第13話
起床して炊事、洗濯、家庭菜園のお世話と二人とも嫌がるかと思えば、当たり前に畑仕事を含めてやっていたことなので、真面目に取り組んでくれている。
俺のように日本でぬくぬくと育った存在ではないので、魔道具などが充実しているこの家は効率よく仕事もできるのなんの不満もないとのことだった。
まぁ主にはエレナちゃんの意見であって、ルーカスは早く狩りに行きたいみたいな話をしていた。
エレナちゃんの尽力もあって思った以上に早く仕事が完了し、ババアのところに勉強に早めに行かせることができた。
あとはルーカスの訓練ではあるけど、雪が積もってるので獲物も少なくできることは限られるが、まずはどのくらい走れるのか見てみる。
雪の上で走りずらいってのもあるけど、カンジキを履いても何度か転んでしまい、ついて来ることも難しいようだ。
俺もこの軽やかなステップを習得するまでに時間の合間を見て何度走って転んでしまったことか。
わかるぞ少年、頑張るんだ。
二時間ほど走っていると、ルーカスは大の字になってこれ以上は無理とのことで切り上げることにした。
家に帰ってからは鉄の棒を振ったり、一緒に筋トレをしたりしたが、どれも半分もやることができなかった。最初はこんなもんだ、筋肉というのは一日しては成らずだ。
★★★
二人が来てから一ヶ月ほど経過して春の訪れがもう少し、俺の生活といえばルーカスの面倒を見ながら薬学や魔道具作成の時間を作るのは大変で、自習と言って丸投げするわけにもいかないので合間を縫って、中途半端な時間に勉強や実験をしたり、あとは皆んなが寝静まった後の深夜にリビングでチマチマと励んでいる。
ババアに聞く時間も限られてるので、聞くことは事前にまとめておき、まとめて質問をして週に一度ある休日などに一気に実験などをしたりしている。
この二人がいなければもう少し余裕を持って学ぶ時間を作ることができたのになぁと考えてしまうこともある。
主に二人というかルーカスか。まぁ仕方ない、彼らの境遇を考えれば可哀そうな部分もあるし、蜘蛛の糸を垂らしたババアを非難するつもりもない。
「兄弟子まだ、まで起きていらしたんですか?」
「まぁね。少しアイディアが出てきたもんで、集中していたんだ。エレナこそ、こんな夜更けにどうしたんだ?」
俺達の関係も変わってきており、俺はエレナちゃんとは呼ばずに呼び捨てになったし、エレナは兄弟子と言うようになった。
ルーカスはと言えば俺のこと舐めているようで、渋々アルデンさんと呼んでいる感じだ。
春が近づいてきてるとはいえ、冷えるしね。
それに今日は若いカップルがチューをしていることをババアにバレて怒りを買ってしまった。
中途半端の半人前が色気付くんじゃないないと。前々からあったとのことだが、俺も初めて最近だが現場を目撃した。でもその現場というのが嫌がるエレナにルーカスが迫っているという流れではあったのだ。
嫌がると言ってもバレたら怒られてしまう、真面目に頑張ろうというエレナとちょっとくらいなら問題ないとグイグイくるルーカスといった図で、絆されてしまったエレナにも問題がないかと言えばそういうわけではない。と、そんなことがあって、怒られた後で少し眠れないのだろうさ。
戸棚から俺がブレンドした、薬草茶を取り出し、熱いお湯を注いでエレナに差し出す。
「眠れない時と緊張している時には効果があるよ。それを飲んで早めに寝るといいよ」
「ありがとうございます」
俺の対面に座るとゆっくりとお茶を啜り、一息ついている。ゆるい寝巻き、胸元、これは良いものだ。
それで何か話したいのだろうか? お茶を飲み終わってもカップを見つめている。
「もう一杯飲むか?」
「はい、ありがとうございます」
自分の分も入れるか。少しゆるい格好をしたエレナにはそこはかとない色気がある。
今日はあまり見慣れないワンピース型のゆったりとしたパジャマの上に厚手の上着を羽織っている状態だが、鎖骨が見え隠れしている。じゅるり。
「そ、そのパジャマ、新調したのか? 似合ってるよ」
「そうなんです! お師匠様から余ってる布を頂いたので、自作したんです」
「自作なんて凄いな」
「そうでもないです。村にいる女であれば、このくらい殆どの人間ができると思います」
立ち上がって、クルリと回って見せてくれるがよく似合っている。
「数日前に新調したタイミングでルーカスにはどこか違うとこはない? って聞いたらいつもと変わらず可愛いよって言うだけで、服には気がついてくれなかったんですよ」
「ははは、そうなんだ」
あのクソガキ、そんな歯が浮くようなセリフを既に覚えているのか。
可愛いと言われることは嬉しいようだが、変化に気がついてくれなかったルーカスについてプリプリとエレナが怒っている。これは面倒臭い展開になってきたぞ。
そこからエレナの愚痴が始まってしまった。
服を裏返して出すとか、料理を真面目に覚えようとせず毎回フォローしているとか、上から目線で横暴になったとか、同棲し始めたカップルの愚痴そのものである。
「問題が多いなー、料理は真面目にしないとかは師匠として俺からも注意しておくよ。ああ、勿論、エレナから聞いたとかは言わないから監視してみつけたら指摘するからね」
「ありがとうございます」
満足したのか二杯目のお茶を飲み干した頃にはニコニコ顔だった。愚痴を吐くところも探していたのかもしれない。
「でもさ、愚痴は言うものの、ルーカスのことは好きなんだろ?」
「まぁ、はい。愛しています」
愛か、好きじゃなくて愛してときたよ。お熱いことで。
「気を悪くしないでほしいんだが、話を聞いていると俺にはわからない部分もあるんだけど、どこがそんなに好きなんだ?」
「うーん。少し強引なとことか、年下なのに男らしい一面もあって……あとは可愛い、カッコいい顔してるし」
恥ずかしげに言っているけど、要は顔がドストライクなんだね。
まぁ、恋愛観は人それぞれだし、いいんじゃないかな。
二人きりで恋愛をしているだけなら今のままでもいいけど、共同生活を進めていく上では少し不安が残るな。
「今日はお話聞いていただいてありがとうございました」
「いえいえ」
年頃の女子の恋愛話の愚痴とか疲れる以外にないな。
「またお話聞いていただけますか?」
「あ、ああ、俺が起きてるタイミングでよければ、またリビングにくるといいよ」
兄弟子としてカッコつけてしまった。まぁ、直で断る勇気も俺にはないけどね。
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