第9話
自作の魔道具の検証が終わり、マーロさんは帰宅したので、家にも取って夕食を食べて一息つく。
ババアは食後のハーブティーのような香りがよい薬草茶を楽しみながら、あんこを膝掛けがわりにモフモフしている。
季節としては水月の終わりでこれから風月といういわゆる冬に突入するらしく、より冷え込んでくるらしいので、犬をモフるのは年中素晴らしいがより、楽しい季節になってくる。
「アルデン、あんたはまだ、薬学も魔道具作成もやりたいと思ってるのかい?」
洗い物が終わったタイミングを見計らってババアが声をかけてくる。
ババアの正面に座って、首を縦に振る。
「物好きだね。魔力はあっても魔法を使えないあんたにとってはただ辛いだけだよ」
「物好きってのも的を射ていると思います。興味本位、知識欲、チャレンジ精神、自分が便利に暮らしたいっていう怠惰な理由もあります。異世界に来る前の俺だったらここまでやる気に満ち溢れていることもなかったんですけど、一回死ぬような思いにあってこの世界を生き抜くために、師匠がいなくなったとしても生きれるように学びたいんです」
「そうかい。もう時期雪も降る、家に籠る時間が多くなって暇になるからね。雪が降り始めたら開始するよ。それまで獲物をたんと蓄えておきな」
「はい! お願いします!」
★★★
あんこと狩りに出て二ヶ月もしないうちに雪が降り始めて、あっという間に銀世界になり、冬でも育つ薬草の世話の方法や基礎的な処理の仕方を学んでいく。
「魔道具を作っての薬草の作成ね。道のりは長そうだけど考えはあるのかい?」
「はい、魔道具を作るための印を掘るナイフのようなものを作成するのは簡単なんでしょうか?」
魔法を通せるようなすり鉢とすりこぎの絵を描いて、見せる。
薬草いついては魔力がなくても作成は可能と教わったがその効果は著しく下がってしまうらしい、これも薬学は発展しない理由の一つではあるのだろう。
薬草作りにも魔力が関わっているのであれば、魔法が使えないものでも魔力を通せる機材を用意するればいい。
ババアほどの速度で大量の薬を作ることはできないが、原始的な道具であるけどこれがあれば、抽出と攪拌は行うことができる。
「凝縮はどうするんだい?」
「これですよ」
右腕をババアに見せると納得してくれたようだ。凝縮については魔法でやればあっという間だがある程度煮詰めて水分を飛ばし、最終的にはこの手袋で凝縮、握りつぶして無理やり凝縮する。あとは手作業で玉状にしてしまえばいい。できれば義手ではなくそれ専用の手袋も作成したい。
「これは面倒で忙しくなりそうだね」
面倒という割には楽しそうに笑っている。俺の案が気に入ってくれたようで何よりだよ。
「魔力を通すだけの魔道具であれば、この天才の手にかかれば難しくはないよ。でもね、銀盤も含めてその元となる物は魔法の熟練者にしか作ることができないよ。あれも基本的な作りは方は薬作りと似ているからね」
実際に作成方法を見せてもらった。
家にあったすり鉢にまずは魔法を使って魔術を馴染ませて、それは更に凝縮すること二時間。
ただこれだけの工程で魔力が通せる道具が完成してしまった。工程も短く簡単そうには見えるが、ババアが寿命が縮んでしまっているのではないかというくらい、汗をかいていた。
「師匠、大丈夫ですか?」
「心配ないよ。次はすりこぎかい」
シンプルな工程に見えるけど、これを例えばだけど、職人さんに魔力が通った道具用意してただ同じ手順で作成したとしても、魔力が通せる道具が作成できるのだろうか? 検証してないができない気がする。
道具という根幹の部分を魔法が扱える人がいないと作成できないのは困る。ババアが生きている間に何個か作ってくれるかな? 死にんじゃいそうだから別に考えてみよう。
ババアのおかげで薬を作るため道具は完成した。
これで失敗したらどうしよう。
その後にもババアが言う銀盤、基盤の作成方法も見せてもらったけど、基本的にはすり鉢などを作るのと同じ方法だった。
「でも魔道具ってなんで武器らしい、武器がないんですか? 試されなかったとかですか」
「昔は剣そのものに銀盤を溶かして混ぜたりもしたけどね。脆くなる、そもそも出力が出ない、なども問題点があったのさ。この銀盤はね一定以上の出力が出ないように設定されているんだよ。金属が希少な物に変わったりすれば高出力の物も作れるだろうけどね。試すだけでも莫大な費用とリスクが伴ってくる、割に合わない話さ」
俺が作った矢も少し風の恩恵を受けては入れるけど、基本的には弓の性能に助けられてるからな。
「それを度外視した物も存在はするんですか?」
「伝説級の道具としては存在するね。それこそ、遺跡から発掘されるような貴重品だよ。作成は基本的には不可能だよ」
伝説級、見てみたいなぁ。
それにしても聞けば聞くほど、魔道具も薬学も錬金術寄りの技術だよな。色々派生して今の技術に落ち着いているのかな。俺ももっとパパッと魔術が使えればなぁ。
「伝説級の魔道具にはそもそも銀盤などはなく、その道具自体に見えないように複雑な印が刻まれていてね。魔力を通した時にその印が武器全体に浮かび上がるんだ。美しいよ」
「師匠は見たことあるんですか?」
「ああ、ブレイズ辺境伯家にある、セレスティアルの杖をね。作るとこまで見せてもらったもんだよ」
「作るって、さっきは無理って!」
「基本的には不可能と言っただけで絶対に無理じゃないよ。まぁ理の外にいるような実力者でないと作れないけどね」
「それで誰が作ったんですか?」
「私の師匠さ。エルフの方で長年年月を生きているのもあるけど、全ての技術が卓越している。ブレイズ家も師匠の子供が起こした家なんだけどね。気まぐれに現れたタイミングで今の当主であるエレナ・ブレイズの生誕を祝ってその場でものの五分で作っちまったよ」
ば、バケモン。でもまかさだけどさ、ババアは自分のことを天才とか盛ってないよね? 方やすり鉢に二時間で方や、伝説級の仗を作成するのに五分。でもババアも森であったバケモノを瞬殺していたし、その師匠が凄すぎるんだろうな。
「その杖にはどんな力があるんですか?」
「天候を操る力があるよ」
や、ヤベェ神様の持ち物じゃないっすか!」
「扱う者も選ぶし、使う魔力量が多すぎてね、一般人なら握った瞬間に死んでしまうだろうさ」
ある意味でトラップ武器なのか!
「俺とは一生、縁のない道具ですね」
「だといいさね」
変なフラグを立てないでください!
あんこを抱いてババアは寝室に行ってしまった。あの、あんこは俺の召喚獣なんですけど。
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