第5話 神力の価値

「…これで俺も有名人かな」


 俺はそう呟いた。その後救助のヘリが来て女性とホルスを連れて行こうとしたが、俺もついていく事を条件にヘリへ載せた。 


 今はとにかくホルスが助かって良かったという安堵と、安易に飛び出した自責の念に駆られる。


 そういう事を考えているうちに病院に着いた。外からホルスの治療を見守るが思ったより傷は深くないようで、特に大きな手術等もいらないようだ。

 またさらに安堵していると、



「やぁ、こんばんは」

 

 と知らない声で話しかけられる。折れが顔を上げるとそこには見慣れたおっさんが立っていた。


かべ総理………」



 現在の日本の総理大臣、壁さんだ。

「総理が自ら来るとは思ってませんでしたよ。」


「いやぁ、君達の功績は称えるべきものだからね。私自ら来たまでだよ。」



 この言葉は本心なのか嘘なのか。思考を巡らせていると向こうから話しかけてくる。


「君達は同じ組織に所属しているのかい?」


「えぇ、人を助ける組織です。あんたらが認可してくれるとありがたいんですけどね。」


「そう簡単にはいかない。」

(そりゃそうか…)


「だが、非合法とも言えない。」

「!」

「とは言っても君達にも不利益な話かもしれないがね、神力者を今まで通り従来の人間と同じ枠組みで見ていいのかと僕は考えるのさ。」



「…つまり?」


「神力者は人間ではないと考えているという事だ。

 とは言えど、だ。僕達には神力者を倒せない。捕獲する事ができないんだ。そこで表立っては君たちの行動を許可しない。神力者に権利を与える事と同義だからだ。だが、君達の行動にも口を出さない。そして我々が求めるものは君達が倒した神力者だ。」



「…悪い話じゃないのはわかりました。ただ、その神力者…何に使うつもりですか」



「…まぁ、大した事ではない。」


「いや、こっちが求めてるんだから…」


 俺がそこまで言いかけると総理は俺の胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「いいか…?私が今しているのは交渉ではない。脅迫だ。貴様らにはこうする以外道は残っていないのだ。分かったな?理解したと言え。」



「…分かった。」

「…………うむ。それでは後日貴様らのリーダーとの対話の機会を取ろう。予定が決まり次第使者を送る。それまでは戦闘行為を行うな。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 という事で俺らはやる事が無く、暇だからワンチャンに賭けて求人募集をしているのであった。あの後政府の権限やら何やらでインターネット上のHOPEsの情報はあらかた削除された。

 ちなみにポセイドンさんはこういうのに向かないので、今日一日夢の国に行ってもらっている。今頃楽しんでいるだろう。



「分かってはいましたが、来ませんね。」

「ホルスとハデスさんが仏頂面だからだろ。」

「何か考えないとなぁ…」



……マジで誰も来ない。正直来る気がしない。東京の真ん中も真ん中の駅近なのにだ。まぁ、トラックの荷台の中に机と椅子を置いてるだけの場所に、入ってくるような奴がいるかと言われると反論は出来ないが。

 それにメディア露出が出来なかったせいで、傍から見ればトラップ以外の何物でもない。



「つーかさ、なんか忘れてる気がするんだよなぁ~。」

「うーむ。私もそんな気がする。」



「…あ、」

「どうした?ホルス」



「僕達、給料なくないですか?」


「「あ」」


 そういや、無い。いやあるのかもだけど。別に俺達はお金目的でやってないから忘れてたけど、求人するなら給料を記載しなければならない。そりゃそうだ。

 


「ハデスさん。僕達、給料あるんですか?」



「…………欲しい?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 と、言う事でsnsに載せた募集要項を取り消し、時給3000円と足してアップした。するとさっきの5倍はバズった。なんだかんだで神力者ってのは珍しいらしく、すごい拡散される。


「つっても、来ないな~」

「だな。」


 俺とホルスのこの会話ももう100回位はしただろう。



「…時間だ。二人共、今日はもうお開きにしよう。」


「はーい。」

 一日を無駄にした、と憂鬱になりかけたその時



「あ、あの!」


 女子の声が正面から聞こえた。俺達はすぐに目線を向ける。そこには白いワンピースに身を包んだ金髪の、何がとは言わないが大きい子が立っていた。



「………も、もももももしかして…?」


「えと、、面接…受けにきま」

「「しゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」


「!?」


 俺とホルスがガッツポーズを取るとその子はびっくりした様子で後退あとずさる。


「すまないね。そこにかけてもらえるか。」

「あ、はい。」


 冷静なハデスさんを見て俺達も席に座る。


「ゔゔん。それでは改めて、はじめまして。今回面接官を務めさせていただくアレスと」

「ホルスと」

「ハデスです。」



 まずはハデスさんが口を開く。

「名前を聞かせてもらっても良いかな?」


「周防れいこです。16歳です。」

 タメか。というか目が別の所に行ってたから気づかなかったが、この子相当可愛い。


「周防さんは神力者かい?」


「あ、えっと、はい。」

「どんな?」


「あふりょ、ん"ん"!アフロディーテです。人のケガを治す事が出来ます。えっと、あと一応、弓も使えるみたい…です。」


「使った事ないんですか?」


「治癒の力は使いました。神力者犯罪の時に。弓は使った事ないですけど、出せるって事は分かります。」


(そういやモノホンアレスが言ってたな、普通は分かるって。)



 俺がそんな事考えている内に、ハデスさんが核心にせまる質問をする。


「周防さん。貴方がこの仕事をしようと思ったらきっかけはなんですか?」


「えっと、急に【神力】とかわけわかんないことが起きて不安で、仲間がいれば心強いかなぁって。」


 切実な理由。俺としては正直で好きだけど多分、




「そんな理由じゃ続かないぞ。」


……やっぱり、予想通りホルスが口を出した。


「おい、ホルス。失礼な態度を取るな。」


「すいませんハデスさん。でも、事実です。周防さん。」

「は、はい!」


「俺はこの前死にかけました。」

「!」



「おい、そんな話して怖がらせなくてもいいだろ。」


「駄目だ。いいですか、俺はこのバカがいなければ死んでいたんです。危険な仕事ですし、何が起こるかわかりません。無茶をさせてしまう事があるかもしれません。

 そうなったら貴方は死ぬかもしれない。そしてもし貴方が死ななくとも、貴方が躊躇する事で他の人間が死ぬかもしれない。…覚悟がないなら辞めておくべきです。」


「……」

 俺はホルスの優しさを再認識した。俺達はもし死ななくとも普通には生きられない。それでも良い、って覚悟のないこの人を普通に生かそうとしてるんだ。




「………覚悟ならあります。」

「!」


 ホルスの言葉を聞いた周防さんから予想外のレスポンスが来た。


「聞かせてください。」

 ホルスが冷静に問う。


「えっと、さっきはあぁ言ったけどそれは、まぁ本当ですけどメインじゃないっていうか」


 ハデスさんが聞く。

「本当の理由があるんですか?」



「……私には10歳年下の弟がいるんです。

 私が産まれたときに私の母親は死んだらしく、父は私を孤児院に預け消えたんです。

 そして今度は私が10歳の時に父が弟を同じ孤児院に捨てていきました。置き手紙があったから分かったんです。その子を捨てたのは父だって。それから父は、どうしてるのかわかりません。

 だからお互いが唯一の家族で、私が大人になったら2人で小さなアパートを借りて暮らすつもりだったんです。

 でも、ある日2人で外出して買い物してたら、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お姉ちゃん!これ欲しい!」 

 弟はよくわかんないベルトを指差しながらそう言う。


「えーそれ高いじゃん。ダーメ。私のバイト代なくなっちゃうよー」

 去年始めた焼肉屋のバイト。稼ぎは良いけど忙しい。正直やめたい。



「…ケチ」


「なんだとお~!このこのこの!」


「あは、やめて、お姉ちゃんあははくすぐったいよ~!はぁ…はぁ……じゃあ今度買って?」


「んーどうしよっか……何?あれ」



 意地悪をするか悩んでいた時にモールの奥の方から悲鳴が聞こえてくる。それと同時に雷がモールの天井を破壊し、モール内に落ちている風景が目に飛び込んで来た。しかも一つだけじゃない。何個も連続でだ。



「…ねぇ、お姉ちゃん。なんかやばいよ。」


「うん。」

 私は弟を抱えて雷とは逆側へと走り出す。後ろからは悲鳴が聞こえ段々と雷の音が大きくなっている気がした。



「あと少しでお外だからね!」


 出入り口が見えてくる。 しかし出入り口まであと10m程の所で出入り口が崩れた。


「そんな…」


 幸いにも巻き込まれはしなかったが、後ろからは雷鳴の合間に聞こえる悲鳴がどんどんと近づいて来ていた。



「……!」


 私はエレベーター横の階段へと走った。このモールには地下がある。そこへ逃げ込もうと思った。


 だけどその時、ちょうど真上の天井が崩れる。弟を突き飛ばして私は下敷きになった。






 暫くして私は意識を取り戻した。幸いにもそこまで大きな瓦礫では無かったので、私はなんとか這い出る事が出来たが辺りを見ると一緒に逃げて来た人達はもういなくなっており、出入り口を塞いだ瓦礫の山には抜け道が作られ、雷の音も止んでいた。


 私は下敷きになる直前に突き離した弟を探す。


「どこにいるの~!!!返事して~!!!」


 返事はない。恐らく他の人と一緒に逃げたのだろう。


 私も外に出ようとしたその時、ふと一つの瓦礫の山が目に入った。なんの変哲もない瓦礫の山だが、調べすにはいられなかった。

 

 私は瓦礫に近寄り、瓦礫を一つ一つどかしていく。



「ーーーー!」


 そこには弟の靴が挟まっていた。


 私は必死に瓦礫をどかす。まず腕が見え、次に足が見えたが、どうもおかしい。弟はこんなに長身じゃなかった。


 弟の体は腰の部分でちぎれていた。



「…お願い!起きて!!起きてっ!!お願い!」


 必死に呼びかけた。すると弟のまぶたが少し動く。助かる。まだ助けられる。

 

 私は必死に止血し、溢れ出る血を止めようとした。幸い岩で塞がれており失血はもとより抑えられていたが、まだ保つかは分からない。


「大丈夫だよ。いま病院に連れて行くから。大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫、大丈夫。」


 止血が終わり弟の体を抱き上げると、なんだか冷たかった。


 抱き上げて初めて気がついた。弟の頭の裏が大きく裂けている事に。私は、腰のケガに必死で気付けなかった。直後事態を認識した私の目からは涙が溢れる。



「ッいやだいやだいやだっ!!!死んじゃ嫌だよ!!お願いだよっ!!!生きてよっ!…………お願いだよ………」



 私は、目を閉じて祈った。




 目を開けた時、私はなにも無い空間にいた。

 

 そこで私は神力者となった。傷を治癒するアフロディーテ。

 私はすぐに現実世界に戻り弟に対し両手を掲げる。しかし何も起きなかった。再び両手を掲げる。やはり何も起きなかった。


 この力は傷を癒せても蘇らせる事はできなかった。



 この時、初めて実感した。弟は死んだのだと。もう私に家族と呼べる人間はいないのだと。


 これまでの人生で最悪の気分だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「その後は弟の死体を持って避難した人の怪我を癒やした後、孤児院に帰りました。お葬式も終わってバイトも辞めて部屋でネットサーフィンをしていた時に、この求人を見つけました。」



「…」

 ホルスは黙っている。俺とハデスさんもだ。


「さっきは、人に言うような話じゃないと思って隠してしまいましたが……私は、もう誰にも大切な人を失ってほしくありません。

 確かにいつかは失います。けどせめて、私が救える範囲の人間は、救いたいんです。だからお願いします。私をここにおいてください。」



「ーー

 ホルスが口を開く。




 HOPEsへ、ようこそ。それと…すまなかった。」

 

 こうして、新たな仲間が加わった。

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