第10話

 作成したのは塗り薬、肌荒れを予防するためのものでもあり、お肌もプルプルになるどこに塗ってもいい商品ではあるが、ハンドクリームの役割も果たすので水仕事をしている人にとっては最高の品となるであろう。

 その塗り薬を普段、水仕事なんてしないババアが吟味するように塗り込んでいる。これは一種の試験で確認だ。でもさ、クリームじゃなくて、傷薬とか別の物でも良くない? 単純にババアが自分で作るの面倒でやらせてるだけなんじゃないのか。


「悪くないね」


 ババアが驚いている。そりゃそうさ、一回目は一時間ほどで作成したものをボロクソに言われて、二回目は下処理を更に丁寧にしたけど、微妙の判定。

 三回目は魔力を込める量を増やしたがこれも並、そして今試している四回目は使用する薬草以外に香りの良い花や素材も工夫したんだ。下処理や素材も増えて三十グラムくらいのクリームを作成するのに三日もかかってしまったけど。


「でもこれではコストパフォーマンスが悪すぎるんですよね」

「そうさね。ただアルデンの手順であれば誰でも道具さえあれば作ることはできる。立派に一歩前進してるじゃないか」


 聞き間違いだろうか。ババアが俺のことを褒めただと?


「何を馬鹿ずらしてるんだい。私だって褒めることことくらいするよ」

「ありがとうございます!」


 ここは素直に喜んでおこう。ババアもやっと俺の凄さがわかってきたみたいだな。


「このクリームを後七つほど用意しない」

「な、七つですか! これ一人で作るの結構大変なんですよ」

「完成したら村に連れて行ってやるよ」


 え、マジで! ここに来てやった村に案内してくれるのか!

 村ってことだし規模はそこまで大きくないかもしれないが、ケモ耳少女を見れたりするのだろうか。

 売ってる物も見てみたい!


「頑張ります!」

「頼んだよ」



 ★★★


 七つ作るということは単純計算で二十一日はかかると思うじゃん?

 まとまった量を作る苦労は増すけど、十五日ほどで目標の個数を品質を維持したまま作ることができた。

 ババアのチェックも無事クリアして、雪が多くないタイミングをみて異世界初の村へとお邪魔することになった。


 雪の中を歩く場合にはカンジキ? っていうんだったかそれと似たような作りをした物を装備して歩く。

 これで雪の中にズッポリと埋まることはないのだ。

 あんこは軽いおかげもあってか、埋まることなく、誰も踏みしめていない雪の上をピョンピョンと飛び跳ねている。可愛すぎだろ。耳が上下に揺れている姿を見ていると兎さんみたいだ。


「今日の目的はアルデンの戸籍を作成することだよ。村に着いたら村長のとこに行くからね、あとはあんたの腕の件もある。村人から警戒される可能性もあるから不審な動きはするんじゃないよ」

「は、はい」


 そうか、俺は犯罪者扱いだものな。

 他の国でも犯罪者の体の一部を切り取る刑罰はあるらしく、怪我とか事故と言って下手に隠すと後々碌なことにならないから正直に話した方がいいと釘を刺された。


 歩くこと三十分、森が終わったと思えば、雪原の先に建造物が見た。

 更に十分歩くとやっと村の前に到着する。簡素ではあるが木で組まれた城壁に物見用の高い建物もある。

 村を出入りする入り口には若い衛兵と髭を生やした熟練っぽいおじさんの衛兵さんが二人立っていた。


「これは薬師殿、お久しぶりです」

「ああ、村長に会いに来たんだ」

「そうですか。それでその男性は?」

「私の弟子だよ」

「薬師殿にもお弟子さんが、それはよかった」


 おじさんがよろしくと手を出してくるので、握手をするが右手だったので俺が義手であることに気がついたようだ。


「薬師殿これは」

「そいつも私と同じく犯罪者だよ」


 おじさんが少し困っている。俺としては犯罪者ではないと叫びたいくらいだ。


「薬師殿が連れて来たお弟子さんだ、同じように事情をお持ちなんでしょう。どうぞお入りください」

「待ってください! 犯罪者であれば検査する必要がある! そもそもそのババアだって信用できるかわからない」

「村の恩人に向かって貴様は−−」


 −−おじさんが何やら若い門番を怒ろうとしていたが、槍を突き出してババア呼びしてくるので、イラっとして手を出してしまった。なお、後悔はしていない。

「これは、薬師殿、見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません」

「若者が私を敵視するのもわかるさ、気にはしてない。行くよアルデン」

「はい。って怒られるか思いました」

「まぁこの村では多少の無茶もいいがね、今後は気をつけな」


 以外に機嫌がいい。門番のおじさんにも怒られるどころか謝られてしまった。

 ところで恩人とか、ババアはどんな立ち位置なんだよ。

 村の作りとしては意外にこ綺麗で、道も整備してあるし、悪臭までの臭いもしない。

 家の作りもしっかりしていて、石と木で作られており、平家がほとんどだけど二階建の家なんかもある。


「ここだよ」


 平家の家の中でも村長の家というのは二回りは大きく、庭にも丁寧に手入れされている。

 師匠がドアについているノッカー的な物を何回か叩くと禿げた温和そうな男性が出てきた。身長も俺と同じくらいで170センチはないだろうが、少し見え隠れする筋肉を見ればわかってしまう、俺の理想、憧れに近い素晴らしい肉体美をしている。


「薬師殿、お久しぶりです。寒いのでどうぞ中に」

「いや、私は行くとこがあるから弟子の戸籍登録を進めておいてくれるかい?」

「わかりました。それではアルデンさんでしたね、話はマーロからも聞いているのでどうぞ」

「よ、よろしくお願いします!」


 玄関を通りリビングに案内されると、メイドさんらしき中年女性がすぐにお茶を出してくれる。

 ソファに腰をかけると、村長さんが最初に挨拶をしてくれた。


「私がこのモス村を管理している村長のモス・グリーンです。よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします!」

「元気があってよろしい。気になりますか?」


 気になるか? なりますとも、一つ頷くと村長が上着を脱ぎ捨てポージングをする。す、凄いプレッシャーだ! 筋肉プレッシャーだ!

 負けじと俺も上着を脱ぎ捨て、俺の子供達を見せつける。何度かポージンを繰り返していると、メイドさんではない別の中年女性が出てきて、村長の頭を掴むと全力の膝蹴りを顔面にキメてきた。


「そ、村長!」

「貴方は何をしてるんですか暑苦しい。薬師殿弟子でしたね、貴方も服を着なさい」

「は、はい」


 怖い、この人怖いぞ。村長の奥さんかな。


「妻のライラです。夫だけかと思えば馬鹿が増えたようなので監視させていただきます」


 ば、馬鹿って言ったよ。俺達はただお互いを讃えあっていただけなのに。


「ゴッホン、では改めてアルデン君、戸籍の登録を始めていこうか」

「はい、お願いします」


 これまでの経緯や生まれなんか聞かれた。と言ってもババアが事前に話を通してくれてたようで、改めての内容の確認って感じだった。

 ただ異世界から来た人間だということも伝わっているようだったが、余計に驚かれたりとか特別な対応などはなかった。この世界では比較的あることなのかな異世界からの召喚。


「内容の申告に間違いはないし、これで申請しておくからね。これで君はモス村のアルデン・シルバーブラッドだよ」


 シルバーブラッドってババアの姓じゃないか。弟子って師匠の苗字を名乗るもんなのかな。

 

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