第8話

 息を整えろ、次が来るぞ。

 竜が急降下して木を小枝のように薙ぎ倒しながら俺に襲い掛かってる。これ、映画で見たことあるかも。


 弓を絞る時間もない。どうする? また逃げれるか? いや、今回は逃してくれなそうだ。

 巧みに退路を断たれ始めてる。


「あんこ! 出たらダメだ!」


 収納していたはずのあんこが一人で駆け出してしまった。どうしてお前は勝手に出てしまうんだよ! そんな召喚獣ありかよ。

 あんこは怖がって逃げたわけではない、しっかりと敵を見据えて走っている。あいつ、囮になろうとしているのか。戦闘力なんて皆無のくせに、やめろ、やめてくれ。


 召喚獣に死という概念はない。時間の経過で魔力を消費すれば改めて召喚は可能だ。あんこを餌にもう一度、狙いを定めて倒すんだ。でもあんこを餌に狙いを定めては間違いなく、死んでしまう。

 ダメだよ、また呼べるとしても、あんこが死んじゃうとこなんて見たくない!


 無防備な背中に急いで弓を射る。無事、あんこから俺に狙いをずらしてくれた。


「あんこ、無茶はするな! 俺なら大丈夫だ、なんとかする」


 そんな心配そうな顔をするな。後でしっかり叱ってやるから待っとけ。

 腰か小袋一つ出す。結構貴重なもんなんだけどな。

 怒ったのか、高く跳び上がり、勢いをつけて俺を轢き殺そしているのがわかる。


 こいよ、こい! ギリギリのとこで飛び、転げ回りながら直ぐに立ち上がる。

 小袋に入っていた香辛料が見事に当たったようで、苦しんでいる。ババアに内緒でちょっとづつくすねた大事な調味料の味はどうだい。


 特性の魔道具化した矢を取り出し、地面でのたうち回っているアークスカイの首をゆっくりと狙う。深呼吸、息を止めて矢をいる。少しずれてしまい、また首に命中したが突き刺さることはなく、貫通し細い首の半分を削り取った。これはこれで当たりか。


 首がもげそうだというのに戦意を失っていない。まだ戦う気か?

 まだ矢はある、次でトドメをさす。


 二回目に放った、矢は頭に命中し、脳みそを弾き飛ばした。正直グロい。

 勝つことができた。あんこと香辛料の勝利だな。


「わん! わん!」


 あんこが上空に向かってまた吠えている。嘘だろ、一、二、三、八匹のアークスカイ? これは負けイベントどころか、強制で死ぬイベントじゃないか。


「騒がしいと思っていたら小鳥共が群れているねぇ」


 空飛ぶババアだ!


「アルデンさっきの矢はなんだよ? 後で詳しく教えろよ」


 マーロ先生! 


「マーロ、撃ち漏らしたのは頼んだよ」


 ババアがどこからか綺麗で大きな宝石? 魔石? がついた杖を取り出し。

 

「サンダーフューリー」


 ババアが魔法の名称? を呟くと、綺麗な雷が竜の群れに向かっていき、一種にして地面にバタバタと落ちてしまった。

 小鳥なんて表現を使うだけはある。ババアからしたら小鳥と変わらない存在なんだろう。


 それでも一匹は撃ち漏らしてしまったようだったが、マーロさんがいつの間にか首を切り落としていた。

 この人は接近戦もいけるのかよ。


「逃げないだけ、他の獲物より楽で助かる」


 んな訳あるか!

 この二人はきっとあれだ、この世界でも屈指の力を持ってるに決まっている! そうだよ、逆にそうじゃなかったら怖いよ。


「アルデン、随分とでかい獲物を狙ったな」


 からかうようにマーロさんが声をかけてくる。好きで戦ったわけでないよ。

 

「俺だってやればできるんですよ」

「満身創痍なくせによくいうぜ。薬師殿の許可が降りないもんでヒヤヒヤしたぜ」


 見てたのかよ、だったら助けてくれっつーの。

 不満そうな視線をババアに向けると、文句でもあるのかい? と睨み返されてしまった。いえいえ、文句だなんてめっそうもないことです。


「あのまま隠れていればやり過ごせただろうに。馬鹿な弟子だよ」

「もっと賢ければ右腕も健在だったでしょうね」

「あっはっは、違いないね!」


 ババアにウケたようで何よりです。

 村の狩人さん達も戻ってきてくれて沢山お礼を言われた。俺が助けなくたってこの人らがいましたから、気にせんでください。俺がしたことは余計なお世話だ。

 カッコつけて出て行ったのに恥ずかしい限りだ。


「なんにしてもよくやったよ」


 褒めるのであればそんな小声ではなく、もっとちゃんと褒めて欲しいものだ。



 ★★★



 家に帰宅して疲れからか、すぐに寝てしまった。

 翌日になってババアとマーロさんに呼びだされる。俺が作成した魔道具についてのヒアリングなどがおこなわれた。


「うーん。三級品って感じだな、使える奴を選びすぎる。柔い弓だと弓自体が壊れちまうし、かと言って固い弓だと扱える奴が限られる上にこの命中精度だ。マニアックな人気は出ると思うが、一般的な評価は2級どころか3級だな」

「そうかい。基盤を小さくして埋め込むって発想は面白いんだけどね」


 なんでも魔道具自体がそこそこ新しい技術なので、俺がやっているような研究は進んでいないらしい。

 魔道具ってのは一つの基盤にいかに美しい旋律を奏でることができるか的な技術だそうで、俺がやっている簡易化か邪道らしい。


「難しい方向だけ見てたら、発展させるって難しくないですか?」


 何故か、二人のツボにハマったらしく爆笑されてしまった。

 

「そもそも魔道具自体がお貴族様や上流階級のものだからね。高級志向にはなってもその逆はないんだよ、あんたの考えは異世界人独自のものなのかもね。道具や知識は上流層になるほど独占したがる」


 やっぱそういうもんなのか。俺の世界だってあながち違いはない、上流階級だけが握っている情報だったりあるし。


「他に考えた物はあるのかい?」

「今考えてるのはドライヤーっていう髪を乾かす製品も考えてるんです」

「それならもうあるよ」


 ババアが当たり前のように、ドライヤーに似た形の木と鉄でできた魔道具を持ってくる。

 もうあったのかよ。


「ただ壊れてしまっているんだ」


 ババアが持ってきたドライヤーは確かに動かない、何度か分解しているのか慣れた手つきで分解した後の基盤を見せてくれる。複雑だけど、綺麗な刻印だ。


「私では再現ができなかったよ。もう30若ければ細かい作業もできただろうにね」


 このババアは何歳なんだよ。

 側があって装置としても完結しているなら、俺は基盤をはめ込むだけだからそう難しくない。

 許可をもらって作っておいた基盤二枚を薬液? で貼り付け、魔石に接続できるように魔導線という道を溶かした基盤で作る。なんかハンダ付みたいだな。

 熱と風のシンプルな作りだが、力加減も調節している、どうだろうか。


「おお、動いたな、熱風が出てるぞ」


 マーロさんの髪の量ではあまり必要にない代物ですよ。


「あんたには必要のない代物だろ。貸しな」


 わ、笑ったらだめだ。、マーロさん、俺は笑ってないからそんな見てこないでくださいよ。


「こんな簡単に作れてしまうのかい。問題点はあるけど、賢い方法だね。天才であるが故の過ちだね、上ばかり見て下を見てなかった」


 さりげなく自慢しやがって、でもドライヤーを撫でる姿は何かを思い出すように優しい手つきで、喜んでもくれているようなので良しとしよう。


「師匠、問題点って何があるんですか?」

「二枚の基盤でシンプルではあるが、魔力の消費効率がシンプルだからこそよくない。普段使いするには十分だとは思うけど、魔道具技師からすれば二流品と揶揄される品になるだろうね」


 活用できるなら悪い品ではないと思うんだけどなぁ。


「ある程度知識がある者なら再現可能で手軽に利用できる優しい作品だと思うよ。私は嫌いではないね、あんたらしい作品だよ」


 俺自身を所詮二流だと揶揄してますか?

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