正直者が馬鹿を見ないことがあってもいいんじゃないですか? ダックスフンドを添えて
コンビニ
第1話
自分がしたことは間違ってない。そう自信を持って言えた……言えればよかった。
「ちょっと待ってくれよ! こんなの絶対におかしいよ!」
「切り落とせ」
17年間連れ添った右腕がギロチンによって切り離され、転げ落ちる。
痛いなんてもんじゃない、表現しきれない痛みだった。そんな感覚を感じて俺の意識は飛んでしまったんだよ。
それでここはどこだ? 草の匂い? なんとも言えない病院のような独特な匂いがする。
ふんふんと、あんこ、愛犬が俺の頭を鼻で押してくる。召喚もしてないのに勝手に出てきたのか?
「起きたのかい」
婆さんだ。誰だ? んぐぅ体が痛い、なんだ床に転がされていたのか、道理で痛いはずだよ。
腕を切り落とされてーの、その後に国外追放されたんだったよな? その後どうなった。どっかで捨てられて歩いて、歩いて、歩いたな。
「話聞いてんのかい、クソガキ」
優雅にロッキングチェアだっけ? あの揺れる椅子に座って見下しやがって。
咥えたキセル? タバコから大きく煙を吐き出してきた、煙いだろうが!
「ごほ! ゲホ、何をするんですか」
「喋れたのかい」
「こいうパターンって普通はベットに寝かせたりしませんか?」
あんこが婆さんの方に駆け寄って、抱っこしてくれと甘えている。誰にでも甘えるのはやめなさいと言い聞かせているのに。いい意味では愛嬌があり可愛い。そう、可愛いのだ。
婆さんが仕方ないねーと言わんばかりの動作であんこを片手で抱き上げると膝の上に乗せる。あんこはご機嫌そうに尻尾を振って膝の上で大人しく撫でられている。
ん? この婆さん、片腕しかないのか?
「犯罪者ですか?」
「お前に言われたかないんだよ」
俺は腕を切り落とされはしたが犯罪者ではない。
クラスメイトの女子を助けようとして、結果的に犯罪者扱いをされた。不当な話なのだ。
「で、なんで片腕落とされたんだい」
あんこをモフりながら、人の不幸話を聞くなんて優雅なことだな。
まぁ、どうだっていい話だ、助けてもらったお礼代わりと愚痴のつもりで話したっていい。もうどうだっていいのだ。
「俺は異世界から来たんです。クラスの連中と一緒に」
「異世界人とはね。クラスってことは複数人でかい?」
「そうです。クラス転生って俺の世界ではあるあるの内容で、不遇ジョブから最強に至るとかって展開もなく、俺のジョブは国のお偉いさん曰く、最高ランクの召喚術師だったんですよね」
「所々、わからない言語はあるけど、それでのその最強ランク様がなんで腕を切り落とされてるんだい」
キセルをふかしながらカタカタと笑い、婆さんが酒だろうか、何か飲み物を煽る。
俺も喉が渇いてきたな。
「語り部の話を聞くと言うのであれば飲みの一つでも振る舞ってくれてもいいんじゃないですか?」
「助けてやっただけでも感謝してほしいものだけどね」
ぶつくさと文句を言いながら、茶色いお茶? を振る舞ってくれた。
なんだろう、ハーブティーとかかな。落ち着く。
「最強ランクの召喚術師ではあったんですが、召喚して契約できるの一枠だけだったんですよ。それでも強力なドラゴンなど契約できればお釣りが来ると言われて期待もされてたんです。どの召喚獣がいいか吟味していたんですが、クラスメイトの一人が病気で倒れてしまったんです」
「女かい?」
見透かしたようにニヤニヤ笑いやがって。
「そうですけど」
「あんたも男だねぇ」
「別に好きとかではなかったんですよ。ただ家が隣で、中学からはそれぞれ疎遠になってたし、高校もたまたま一緒だったけど、特別仲がよかったわけでもないくて、同情っていうかなんというか」
「はいはい、いいから先を話しなさいな」
「そいつは魔力が大き割に魔力回路? に問題があって、それを解消するには薬草が必要だったんです、それも珍しい薬草がね」
急に婆さんが真剣な顔になる。キセルを大きく吸った後にため息まじりに煙を吐き出す。
あんこがいるんだからタバコはやめてほしい。でも煙たそうにしてないし、気にならないのかな?
「エーテリアルかい」
「ご存じなんですね。その薬草が必要って話になったんですけど、珍しい薬草で雑草に混じってたり、見分けが難しくて普通に探しても見つかることはまずないって言われました」
「そうだろうね。それで、この子かい?」
婆さんがあんこに視線を落とし、あんこは顎をサワサワと優しく撫でられて気持ちよさそうにしている。
「そうです。少し紹介をさせてもらうとあんこは俺の世界ではミニチュアダックスフンドって種類の犬種で、俺が生まれた少し後に一緒に生活をしていた妹分だったんです。黒と茶色が混じっているんですけど、小さい時はほぼ黒一色で丸まった姿があんこみたいだったの、そういう名前になったと親から聞いてます。最高に可愛いでしょ?」
「急に饒舌になったね。確かに餡子に見えなくはない。可愛いのはわかったけど、話をずらすんじゃないよ」
婆さんが薄く笑ってあんこのお尻を軽くトントンする。このババアわかってるな。
それにしてもこの世界には餡子もあるのか。
「はいはい、こう見えてもあんこの能力は凄くてSSレアの召喚獣なんですよ。可愛さがSSレアってだけでなくて、薬草とかアイテム関連を探す天才なんです。まぁ戦闘力は皆無ですが」
「ふむ、それを活用して一人の娘を助けるのに召喚権を勝手に使用して、国から訴えられたワケかい」
「こっちはこの世界に召喚してくれてって頼んだわけでもないし、どれだけ金が掛かってるんだって言われたって知ったこっちゃないんですよ。怒られるとは思いましたけど、腕を切り落とされるとは考えてみませんでした。正直、異世界舐めまくってましたね。戦闘力がないとはいえ、レアな薬草を見つけられる、あんこがいれば別の形で活躍できると思ったんですけど」
「浅はかだったね」
「おっしゃる通りです。何も後悔がないって言ったら嘘になります。腕を犠牲にしてまで助ける義理はなかったかなって今は思っちゃいますけどね」
「フッ、惚れた女を助けたんだろう? 嘘でも嘆くよりは、少しは誇ったらどうだい」
誰が惚れたって言った? 言ってないよな? 心を読める魔女か何かか?
「何をアホずらしてるんだい。あんたが異世界人なら知らないと思うけど、魔力回路に異常が出る人間自体がそこそこ珍しい。助けるにしても本来であればコスパが悪すぎるんだよ。それと召喚獣を比較した時に彼の国であれば召喚獣という戦闘力を期待するだろうね。それに回復魔法が発展している世の中で薬草なんて流行りもしないよ。需要が全くないとは言わないけどね」
そんな背景知らんがな。もっと早く教えてくれればよかったのに。
あんこが婆さんの膝から降りて、元気を出してと言わんばかりに俺の手を舐めてくれる。死別してしまった、あんことまた会えたのがせめてもの幸せか。
「俺は無価値な人間ってことなんですね」
「需要が少ないだけで、ないわけでないさ。私に拾われてよかったねぇ、命を助けてやった分は働いてもらおうじゃないか。この天才魔術師にして薬師のリュナ・シルバーブラッドの元でね」
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