第7話

 うん。いい具合だ。テストは一回だけだったけど、単純にパワーで矢のブレを抑え込んで、真っ直ぐ飛ぶようにはなった。不安点があるとすればやっぱり普通の弓と違って正確性にかけることだ。

 マーロさんにはフルプレートの騎士と決闘でもするつもりかと言われたが、そんな予定は俺にはないし、これからも合って欲しくない。

 矢を魔道具化しなくても、距離によっては鎧を貫けるくらいの威力はあるらしい。そう考えるとちょっと怖いな。


「結局、弓は二つ持っていくのよ。邪魔じゃないか?」

「コンパクトに仕上げてもらったので大丈夫です。獲物によって使い分けようかと思っています」

「ドラゴン種でも相手にするつもりかよ」


 変なフラグを立てるのはやめてよね!


「では、行ってきます」


 あんこに扇動してもらい獲物を探す。

 まずは手頃な兎系の魔物がいいなーって話をしたら、わかったと言わんばかりに尻尾をブンブンと振ってくれた。あんこは基本的に吠えない子なので、瞳の動きや行動、尻尾でやり取りを判断する。

 犬というのは言葉がなくても実に表情豊かで、悪いことをした時なんて絶対に目を合わせない。俺が気づいてないところで、おしっこをしていたが、目を合わせない事から家を隈なく確認して発覚したこともある。少しおバカなとこも可愛いのである。


 日本にいた時よりも一緒にいる時間も長く、家の外の森が庭のような物なので、開放的な生活をさせてあげれていることはこの世界にきてよかったなぁと思っている点ではある。


 あんこの足が止まり、鼻をひくひくとさせている。

 俺なりに気配を察知していたけど、もう何か見つけたのかな? 

 あんこの視線の先、茂みから隠れるようにして覗き込んでみると、フォレストアンテラという兎がいた。

 前に見つけたレアなウサギとは違い、この森に生息する一般的な種類のやつだ。


 普通の弓を使ってもよかったが、試しにとマーロさんが持ってきてくれた銘は【ストームブリーズ】、前に買ったストームホーンの角をメインに作られた弓だ。

 落ち着いて引き絞る。筋肉がやっと使ってくれたのかと喜びの悲鳴をあげ、かっちりと姿勢を固定するし、指を離す。


 矢はフォレストアンテラの首などを吹き飛ばし、木に刺さった? というよりは木に激突してひしゃげてしまった。

 うーん、フォレストアンテラの大半を吹き飛ばした上に矢まで完全に再利用不可能にしてしまうなんて、狩人の弓としては不適切な物だったな。これで魔道具化した矢を使用したらどうなるのか。


 あんこもせっかく見つけたのにと、半分くらいになった獲物の姿を見て、取り分が減ったと残念がっている。

 気を取り直して狩りを続行したところ、通常の弓に戻してフォレストアンテラを追加で三羽ゲットすることができた。


 十分な成果は出たが、欲を言えばもう少し大物も狙いたい。時間はまだあるので簡単に腹ごしらえをする。

 半分ほどになってしまった、血抜き、内臓などを避けたフォレストアンテラを簡素な竈を作成して串焼きにする。焼き具合はあんこ料理長に判断していただき、その間に食べれる野草を集め、水でさっと洗い流す。焼き上がった肉と野草、塩と薬草で作ったペッパー的な物をふりかけてパンでサンドすれば完成だ。


「まぁまぁ美味いな、あんこ」


 あんこが夢中で食べている姿を見れば気に入ってくれはしたようで安心した。

 できるだけ身軽な状態できているので、野草などが現地調達できるのは森に感謝だな。ただあんこが毒はない、食べれるよと判断してくれただけで、こ野草の効果はいまいちわかってはいない。

 突然、体から草が生えたりしてこないよな? ねぇ、あんこさんや。

 なに? と首を傾げてこっちを見ている姿が可愛すぎる。ちょっと俺にモフられるかい。


 膝の上に乗せて、寝そべるあんこをモフモフしていると、突然起き上がって膝から飛び降りる。


「どうした?」

「わん! うぅううー! わん!」


 あんこが吠えた! おいおい、空の上に向かってて危険な魔物がいるのか?

 なんだあれ、でっかい鳥? 本棚になった魔物事典で見たことある気がする。なんだったかな、よく見ていたページがドラゴンとかグリフォンとか巨大な蛇の魔物とかカッコよくて見てて満足できるようなのばかりだったんだよな。それってで見たことあるってめっちゃ危険な生物じゃない?


「アークスカイだったか? 亜竜種、図鑑で見ていた魔物中ではマシだけどさ、偉い人はよくいったもんだよ。フラグは回収するためにあるってさ。逃げぞあんこ! 一旦、中に入ってくれ」


 召喚獣であるあんこを、収納して食べかけのパンを咥えて走る。

 こんなイベント聞いてねーよ。亜竜だけどあんな迫力の魔物勝てる気がしない。

 大きな体が邪魔をして森が深いとこに入れば中に入ってこれずに、見失うはずだ。


 上空からの視界を切るようにして、できるだけジグザグに大きな木々の下を走り、道中にあった匂いの強い草を体に擦り付けて匂いを誤魔化し、最終的に見つけた倒木の下に身を隠す。

 どっかいけ、どっかいけ、どっかいけ。


 何日、何時間、何分経過した? 体感、めちゃくちゃ長く感じる。実際は数分だろうか。

 気配が消えた? あんこを胸元から召喚して、いつでも収納できるようにしながら、同じように気配を探ってもらう。


「いないよな?」


 鼻をピクピクさせた後に、倒木の下から先に出て行ってしまったので問題はないようだ。

 ババアやマーロさんは気がついているだろうか?

 これは試験どころではなくなったでしょ。

 空の上を警戒しながら、ババア宅へ急ぐ。ババアでも対処できなかったらどうしよう。


「うぁああああああ」

「助けてくれ!」


 茂みに身を隠す。誰だ? 狩人か? マーロさんと同じ村の人間だろうか、みんなマーロさんみたいな筋肉お化けかと思ったら、普通だ、普通の狩人が普通にアークスカイに追われている。

 狩りを楽しんでいるようで何回か頭の上ギリギリを通過して、傷を負わせている。悪趣味な野郎だ。


 賢い人間であれば、このまま身を潜めて彼らを見捨てる。そう、俺は賢い人間なのだ。気配を消して、彼らが餌になっている内に逃げる。そうだ。

 なんで、俺は弓を引き絞っているんだっけ?


 ストームブリーズから放たれた矢は見事に巨体の首元に命中した。狙ったのは頭だったんだけどな。


「今の内に逃げろ! 走れ!」


 誰だこいつは? みたいなリアクションをして少し戸惑ってはいたがそのまま走って行ってくれた。

 その間にも二回、三回と矢を放つが巨体からは想像できない速さで躱されてしまう。


 獲物を俺に変更したのかバッチリと目が合ってしまった。

 こなくそ。やるしかないか。

 

 


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