第8話 神力の扱い

「うぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉお!!!」


(とにかく気張れぇぇぇぇぇぇえ!)



 ホルスがため息をつく。

「全然ダメだな」



 ついでアフロが

「ダメだね」


 と口を挟んできた。




「ハァハァ……なんで!」


「知らない」

「知らないね」




 俺は今、ロンゲ野郎と紫マッチョの時に出せた【黄色いビリビリ】の特訓をしていた。が、面白い位うまく行かない。


 一方ホルスは先程まで悠々と空を飛び回り、アフロは弓を具現化させ、的を正確に射抜きながら俺らと会話をしている。



「クソ……なんでお前らそんなに使いこなせるんだよ……」


「なんでって言われてもねぇ……右手を動かそうとすれば動くし、左足を動かそうとすれば動くでしょ? そんな感じ? っていうか」


 なんで同じ16歳でもここまで差が出るんだ……


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 (貴様は才能が無いようだ!)


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 そういやモノホンアレスがなんかそんな事言ってたな。



「……つっても才能無すぎじゃね〜?」


 思わずため息が溢れた。そんな俺を慰めるように大きな手が俺の頭を撫でる。



「そう悲観するなアレス、すぐに出来るようになるさ。お前達も驕るなよ」



 それにホルスはすぐに反応する。


「ハデスさん、大丈夫です。僕はアフロとは違って驕ってはいません」


「はぁ? 私だって驕ってないよ! だって私の【神力】が出来るのは治癒と戦闘弓の具現化だけだもん! 出来る事は全部マスターしたんだよ?」



 アフロめ。正直ホルスと違ってこいつは多少驕ってると思うが、正論故に俺は横槍すら入れられない。


 ハデスさんが2人のやり取りを聞き終えると、2人に質問を始めた。



「ホルス。お前の課題はなんだ?」


「飛行速度です。恐らく、僕はもっと早く飛べます」



「なるほど……アフロは?」


「んー治癒の速度と強度ですかね?」



 2人共、最もな回答のように思える。だがハデスさんの顔を見るにどうやら100点の回答では無かったようだ。



「いいか? 【神力】とは想像よりずっと自由な力だ。そうだな……例えば…………」



 ハデスさんは右手を前に出し力を込める。すると、その足元から骨の大剣が生えてきた。



「こいつはなかなかに便利でな。強度も重量も切れ味も良い。しかも持ち運ぶ必要も無い」


「……それがどうかしたんですか?」



 ホルスが問う。当然の問いだ。




「いいか? この大剣は、私の骸骨兵の能力を派生させたものだ」


「「「!」」」


「骸骨兵!? これがですか?」

 

 アフロは不思議そうに骨の大剣を持つ。


「あぁ。骸骨兵の数を減らし骨の密度を高め形を変形させたものだ。

 そしてここからが本題。私が【神力】を得て直感的に理解したハデスの性能は骸骨兵の召喚、火炎放射のみだった」


「!」


「「……?」」



 ホルスは分かりやすく驚いた表情をしているが、俺とアフロは「だからなんだ」って感じである。



「……2人共理解していなさそうだな」


 ハデスさんが俺達の顔を見て呆れた様子で呟いた。それを聞いたホルスも続く。


「おいアレス、アフロ! ハデスさんの言っている意味が分からないのか!?」


「いや、まぁ……」



「……つまりだな、私は最初骸骨兵の密度、形の操作が出来るという事を知らなかった。本能的に理解していなかったんだ。この事実が何を意味するかはわかるな?」



 俺とアフロは顔を見合わせる。良かった。俺は1人じゃないんだ。



「……つまり! 神力には隠された能力があるかもしれないって事だ!」


「「!」」


 ホルスのそのダメ押しの一言で俺達は理解する。



 要するに、もしかしたら俺も炎を出せるかもしれないし、ホルスはデカくなるかもしれないし、アフロは青くなるかもしれないって事だ。



「理解したようだな。これを踏まえて……ホルス。お前の言う通り飛行速度を上げるのは大事だがお前には炎もある。それを利用しない手は無い。現状速度で困っていないなら優先順位は考えるべきだ」


「はい」



「次にアフロ。お前は少々驕りすぎだな。確かに今お前が自覚している能力は全てものに出来ているかもしれんが、それで満足をするな。もっと大きな力が隠れているかもしれない」


「はぁい……すいません……」




(やーい怒られてやんの! 驕ってるからそうなるんだよ)


「最後にアレス」


「あ、俺も来るんすね」


「勿論だ。お前は最初から自分の力への理解度が低い。だが、お前の力は使いこなせれば強いと分かっているんだ。周りより遅れている分、努力をするんだ。いいな?」


「はい!」


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「「お邪魔しまーす」」


 翌日、俺とホルスはハデスさんの指示でとある道場に来ていた。

 そこら中でセミの鳴き声が聞こえる山山(やまやま)した所だが、頑張りゃ徒歩で行ける距離にコンビニもある、ちょうど良い田舎だ。




 ハデスさんが言っていた通り道場の扉が無いのでそのまま中へと進む。すると道着を着た高身の男が現れた。


 その男は俺達を見るなりこちらへと飛んでくる。




「あれ? 君たちもしかしてうちの道場に入門したいの!? いいよ! 大歓迎だよ! さぁおいで! 師範に合わせてあげる!」



 予想外のリアクションに俺達は戸惑ったが、そんなのお構い無しに道着を着た男は俺達の袖を掴み道場の奥へと連れて行く。



「あの~……俺達入門者じゃ…………ん?」



 奥では一人の老人が座禅を組んでいた。


(あの人かな?)


「師範! 入門希望者です!」


 男がそう言うと老人はゆっくりとこちらを振り向き、少しの間ののちに口を開いた。



「……剣心けんしん、そいつらは入門希望じゃない。お前らが春人はるひとの言ってた奴らか……

 春人からある程度は聞いてるだろうが儂は桐生剣きりゅう つるぎ。この道場で師範をしている」


「こんにちは、剣さん。本日はお時間頂きありがとうございます」



 俺は営業モードのホルスを見て笑いを堪える。



「早速ですいませんが、例の方は?」


「あいつならあの森ん中だ。あと30分もここで待てば出てくるだろうが、どうする?」



「それでは、ここに居ても?」


「構わん。ほれ、剣心。茶を持って来い」


「は、はい!」



 剣心って誰だよと思ったがさっきの男か。




「……なぁホルス。ここって剣道の道場なの?」



「……お前、ハデスさんの話聞いてたか?」


「いや聞いてたけどさ、今日のミーティング朝6時だぞ? それで、剣道なの?」



「……あぁ。だが道場で鍛錬できるのは桐生家の身内だけらしい。桐生家が名家だった頃の名残りだかなんかでな。だが一家相伝の『三種の剣術』は知る者ぞ知る最強の剣と呼ばれている」


「絶対ハデスさんそんな事言ってなかっただろ。あの人剣さんの名字すら言ってなかった気がするんだけど」


「気のせいだろ。まぁお前はバカだから多少は仕方ないがな」



「あぁん!? いやいやいや絶対言ってないって。お天気コーナー始まってから終わるまでに話終わってたじゃん」



「……いや?」


「分かった! お前どうせ自分で勝手に調べたから知ってるだけだろ。恥ずいんだろ? 真面目って思われるのが」


「絶対にハデスさんは言っていた。それにお天気コーナーの次のコーナーの途中までは説明していた。お前のさっきの供述は嘘だ」



「んなの関係ないだろ!」「いやある」「無い!」 「ある」「ない!」「ある」



 と、俺達が喧嘩をしていると




「それにしても、お前達も災難だな」

 

 剣さんが俺達の会話に入ってくる。

 堪らず俺は聞き返す。



「さ、災難ってのは?」



「【神力】さ。そりゃ男だ。手に入れた時はさぞ嬉しかったろうが、普通の暮らしには戻れない、永遠にな。本人が望んだわけでもないのに。お前さん達はそう思わないのか?」



 俺とホルスは顔を見合わせる。



「俺達はそうは思いません」



「……なぜ?」



「みんなを助けられるからです。な、ホルス?」


「あぁ」


 俺達は自分の本心をぶつけた。すると剣さんは目を見開く。


 

「みんなを助けるか…………なるほどなるほど。だがお前らがその"みんな"とやらを守るためには悪を倒す必要がある。だが本当にそれは悪なのか?

 お前らは国に受け入れられているのか? いないだろう」



 剣さんが薄ら笑みを浮かべつつ語りだす。一体何が言いたいのかイマイチ伝わって来ない。そんな俺の事などお構い無しに剣さんは話を続ける。



「お前らは殺しを許せるのか? お前らは己の守るのものがただのゴミの塊と気づいても守り続けられるのか?

 お前らはその生きがいを失った時に初めて気づく。自分が引いたのは当たりくじでは無く、貧乏くじだったことにな」



「……何が言いたいんです」


「なぁに、裏の意味などない。そのままの意味だ」 



 場に悪い空気が充満する。




「すいません! 遅れました! こちら、師範の茶です。そしてこちらがご来賓のお二人の茶で御座います」



 後ろの戸を開けお盆を持った剣心さんが入ってきた。


 剣心さんが丁寧に茶を差し出してくる。近くで見ると結構若い。20代前半……下手すれば10代だろう。


「そういえばお前達、今晩は泊まっていくのだろう?」



「……はい」


「それならば、ほれ。お前も自己紹介をせんか」


 剣さんは木刀で剣心さんを小突く。


「え、あ、はい! お二人共、お初にお目にかかります。自分、桐生剣心きりゅう けんしんと申します! 歳は20!

 先程は勘違いして申し訳ありませんでした! なにか困ったことがあったら何なりとお申し付け下さい」



(ハタチにしてはなんともフレッシュで好青年感のある人だな。まぁ俺の方が年下なんだけどさ)



 そんな事を考えていると例の森の方から猪が1頭猛ダッシュで飛び出して来た。


 最初はこちらを狙っているのかと思ったが、どうも様子がおかしい。何かから逃げているようだった。



「うわッ! なんで猪!? おいホルス!」


「僕が知ってるはず無いだろ。あの、剣心さん。この森には大熊でもいるんですか? あいつ、何かから逃げてませんか?」



 すると剣心さんはなんだかバツが悪そうに苦笑いして教えてくれた。


「アハハ……すぐにわかりますよ」




 その直後、森から何かが飛んできて猪に直撃する。


 猪はその場に倒れ込んで出血している。ピクリとも動かない。恐らく死んでいるんだろう。



 さらに不思議なのは、猪の体に何も刺さっていない事だった。




「なぜだ? さっき確かに何かが飛んできて斬られたように見えたが……」



 俺にもそう見えた。二人で不思議がっていると剣さんが堪えきれずに笑いだす。



「はっはっは! その通り。今飛んできて猪を仕留めたのは斬撃だ」


「斬撃?」



「あぁ。桐生家相伝の剣術のうちの一つ、【鬼気流ききりゅう】。奴はその使い手だ。本来はあそこまでの斬撃を飛ばすのは難しいんだがな、【神力】がそれを可能にした」



 俺はつい問いかける。


「『奴』って?」


「奴は奴じゃ。今回のお前らのお目当て、スサノヲの【神力】を得た【鬼気流】の使い手」




 その時、森から1人の男が出てくる。その身体は白い道着に包まれ、両手には短刀を握っている。

 だが最も特徴的なのは右の額から生えた一本の角だ。



「儂の2人の門下生のうちの一人、桐生剣双きりゅう けんそうだ」





 彼が、今回の俺たちのターゲットである。


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