第6話

 卒業試験は一人での狩り。あんこを連れて行ってもいいとのことで、今の俺であれば大型の魔物と出会わない限りは楽勝だろ。ガハハ。

 なんて余裕を見せていれば俺のようなモブキャラは直ぐに死んでしまう。俺が好きなタイミングで挑戦ができるとのことではあるが、そんな展開にならないように入念な準備をする。


 まずは魔道具作成。ババアは碌に相談に乗ってもくれないが、勝手に試すのはオッケーをもらっているので最近、試行錯誤を繰り返しているのだ。

 この世界の魔道具を作った人は恐らく天才で、ババアの作った物も再現をするのが難しいと言われた理由は一枚の銀盤、地球でいうところの基盤に複雑な紋様を入れて、掘るための魔道具に入れる魔力の力加減まで気にかけないといけないことが要因だ。


 複雑な機能を持つ物以外であれば、わざわざ一枚にまとめずに小さな基盤にそれぞれの機能を持たせてシンプルにすればいいのではないかという構想だ。

 ドライヤーとかも試してみたいが、基盤だけでなく、外側も必要で実験もできないから、弓矢の矢の部分に一つ改良を加えてみる。


 基盤を小さくカットして、風を噴出するための印を掘って、矢の方に貼り付けというか、埋め込みをしてみる。印を掘るためのナイフも基盤の大きさと比べると大きく、矢に埋め込むのも苦労したがなんとか完成に至った。


「早速実験してみよう」


 筋トレと鉄の棒を振り回す日課をこなした後に弓の練習時、ババアがあんこを膝の上に乗せて昼寝をしているタイミングを見計らって検証してみる。

 なぜ隠すのかだって? だって奥の手は隠しておいていざという時に公開して驚かせたいだろ。

 合体できるロボットが最初から合体をして出てこないのと理由は一緒さ。


 引き絞って放った矢は思った通り加速して飛んでいくが、元のパワーが足りないのか、技術なのかブレて的に中々当たらない。当たりさえすれば十分な威力ではあるが、当たった後も矢自体が粉砕してしまう。

 これは練習用の矢では軽すぎてダメだな。でも実践用の矢は無駄遣いするなって言われてる、半分はぶっつけ本番か?

 でも弓自体にも付加がかかりすぎている。実践用の矢で放った時壊れないかな。


 弓の練習から戻ると家の前にちょうどマーロさんがいた。これぞ神の采配。


「マーロさん、丁度いいとこに。お願いがあるんです」

「やっと試験を受けるつもりになったのか」

「いえ、弓の威力が出せる硬めの弓が新しく欲しいと思いまして、なんとかなりませんか?」

「アルデン、お前、ほっとくと冬になるぞ。やる気あるのか」

「あるからこそ弓の新調をお願いしてます」

「たくっ、前に狩ったストームホーンの角があるし、依頼すれば作ってはおもらえるはずだが、条件がある。弓を受け取ってから一週間で卒業試験を受けろ。俺だって暇じゃないんだ、そもそも試験なんてしなくたって一人で問題ないだろうに、過保護な薬師殿だよ」


 ブツブツとマーロさんが文句を言っている。

 とりあえずは受け取ってから一週間なら、弓が完成するまでの時間はわからないが二週間くらいは色々と研究する時間はあるだろうか。


「わかりました。それでお願いします」


 マーロさんを見送っていると、あんこを片手に抱えてババアが家から出てくる。


「やっと試験を受けるつもりなったのかい。怠け者」

「怠けてはないないですよ、慎重派と言ってください」

「度が過ぎるのは何事もよくないねぇ」


 働かないニートに対しての嫌味のように。こっちは毎日毎日雑用に追われて仕事はしてるんだぞ。

 確かにそれ以外はトレーニングばっかりで実質の生産性はないんだけどさ。


「師匠、狩りの訓練もいいんですけど、これに合格したら本格的に薬学とか魔道具作成教えてくれませんか?」

「ふんっ、少しついてきな」


 ババアに言われるがまま着いていくと、母家とは別にある薬草の調合、管理をしている小屋入っていく。

 掃除とか手伝いでは入ったことはあるものの、調合部屋まで入ったことはない、母家よりも金が掛かっているのではないかと思える小屋? で、薬草を育てるサンルームまで併設されている。


 調合部屋はなんというか、ゲームで見るような錬金術師の部屋って感じだ。

 水回りも完備され、中央には大きな壺が鎮座している。


「少し見ていな」


 ババアが薬草を手に取ると、【抽出】と小さく唱える。手元には淡い青みがかった水玉が現れ、それを壺の中に落とすと、次に乾燥した薬草をいくつか入れて、水を追加していく。

 次に【攪拌】、【凝縮】と順番に唱えていく。

 最終的に完成したのはコロコロした玉の錠剤、どんな効果があるんだろうか。


「見ての通り、薬を作るには魔法が必要になる。人には向き不向きがある、諦めなアルデン」


 ものの二十分ほどで薬を作り上げてしまった。魔法ってすげぇや! なんで俺は使えないんだよ。

 ババアが行っていた工程ってさ、魔法がないといけないのかな。

 魔道具作成をしている時に使っているナイフみたいに魔力を通せる機材があれば再現可能じゃないかな。

 攪拌や凝縮だってそれ用の魔道具を作ればいいわけだしさ。


「何を考えているのか知らないけどね。回復魔法がありふれたこの世界ではそもそも薬学なんてコスパが悪すぎなんだよ」

「役に立たない技術ってことですか?」

「役に立たないってことはないさ。薬でなかれば治療できないこともある」

「だったら−−「でもね、それ以上に回復魔法で事足りてしまうんだよ。昔に比べれば体への負担も研究が進んで減った、強い回復魔法であれば毒まで治療できるものもあるからね」


 魔法ってやっぱすげぇんだな。薬学なんて意味ないやん。


「その回復魔法って結構な人が使用できるんですか?」

「一握りさ、それこそ私に並び立つような天才だろうね」

「それって助かるのも一握りになっちゃうんじゃないですか」


 ババアがまたこいつは変なことを言い始めたと、椅子に座ってキセルに火をつけ始め、大きく煙を吐く。


「そうだよ。回復魔法を受けられるなんて金持ち連中だけさ、あんたはこう言いたいんだろ? だったら、それ以外の人はどうなるんだって。そもそも薬学だって薬草も貴重で見つけにくいものが多い、しかも熟練した魔法使いでもないと品質も低い、魔法と同じなんだよ。回復魔法と比べて効力は専門的で微妙、使い手も更に少ない」

「微妙な立ち位置なんですね」


 ババアは納得いかないなら試してみるといいさねと、キセルを咥えたまま出て行ってしまった。

 そこまで薬学にこだわりがあるわけでもない、将来性がないなら頑張って覚えることもないのかな。

 魔道具作成だって工夫で少し前に進んでいる。それに俺自身があんこしか召喚獣がいない微妙な存在な訳だし、そういう特殊で微妙な技術を覚えておけば役にたつ機会はあるんじゃないか?

 それに薬学って技術が廃れて無くなっていいものだとは思えない、自分と似た微妙な立ち位置の微妙な学問。そんなの聞いたら少しやる気になってしまう。

 あんこもいるし、魔道具同様に試していいというならやってやるだけだ。

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