第16話

 ルーカスの傷は見た目よりも酷くないようで、簡単に止血をして、背負い、落ちないように紐で結ぶ。

 

「クゥーン」

「どうした、あんこ?」


 あんこ、キューン、キューンと声を出して、二頭の子熊を連れて俺の足元までやって来た。

 おいおい、まさかだよな? 確かに親がいなければ彼らが生きていくのはより難易度が高くなるだろうが、一緒に連れて行けというのか? あんこの瞳がお願いと訴えかけてくる。


「わかった。皆んなで一緒に帰ろう。悪いけどはぐれないように面倒を見てくれるか?」


 あんこがわかったと言わんばかりに尻尾をブンブンと振っている。

 ルーカスを背負って早歩きで進んでいくと、あんこが二頭を誘導してくれて大人しく着いて来てくれている。この子らからすれば俺は母親殺しのわけだが、きっと訳もわからずって感じなんだろうな。

 ババアにどんな嫌味を言われるのか今から不安になる。


 行きよりもだいぶ時間が経過したが、無事に家の前に到着する頃に暗くなり始めており、家から漏れる灯りに照らされて人影があることは確認できた。


「ルーカスなの?」

「エレナか、俺だ、アルデンだ」

「兄弟子! あの、ルーカスは一緒ではないんですか?」

「心配するな、背中をよく見ろ」

「ルーカス!」

「今は寝てるだけだよ。治療してやってくれるか?」

「はい!」


 俺とルーカスの汚れた服を剥ぎ取って、玄関前で簡単に汚れを落とし、ベットまで連れていく。

 あとは頼んだと、エレナに任せて、リビングで待っていた師匠とマーロさんの前に座ると、とりあえずは薬草を塗り込んで包帯を巻きつけ始める。


「よく戻った。満身創痍だな。あの子熊、ナイトクロウラだろ? 戦ったのか?」

「そうですね。なんとか勝てました」

「やるじゃねーか! 死体は?」

「無駄にできないかと思って簡単に血抜きして、木に吊るしてます。でも数日経過すれば他の魔物に荒らされるかもしれないです」

「それなら明日、取りに行こうぜ!」


 俺のこの傷を見てマジで言ってるからマーロさんは怖い。

 ババアは無言のままだ。嫌味をネチネチ言われるかと思ったけど、いやいや、これからか?


「師匠もご迷惑をおかけしました」

「少しは自分の甘さを見直すことだね」


 ん? それだけ? もっと小言を言われるかと思った。


「それであの子熊はどうするつもだい」

「あんこが連れて行ってほしいと言うので連れて来たんですが……」


 暖炉の前で三頭が団子になって寝ている。基本色が黒一色なので、大きなあん団子のようだ。


「あの、面倒は見るので一緒に暮らしても良いでしょうか?」

「魔物と生活かい? 前例がないわけではないしね。まぁいいだろう。その代わりに人に危害を加えるようならわかってるね?」

「わかっています」


 お話は終わりだと言わんばかりに三頭の間に割り込むとモフモフされながら、キセルをふかし始めた。

 思った以上にあっさりした展開に少し戸惑う。

 マーロさんとは明日の早朝に出るってことで、話がついてしまった。体、絶対にまだ痛いぞ。


 ルーカスの様子を見にいくと、もう起きているようで、甲斐甲斐しくエレナに手当てをされていた。

 俺なんて自分で手当てしていたと言うのに、羨ましい限りだな。


「あの、兄貴、本当に申し訳ありませんでした」


 誰が兄貴か。師匠と呼べと言いたいが、泣きべそもかいているようだし、反省はしているらしい。


「何に対してい謝っているのかわからないが、今回、多くの人に迷惑をかけている。自分の中で整理して改めて自分の行動を見直すように。整理が付いたらまた話を聞こう」

「はい」

「兄弟子、本当にありがとうござました。父達のように帰ってこなかったらと考えてしまって」

「いいよ、俺の責任もあったしな、エレナもあまり甘やかし過ぎないようにな」


 二人きりにして問題ないだろうか? まぁ怪我もしているし、下手なことはしないだろう。

 大きな傷は治療しおわったので、細かい擦り傷の治療のために薬草を塗り込み、回復を促す飲み薬も併用する。

 地球、日本にいたときの医薬品と比べれば、格段に効果が高く、塗り込みんだ後には細い傷程度であれば治ってしまう。異世界から来た人間からすればこの薬草類も十分に魔法の領域だ。

 治療を全て行った後に、エレナが作ってくれていたご飯を食べて、そのまま今のソファに寝転ぶ。



「アルデン、起きろ」


 むさいおっさんのモーニングコールで目が覚めるのは気分が悪い。寝転がり考えごとをしていたら寝落ちしてたのか。

 傷の具合はほぼ完治であるが、胸に受けた爪の傷は完治とはまだいかない状況だ。

 既にエレナが用意してくれ朝食を食べながら昨日、激戦をした熊さんのところにマーロさんと移動する。


「でかいな。よく一人で倒したじゃねーか!」

「お褒めに預かり光栄ですよ。もう二度やりあいたくないですね」

「まぁ一人前と言ってもいいかもしれないな、格で言えば3ランクの相手だしな」


 魔物には格があって、簡単に言えばレベルアップするためには対象となる格以上の相手と戦えば限界を越える、格が上がるってことがあるらしい。職業のランクとは別にあるレベルのようなものだ。

 ランク三って言っても熟練の兵士ってレベルだし、俺はせいぜい頑張っても二くらいなわけだから、この熊さんに勝てたのは筋肉と気合の賜物だ。


 吊るされた熊の毛皮を慣れた手つきでマーロさんがはいでいくのそれをサポートする。


「マーロさんの格ってどのくらいなんですか?」

「易々と人に教えるわけがないだろうが! まぁお前には話してもいいか」


 いいんかい。


「四だな」

「よ。四ですか! なんでこんな辺境の村にいるんですか」

「俺にも色々あるんだよ。薬師殿と同じでな」


 ああ、ババアも四なのか? まぁあの強さならわからんでもない。

 毛皮をはいで、爪や牙、肉などもバラしていく。ううう、持ち帰りる量も尋常じゃない。

 これは人が持っていいような重量ではないよ。


「ガハハハ、さっさと帰るぞ!」


 この人はどんだけ元気なんだよ。

 必要な分だけを家に置いてもらい、あとは村に持ち帰ってもらうことになった。

 毛皮については使えるように加工して渡してくれるとのことで、楽しみにしてろと何になるのかは教えてもらえなかった。


 どっと疲れた一日だったわ。

 

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