第11話 友

「ホルス!」

 

「分かってる!」

 ホルスは空中で急降下し、逃げ遅れた女性を掴む。


「いいぞ!アレス!!」


 俺はスサノヲの指示で、建物の影から飛び出した。

 そしてスサノヲの攻撃で、バランスを崩した巨大な虎の頭に全力の一撃をかます。


(クソっ!ビリビリが出てねぇ、これじゃ倒せない!)


 虎は先程の攻撃などまるで効いていないかのようにムクリと起き上がり、こちらに飛びついて来る。


 が、その牙が俺に届く事は無かった。目の前で虎の目玉が斬れる。


「蛇斬り」


 と唱えながら背後からスサノヲが斬撃を飛ばしていた。目玉を斬られた虎はジタバタと暴れ出す。



(集中…………集中……洗濯機………集中!)



 俺の体はビリビリを纏う。暴れる虎の横腹に、今度こそ全力の拳をブチ込んだ。

 虎は数m吹き飛び動かなかった。



「やったか…」


 俺達は倒した虎に近づく。どうやらまだ息はあるようだ。


「にしても近くで見るとホントでけーな。5m位あるんじゃねーか?」


「バカか?キリンで6mだぞ?」

「全長だよアホ鳥。」


 ホルスが信じられない位怖い目で俺を見てくる。それを見かねたのか、スサノヲが俺に話しかけてきた。


「そういえばまた失敗だったな。そんなに難しいのか?お前の【神力】って。」


「いや、ムズいにはムズいんだけど最近は出来るようになってたんだけどな。」

「3分の1でな。」


(バカタレ余計なこと言いやがって……にしても…)


「なぁ、この虎って何なの?」


「さぁな。てかそんな事考えてる暇は無い。早い所戻るぞ。警察が来る。」


 耳を澄ますと遠くからサイレンの音が聞こえる。俺達は虎の両手両足をロープで縛ってその場に放置し、ホルスにしがみついた。



「…なぁ、本当にこれじゃなきゃだめか?お前らそもそも早いだろ?」


「いや、地上はリスクがある!そうだね!?スサノヲ君!」


「ああ!その通りだなアレス君!」



「…分かったよ…」


 ホルスは観念したのか、勢い良く飛び立った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「神獣《しんじゅう》?」


「あぁ。現在全国各地で確認されているらしい。どこから来たのか、どんな生態なのか、全てが不明だとか。恐らくは今回の巨大な虎もそれだろう。とりあえずご苦労だった。ホルスとスサノヲは飯でも食べてこい。アレスは私と中庭に。」


「………ハイ///」

「…………」




 渾身のボケがスルーされた俺は静かにハデスさんの後について行った。中庭に到着するや否や、ハデスさんはすぐに口を開いく。


「アレスお前、さっきの戦闘で【神力】を使えたらしいな。」


「あ~その事ですね。はい、使えましたよ。一回ミスりましたけど。」


「どうだ?今出来るか?」



「…やってみます。」


 俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。


(集中!)






 しかし何も起こらなかった!


「うーむ…何か発動時の共通点はないのか?」


「あー」


(共通点…?つっても戦闘中に出せたのは今日のを含めて3回目だしな…)



「あ、めっちゃ集中はしてましたよ。」


「集中か…それなら今もできそうなもんだがな…」


(確かに。となると他の…?他…他…ほかほか……?……そんなんどうでもいい。………ん?この感じ…なんかに似てんな…?えーっとなんだっけ…………)



「あ!そうだ、洗濯機!!!」


「何だ急に…?洗濯機がどうかしたのか?」


「ビリビリを出せた時は共通して洗濯機とか回転の《イメージ》をしてたんです!」



「《イメージ》か………………やはり…」


「やはり?」


「いや、私も骨の大剣を初めて出した時、溶鉱炉のイメージをしていたんだ。それから大剣を出す時は溶鉱炉を無意識にだが思い浮かべていた。アレス!」


「はい!やってみます!」


(エンジン………タイヤ……モーター…………そして…洗濯機!)




 次の瞬間、俺の体はビリビリを纏う。



「おぉ!出来た!!」


「なるほど…《イメージ》か…【神力】との繋がりを研究すべきだな……………それはそうとアレス。その力、試してみたくはないか?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「はっけよーい、のこった!」

(何故相撲!?)


 アフロの掛け声でホルスは飛び立ち、俺はビリビリを纏う。【神力】のテストの為の模擬戦が始まった。

 ホルスは中庭の上空を駆けながら機を伺っている。


(ホルスは速い、けど攻撃する時は俺に近付かざるを得ない。なら)


 ホルスが急接近してくる。俺はそこにカウンターを打ち込むが、


「あっちぃっ!!!」


 ホルスはカウンター圏内の直前で止まり、炎をこちらに放射してきた。俺は慌てて後ろに飛ぶ。


「そりゃお前はカウンター狙いだよな。」


 俺は声のする方へと振り向くがホルスがいない。それどころかどこを見渡してもホルスの姿が無い。



「………!上か!」


 俺は全力で右に飛ぶ。その直後、さっきまで立っていた場所がホルスに粉砕された。


(あっぶねーッ!!!!)



「まだだ。」


 そう言うとホルスはまっすぐこちらに飛んでくる。俺は構えようとするも何かに足を取られ体勢を崩してしまう。



(なんだ!?足元に違和感が……)


「穴!?」


 足元には穴、というより小さなくぼみがあった。


「こんなのいつの間にや」

「よそ見するな!」



 ホルスの蹴りが腹にクリーンヒットする。俺は軽く数m吹っ飛んだ。


「さっきお前が炎と遊んでた時にそこら中にいくつか穴を開けた。まだ僕の方が強いな、アレス。」


 ホルスは俺の顔面めがけトドメの蹴りを入れた。


(あぁ…クソ痛え……)




「けど…」


「!!」


 俺はホルスの足を掴む。ホルスは必死に引き剥がそうとするが絶対に離さない。


「油断したな…ホルス…」


「お前…もうボロボロだろうが!…クソッ、こうなれば!」


 そう言うとホルスは俺ごと飛び立ち、20m程まで来たところで、羽ばたく事を止め俺を下にして落下し始めた。


「お前を諦めさせるにはこれ位しないとダメらしい!さぁアレス!さっさと降参しろ!」



(ヤバい!このままじゃ土とディープキスだ!

…………良し!一か八か!!!)


 俺は落ちていく中でその時を待つ。


「早く降参しろ!」


(まだ…まだ…まだ………………今だ!)


 地面にすんでまで迫ったところで俺は動いた。

「なっ!?」


 空中で自分の体を捻りながらホルスの足を力いっぱい引っ張る。


「まずッ」



 ホルスが頭から地面に激突した。その後俺もホルスをクッションにする形で落ちる。



「痛ってぇ~……ホルス?」


 ホルスが動いてない。


「…」



 ホルスは気絶していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


-模擬戦から10分後のアジトの一室-



「しゃおらあぁぁぁ!!!ホルスに勝ったァァァァ!」


(よっしゃ!ホルスに初めて勝てた!)

 と俺が浮かれていると、


「うるさい!!何が勝ったよまったく……ホルス鼻の骨折れてたんだからね!?もう、私がいなかったらどうしてたのよ…」


「アフロがいるからやるんだよ。」

「や・め・て!!!」


 迫真の顔に何も言えなくなる。


「大体、ハデスさん達もなんで止めなかったの!!!」


「い、いや一応戦闘訓練だし…」


「訓練でケガしてどーすんの!!!」


「……すまん…」


(嘘だろ。アフロがハデスさんを論破している。いや、気迫で押しているだけだが。まぁ確かにちょっとやりすぎたかもな…)



「…アフロ、うるさい。鼻に響く。」


 ホルスが小声でアフロに訴えかける。が、その訴えも虚しく、


「うるさいじゃ無いよ!!!もしかしたらアンタかアレスがもっと酷い怪我してたかもなんだよ!!!分かってる!?!?!?」


「…うぅ、響く………」


「あ、ごめん…………ってなんで私が謝らなきゃいけないの!!!!!全くもう!ほんとに…」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-その日の夜-


「麦茶麦茶~♪」


 俺は深夜に喉が乾いたのでキッチンでお茶を注いでいた。


「アレス、ちょっといいか。」


「お、いいぜホルス。連れションか?」


 俺はホルスに呼ばれ廊下まで出る。そして出た途端ホルスは足を止めた。


「アレス。僕は今日お前に負けた。」


「お、おぉ。どうした急に。」


「お前は…強くなった。だから…」


 ホルスはハッキリとこちらを見て口を開く。



「僕とライバルになってくれ!」


「…は?」

 随分と躊躇した後に、ホルスはよくわかんない事を言い出した。


「ライバル…?俺達味方だよな?」


 ホルスはキョトンとする。


「…?あぁ。別に味方でもライバルは成立するだろ。」


「まぁ確かにそうだけど……どうして?」



「…俺は強いヒーローになって、多くの人間を救う。その目的の為、だ。」


「……ま、いいか。楽しそうだしな!」



「……よろしくな。」



 その後俺達は連れションし、ホルスの部屋で互いの事を話した。那由多すきなひとの事やアフロの機嫌取りの作戦会議など。


「やっぱり菓子が良いんじゃないか?」


「ポテチとか?」

「あぁ。」


「んじゃとっとと買ってこいよ。簡単じゃねぇか。」


「面倒だ。」


「お前なぁ………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


-とある森林-


「なぁ、やめようぜ…」


「大丈夫大丈夫!行けるって!」


-とある夜の森林を進む男女4人組。-


「ほんとに出たらどうすんのよ…」


「もう~みくちゃんったら怖がりだな~。お化けなんか出ないって!」


「違う!神獣の方!」


「え?あーwサエコが言ってたやつ?あんなんデマに決まってるでしょw」

-他3人の反対を押し切り、1人の男は森をぐんぐんと進む。-


ガサ

「ひゃ!いまなんか動いた!」


「おい~wそういうのいいって~w」


「違う!ほんとになんかいた…の……キャアァァァァァァァ!!!」


「え?」


-男が振り向くとそこには熊のような形の木が生えていた。-


「おーこりゃ似てんな~。これSNSに上げたらバズるかな~、なぁアキラ!どう思う?…ってあれ?アキラ?…カナちゃん?みくちゃん!?」


-男が仲間が消えた事に焦っていると背後から物音が聞こえてきた。男は急いで振り返る。そこには-





-熊の牙が迫っていた。-




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