第15話
ルーカスは地面に倒れて、立ち上がれないのか熊を目の前に固まってしまっている。諦めんなよ!
弓を引き絞り、熊の目を狙って放つが容易く腕で受け止まられてしまう。刺さってはいるけど、痛くないわけ?
バレた以上、もう奇襲は無理だ。ルーカスを庇って戦闘なんてできやしない、まずはあいつを非難させないといけない。
薬草で作った、魔物除けの匂い袋を投げつける。これで数秒は稼げるだろう。
「ルーカス、邪魔だ! 立ってできるだけここから離れろ!」
「む、無理だ。もうおしまいだ! クロウラ相手に逃げれる訳がないんだぁ!」
錯乱している? いつもの強気でクソ生意気なガキはどこに行ったんだよ。
顔面に受けた粉を振り払うと、ギロリとこちらを睨んでくる。なんとかルーカスを起こして、逃げるように促すが、流すものかと熊がルーカスを追おうとする。
当然、そんなことはさせるかと間に立つ。獲物を狩る邪魔をされたことで明らかに怒っている。
弓を放って注意をこちらに引きつつ、距離をとってみたが、ルーカスに執着しているようにその巨体から考えられない速度でルーカスへ飛びかかる。
寸前で横から蹴りを入れてずらしはさせたけど、遊具とかであった、大型車のタイヤを蹴ったような感触だ。
熊は獲物執着するとは地球でも言うけど、こっちの世界もそうなのかよ。
しかもあの速度、本当に無理そうならルーカスを背負って逃げて、マーロさんとババアに助けをお求めようかとも思ったが、とてもではないが逃げれそうにない。
それに加えて弓も対して効果がないときた。詰んでるか?
接近戦なんて冗談ではないと言っただろうに。弓と矢を投げ捨てて、ナタを眼前に構える。
ナタってのは本来、草木を狩ったり、森の中で道を切り開いたりするもので、戦闘用ではない、本来はだ。ただマーロさんからもらったこのナタは一味違う。対魔物用としても活用できるように切れ味こそ抜群とは言わないが、固く、折れないようにできている。
「ビースト、キング、アレク、サンダー、全力で行くぞ!」
筋肉達の名前を呼んで、自分自身を鼓舞する。
脅威度としてはアークスカイと比較しても少し上。魔道具化した矢がない上にその相手と肉弾戦をしなければならない、本来であればごめんなんだけどな!
弓ではなく、ナタに持ち替えた俺を脅威をとして認識してくれたのかルーカスから俺に視線を向け直す。
いいぞ、俺もそれなりの修羅場を超えてきたんだ、ただでは死なんぞ。ルーカス、俺が死んでエレナと子供ができたら、子供の名前をアルデンにしてくれていいからなぁ! 転生して、エレナの母乳を堪能してやる!
「うぉおおおおおおおお!」
全力の一撃、熊のくせにバックステップで躱そうするので、それに追随するようにナタを振るう。
逃げ切れないと悟ったのか、左腕で受けられる。すっぱりと切はしなかったが途中までナタが食い込み、嫌な感触が手に伝わってくる。弓とは違ってダイレクトに手に感覚が伝わってくるのは気持ち良いものではないな。
「GAAAAAA1」
熊が痛そうに悲痛な声をあげる。骨が折れたのか、左腕がだらんと下がっている。
全力の一撃を放ってこれだ。今の一回だけで俺の体も悲鳴をあげているんだけどさ、これで逃げてくれたりはしないよな? だって子供がいるものね。厄介だよ本当に、ごめんな、ルーカスが森に入ったばかりに、俺がケジメをつけないといけない。
もう一度、ナタを強く握りなおす。
今度は熊が俺に向かって突進してくる。軽くいなせたと油断していたら、すぐに反転して転げ回りながら左手を振るってきた。さっき痛そうにしてたので左は無警戒だったのに、痛い、胸が切り裂かれ、装備していた皮の胸当ても簡単に引き裂かれている。
胸には四本の爪痕がくっきりと残っている。これ、完治した時には歴戦の勇者っぽくてカッコよくなっちゃうやつだな。ありがと熊さん。
「感謝してる場合じゃなええええええ!」
熊からのラッシュを転げ回りながら、躱し、いなしして、泥だらけにボロボロになっていく。
それは熊も同様で、隙を見つけて切り付けと言うよりも殴りつけていたナタの影響で所々、血が滲み、ボロボロになっている。
どちらも共に満身創痍ってとこか。俺がちょこまか動くもんだから当てることができない熊、俺は殺傷能力が低く当てることはできても、決定打に欠ける。
首を狙いたいが身長差がありすぎて狙うことができていなかった、そろそろ効いてくるんじゃないか?
少し経過して、熊が攻撃時も立ち上がることができなくなってきたのか四足歩行での突進が増えてきた。
これまで足を集中的に狙ったので、立ち上がることができなくなってきたのだろう。
そろそろ終わりにしたい。でも油断はしてはいけない。
−−一瞬の隙を狙って、熊の首裏に強烈な一撃を当てることができた。中途半端にナタが食い込み嫌な音がする。やったか? なんてのはフラグだったんだろう。
「がはっ」
熊の振るわれた腕が脇腹に当たって、引き飛ばされ、木に激突した。
大丈夫息はできる。立て、立たないと追撃で終わる。熊が全力で走ってくる。ダメだ、終わったかも。
熊は俺に当たることなく、当たる前に勢いそのままに横を通り過ぎて転げ、横たわっていた。
力を振り絞って、近づくと既に熊は虫の息でこちらをつぶらな瞳で見つめていた。
「簡単に楽にさせてやれなくてごめんな」
何度かナタを振りをろしてやっと首を切り離すことに成功した。たぶん途中で死んでいたとは思うけど、確実に楽にしてやりたかった。
「あの……俺」
ルーカス、お前逃げてなかったのか? バカが。
「無事でよかったよ」
ルーカスの腹に一発、腹を押さえて屈んだところに頬にもう一発入れて、ノックアウトした。
気分が悪い。全てにおいてだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます