流行病を解決してくれた方でね。昔は私の母が村長をしていてね、その時に大変良くしていただいたんだよ。その縁もあって今でも村に住んでいただいているんだ」


 そんなことがあったのか。住んでいただいているとか、住んでくれててありがとうって感じの立ち位置なんだな。


「戻ったよ。登録は完了したかい?」


 ババアがタイミング良く、メイドさんに案内されて戻ってきた。

 普段は天才とか自慢してるくせに、余計な話や自慢はしないのな、このババアは。


「終わって、少し談笑をしていました。もう帰りますか師匠?」

「そうだね、用件も終わったしね。ライラ、これがうちの弟子が作った試作品だよ。感想を聞かせておくれ」

「いつもありがとうございます!」


 村の人達のためのクリームだったのか、確かにババアが使っても意味はないからな! ガハハ、何? 心読まれてるの、そんなに睨まないでくださいよ。

 ライラさんがババアのことを信仰していたのも、美容関連で心を鷲掴みにしていたのか腹黒いぞババア。


「薬師殿、少し相談がありまして」

「なんだい、暗くなる前には戻りたいから早めに頼むよ」


 村長って村で一番偉いんだよな? 横暴な態度で俺をソファから蹴落とすとドカっと偉そうに腰をかけた。一緒についてきたあんこはメイドさんに可愛がってもらってるみたい。誰にでもお腹を見せるのはやめなさい。


「以前にお話ししていたエレナの件です」

「ああ、アルデンの嫁に考えていた子だね」

「嫁! 師匠! 俺に嫁!」

「煩いんだよ! あんたが魔法を使えないから、薬師や魔道具作成の補助としてサポートできる子を探していたんだよ」


 そ、そんなことが、待てよどんな子なんだろうか? やっぱり順序立てて俺としては恋愛結婚をしたいと思ってるんだけど。それに俺には結衣が、でも異世界だしハーレムもありなのかな? ぐふふ。


「最終的にはあんたは魔法を使えなくても、薬や魔道具作成に進展があったしね、急ぐ必要もなくなったから断りを入れてたんだよ」


 断ってたのかよ!


「そ、そのエレナの件なのですが少し知恵を貸していただければと」


 村長の話ではエレナちゃん一五歳、俺の二つ下の子は村でも可愛いと評判の子! らしく、母親はエレナちゃんを産んだ時に亡くなり、父親も昨年に狩りに出た際に亡くなってしまったらしい。可哀想なエレナちゃん!

 この公国では成人した家族が亡くなった場合に一年間税の免除をされ、一年で立て直してくださいねって話らしい。

 エレナちゃんのような女の子であればいくつかの選択肢があったようで、一つは都会に出て仕事を探し、お金で税を支払う。もう一つは村に残って自分で畑を耕して食べ物で税を払う方法だ。

 ただ一五歳の少女が一人で畑を耕して税金分の農作物を出すのは大変らしい。最終的には村として収める税は決まっているので村長の采配で調整もできるようだが、可哀想ってだけで誰かに肩入れをするのは難しい、事情を綱領して最低限の税を支払うように設定はしたようだが、今年の納税金額に届きそうにないとのことだ。


 そうなると予想できていたババアはエレナちゃんに魔法的才能があると認識していたらしく、ダメだった時には自分がエレナちゃんの税金を支払うのでうちで引き取って奉公させたいと話を持ちかけていたらしい。

 村長としても村から弟子を取ってもらえるのであれば、病気などまた問題あった時にも安心できるし、最優先でババアに話を持っていくことになっていたが、俺の諸々が解決されたため話がなくなっている状況になったのだ。


 そうなるとエレナちゃんはどうなるのか?

 税金が払えない場合には強制的な労働施設に入れられてしまうので、まだマシな方法としては街の娼館などへの身売り。または村の蓄え余裕がある男に嫁入りすることだ。

 そうかなるほど、俺が嫁にもらおう。ババア、あとは頼んだぞ!


「それで改めて、弟子の嫁候補に考えてはくれないかってことかい?」

「それも少し違う状況でして、エレナは気立も容姿も良いの村の男達からの立候補者も多いです。彼女自身も村のことを好いてくれてますし、娼館などは心苦しいですから結婚を進めているのですが、どうやら将来を誓い合った相手がいるようで」


 けっ、結局可愛い子には彼氏がいるもんなんだよな。精々お幸せに帰りましょうよ、師匠!


「だったらその男に娶らせて終わりなんじゃないのかい?」


 そーだ、そーだ!


「それが、その子が成人前の十二歳でして、エレナの父と一緒に狩りに出てなくなっているのです」

「母子家庭で余裕がないってことかい」

「その通りです。ルーカスというのですが、今年の納税はなんとか母親と頑張ってできそうなのですが、とてもエレナの分もとなると。ルーカスの母親も自分の不甲斐なさで子供が幸せになれないのは耐えれないといくらかの金になるなら自分を売り出して欲しいと言い始めておりまして」

「だったら好きにさせたらいいじゃないか。あんたは村長としても人が良すぎるんだよ、だから禿げるんだよ」


 いやはやと、村長が禿頭を自分で撫で回す。苦労してるんっすね。

 流石は異世界、せちがれぇ。

 ババアがキセルを出して、吸っていいか確認もせずに火をつけると大きく煙を吐き出す。マナーどうなってるんだよ。


「昨年のこの時期にもアークスカイが出ていたからね。小遣い稼ぎに出てとこかい、私やマーロで見つけて狩ることもできなかたしね。多少は責任もあるかもね」

「とんでもないです。薬師殿やマーロのせいではありません」

「ルーカス……母親はエマかね」


 村長が首を縦に振る。

 ババアも知っている人なのかな。小さい村だしそれなりに顔見知りはいるんだろう。


「わかった。二人まとめて私が引き取ろうじゃないか。アルデンのこともあるし、居て無駄にはならないだろうさ」


 え、俺が関係してくるの?


「早くも狩人の弟子ができるよ、よかったねアルデン、ルーカスを立派な狩人に仕上げてやりな」

「俺がやるんですか!」



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