第3話

 ババアに拾われて二ヶ月が経過した。

 慣れてくるとやることが少しづつアップグレードされていく、炊事、洗濯から始まるのはいつものことで、それに追加で家庭菜園の手入れ、薬草園の手入れ、薬草の仕分けなんかの仕事も増えてきた。

 最初こそ午前中で収まらなかったけど、今ではなんとか午前中までに完了させて、午後は勉強に時間をあてている。

 休みなく仕事をこなさいといけないのは実にブラックだ。たまには休みたいが、衣食住を提供してもらってるし、我儘は言えない。ババアは俺が来るまで全部一人でこれをやっていたのだろうか。


 文字や歴史、地理の勉強も進み、この国の成り立ちや種族など俺の知識はアップグレードされていく。

 このままいけば俺は薬師とか魔術師になるってことでいいのだろうか?

 流れに身を任せているのもあり、基本ババア任せになってしまっている。


「文字も問題がなくなってきたね」

「はい! 師匠のおかげです!」

「そろそろ魔法の適正もみてやるかね」


 キタコレ! 魔法ですよ奥さん! 事前の知識でジョブというのは才能がありますよっていう基準であり、絶対にそれ以外の技能に適正がないわけではないとのことなのだ。

 婆さんに連れられて家の外に出ると、家庭菜園から少し離れて森の中に入る。あんこも短い足でちょとちょことついて来る姿が可愛い。


 なんでも魔法使いのジョブを持った、戦士なんてのもいるらしい。あくまでジョブは目安とのことだが、その中にもランクがあって、成長度合いや、俺で言えば最初から契約できる召喚獣の幅が決まってきたりなど、ランクによって力の幅は大きく違ってくるらしい。

 召喚師でドラゴンや珍しい馬種の魔獣と契約したドラゴンライダーや騎士なんかもいるらしい。城にいた時にはそんな話聞いたことなかったな。


 外に出ると婆さんから小さい杖を渡される。なんか魔法使いっぽいぞこれ!


「魔法はイメージの世界だ。まずは水だね、あの木に攻撃をイメージしてやってごらん」

「はい!」


 イメージの世界か、そういうのは俺、得意なんですよね。あ、この世界に召喚されて元の世界ってどうなってるのか。俺の忘却の語り部ノートは流石に親に見つかってしまっただろうか。

 いやいや、過去のことを考えるよりも今は魔法だ。


「ウォーターボォオオオオオオオル!」


 静寂だ。鳥の鳴き声と、あんこが俺の足の匂いを嗅いでいる音だけが響く。


「少し調子が悪いみたいですね。では気を取り直して−−ウァアアアアアアタァアアアアアカッター!」


 あれ? 発動しないんですけど、これ仕組みが良くないんじゃないですか?


「ちょっと触るよ」

「はい」

「何か感じるかい?」

「何にも」

「驚いたよ。これだけ魔道具を長時間使えるにあんたには魔法の才能が皆無だね」

「ドラえ、違った、師匠おおおおおなんとかしてよぉおおおお!」

「こればっかりはね、才能の話だからどうしようもできないよ。召喚師であればほとんどが魔法の才能もあるからできると思ってたんだけどね」


 俺の天才魔法使いへの道が閉ざされてしまっただと。

 でも魔道具さえあれば魔法を行使できるんだよね? だったら可能性はゼロってことじゃないんだよね!


「言っておくけど、魔道具ではそこまで高出力の魔法を使用するには伝説級の武器でもないと使えないからね」

「なんてこった」

「魔法がダメなら違う道を探せばいいだけだよ」


 この無能が! とか罵倒されるかと思ったら、意外に優しいのね。

 魔法使いの弟子なのに魔法が使えないとかいいのかな。


「申し訳ありません」

「どこに謝る必要があるんだい。馬鹿な弟子だよ」


 ババアァ! ありがとう!


「少し方針は考える必要があるね。少し考えがある、私は村に行ってくるから留守番してな」

「わかりました。その前に少しお伺いしたいのですが、魔法が使えなくても魔道具の作成ってできるんでしょうか?」

「あん? 道具が揃っていればできなくはないね、作るつもりかい?」

「少しチャレンジしてみたくて」

「あんたからやってみたいとはね……いいだろう」


 家に戻ると、普段掃除以外で入らない作業部屋へ案内され、何冊かの本と道具を渡される。


「それは師匠に教わったことを私がまとめた本だよ。魔道具作成のノウハウの記載がある、それとこの範囲であれば好きに使っていいよ」


 小さい銀の板に小刀、なんだこれ。

 ん? なんかどっかで見たことあるな、コンロか? コンロにも似たような銀の板があった気がする。でも文字ではない、記号みたいな配線みたいな、よくわからない紋様の記載があったはずだ。


「それじゃあ、私は行ってくる。アルデンは自習しときな」

「わかりました」

「ついでに道中で薬草探すから、あんこを借りてもいいかい?」

「了解です。あんこ、師匠について行って素材探し手伝ってもらってもいいかな」


 散歩でもいくの? みたいなハイテンションで尻尾を振ってくれる。散歩ってわけではないんだけど。

 俺からの許可があれば一定時間であれば、あんこの連れ出しも可能のとなるのだ。

 これだけ可愛いのだ、街で一時間でそこそこの値段設定で金を取れるのではないのだろうか。


 あんことババアが退出した後に椅子に座って、渡された本を読む。

 やはり銀盤に特定の記号を組み合わせて、特定の事象を起こせるような仕組みを作るようだ。

 この小刀がそれを掘るための物か。基礎的な物として風を起こせる魔道具や、火を起こせる魔道具がある。基礎とは書いてあるが、基礎とは思えないほど複雑な紋様が記載されている。

 

 師匠のメモがある。紋様を完全に模倣するのは難しく、仕組みや組み合わせを理解することが重要と記載がある。

 どうやら小刀に入れる力、魔力によっても違いが生まれてしまうため、紋様を模倣しても力加減であったり、出力が違ったりするようだ。完全オーダーメイドの一品物ってことか? これも魔法と似ているイメージしてそれを掘る時に伝えていく。ただ魔法よりは化学的に決まった紋様が必要と、プログラミングみたいな要素も混じってるのか難しくないですか?


 この記号が風でこれと組み合わせると風が出るのか。これ掘るのも思った以上に難しいぞ?

 掘り終わった銀盤に魔力を込めて見ると動かなかった。なんで?

 あ、イメージしてないからか? 俺のイメージを小刀に乗せて記号を掘り、これとこれを組み合わせてっと! どうだ?


「お、風がそよいでる感じがする!」


 なんか小さい時に初心者用のプログラミングロボットを触ったの思い出すな。

 小学生の夏休みの自由研究でキットを買って組み立て、歩いた時には感動したよなぁ。

 本を読み込んで、どれがどのようにして動くかわかれば組み合わせも増えるかもしれない。この下地を作ったババアの師匠はすげぇな。

 どれだけのトライアンドエラーを繰り返したのだろうか。まずはこの分厚い本を読み込んで基礎を知らないとな。出来合いのキットとは話が違う。魔法が使えない分、魔道具で貢献ができればババアに文句を言われずにすむかもしれない。

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