第3話 これからの話


「僕達と一緒に、日本を守らないか?」


 玄関を開けると、そこには白のトラッカージャケットを羽織った昨夜のイケメンが立っていた。


(…え?何この不審者、怖い。てか何で家分かったん?帰って貰っていい???)



 俺がそんな事を考えているうちに俺の母親がリビングからやってくる。



「勇斗(ゆうと)〜お友達〜?」


(これで友達じゃない場合ってなんて答えればいいんだ。人生初めてのケースだ。)


と俺が困惑しているとイケメンが、


「どうも、お母様。息子さんと仲良くさせてもらってる颯真そうまと言います。今後ともよろしくお願い致します。」


 と百点満点の返事を勝手に返す。



「おい、俺お前と友達になった記憶なムグッ」

 イケメンに口を手で塞がれる。


「すいませーん。少しゆうと君借りて行きます。」


「は〜い。これからもウチの子をよろしくね〜!」


(いや疑問を持ってくれよ!?今息子が半分誘拐みたいな事をされたんだぞ?)



 俺は家の外まで連れ出される。道路まで出てようやくイケメンが口を塞ぐ手を離した。


「プハッ……おい!何すんだお前!」


「ごめんごめん、敵意は無いよ。それより君と話したい事があるんだ。【神力】について。」



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「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!スピード落とせばかぁぁぁぁ!しぬぅぅぅぅぅ!!!」


「どうだ?空を飛ぶ気分は。」


「だぁからスピード落とせっつってんだろッッッ!!!」


「フッ」

「笑ってんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!スピィィィィィドォォォォ上げるなァァァァァァァ!!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


-数分前-


 

 パジャマのまま俺は、家からすぐ近くの公園まで連れて行かれた。



「乗れ。」


 イケメンがおんぶ待ちみたいな姿勢を取っている。

 本当に知れば知るほど残念なイケメンになっていく奴だ。



(てゆーか乗れって何に?まさかこいつに……いやいやそんな訳ないよなw)


「乗れ」



「…いや、え?マジで言ってる?」


「良いからとっとと乗れ。」



「……あぁもう分かったよ!……ったく近所のおばちゃんが来たらお前も説めいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?」


 とんでもないGが体にかかるのを感じる。それもその筈で、俺は空を飛んでいた。しかも生身で。



「ゔおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!飛んでるぅぅぅぅ!?!?てかはぇぇぇぇぇ!!!こえぇぇぇぇ!!」



 視界にはイケメンの背中とフッサフサの後頭部、それと背中から生える翼が映る。それを見てなんとなく察した。



「鳥系の神力者かお前ぇ゙ぇ?!?」


「んー、まあ半分正解だな。俺はホルスの神力者だ。」


「ホルスぅぅぅぅぅ!?そういう感じなのぉぉぉ!?神力ぅってぇぇぇぇぇ!?」



「…………やかましいな。」


「じゃあスピード落とせやぁァァァ!」



 とりあえず止まってから色々聞こう。そう思った俺はしがみつく事に専念した。


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「着いたぞ。」


「着いたぞキリッ。じゃねーんだよ!!!殺す気か!?」


 激おこの俺の事なんかまるで気にして無いイケメンは建物の方へと歩き出す。

 今気づいたが随分と立派な日本庭園に着地したらしい。家の周りは森だろうか。桜がチラチラと確認できる。



「なぁ、おい。ここってどこなんだ?」


「ここは僕達の本拠地。……まぁ隊長の家だ。それと、俺は颯真だ。呼び捨てで良い。」


「颯真か……いや、お前の名前はどうでも良い。そもそも本拠地って……?お前、一体何者なんだよ。」


「堀さーん。戻りました。」



 俺の問いに対し、引き続きガン無視を決め込んだ颯真は、鍵を開けて建物に入っていく。


 颯真が家に声を響かせると廊下の突き当りの戸が開く。中からは長い髪と立派な髭を蓄えた爺さんが出てきた。服装も爺さんらしい楽そうな格好だ。


「お、おかえり。颯真。」



 ただ、一つだけ違和感がある。爺さんが180cmはある大きな身体で悠々と歩いて来た事では無い。



 先程話した特徴のじじぃが何度見ても二人いるのだ。そして片方は髪と髭が黒い。


(……………何がなんなんだ……マジで。)



「おかえりぃ颯真君。お茶いるぅ?」


 黒髭の方が颯真に向かって話しかけた。それに対して颯真はすぐに返答する。


「いりません。それより昨日話した神力者です。」



 颯真の言葉を聞いた白髭が、今度は口を開く。


「へぇ~その子が。…………なんでパジャマなの?まぁ良いけど…………………ッ!……颯真?この子どうやって連れてきた?」


「…………」



「……災難だったねぇ。君ぃ、名前はぁ?」


「……勇斗(ゆうと)です。」


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「色々混乱するだろう。私から説明する。」


 そう言って白髪白髭の爺さんが残り、黒い爺さんと颯真は奥の部屋へと入っていった。



「こっちだよ。」


 俺は白髭爺さんの案内で玄関から右の部屋へと入り、腰をかける。



「勇斗君、颯真にどこまで説明された?」


「怪しすぎる勧誘を受けただけです。」



「……最初から全部説明しよう。」



 そう言った白爺さんは俺の向かいに座り、煎餅を俺に差し出して話し始めた。



「まず現在、日本中で確認されている神力者は非常に強力な力を持っており、現存の兵器は通用しない。一切だ。」 


「核も?」


「あぁ。人類が武器として発明し武器としてのイメージがあるものは神力者に触れると塵と化す。この事はどんどん世間でも広まってきている。

 これを知った神力者の中には悪事を企む者が残念ながら多い。」



「…なるほど。」

(……確かに、その通りだ。)


「現在はまだ神力者自体が少なく、そこまで問題視されていないが、まだまだ神力者は増えると予想できる。

 何故なら神々の数はたかだか100では収まらないからだ。正しい予測は出来ない。だが今の数の数百倍になってもおかしくはない。」



「!!……確かに…!でもそうなったら日本が…」


「そうならないために我々がいる。」

「!」



「我々は対神力犯罪者専門の民間救助、戦闘を目的とする組織、HOPEs《ホープス》だ。今はまだ隊員の数も少なく政府からの許可も降りていない。言わば非政府組織であり、法にも触れる。

 が、我々神力者が行動を起こさねば日本の滅亡は免れんのだ。

 いつかは政府組織となり行動範囲の拡大。また設備の拡充を実現する。これを実現するには実績と規模がいる。だからこそ、まずは神力者の隊員が多く必要なのだ。もう君がここに連れて来られた理由は分かっただろう。」



「……1つ、いいですか?」


「勿論。」



「貴方達は、悪い神力者を倒すヒーローなんですか?」


 意地悪な質問だ。俺の心を読めでもしない限り正解が出せない。自分でも分かってる。けど聞かずにはいられなかった。



「………いや、少し違うな。我々は人を救けるヒーローだ。戦うのが目的ではない。救う事が目的だ。」



 その言葉を聞いた瞬間胸が熱くなる。そしてあの言葉を思い出す。



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「たおすんじゃなくて、たすけるのがヒーローなんだよ!」


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 何故だか涙がこみ上げる。


「おい!大丈夫か!?どうした、突然」


「いえ、大丈夫です。」



 いや、何故かじゃない。当然だ。俺が、俺の目指すヒーローになれる事がたまらなく嬉しいんだ。



「俺をHOPEsに入れてください!お願いします!」



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「あ、春人はるひとさん。どうでした。」


「あぁ、協力してくれるそうだ。だがご両親に説明に行かねばな。」


「だいじょーぶじゃなぁい?言わなくてもぉ。」


「良いわけないだろ夏雄なつお!お前がいつまでもそんな調子だといつか大変な事になるぞ!

……はぁ、彼がトイレから戻って来たら作戦会議だな。お母様になんて切り出すか…。」


「そういえば、秋斗あきとさんの事はもう伝えたんですか?」



「……………いや、伝えてない。まだ伝えるには早いだろう。」


「…そうですか。そうかもしれませんね。」

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