第7話 もう一人の兄弟

「今まで隠していてすまなかった。」


(弟?ポセイドンさん以外にいたのか?)


 ハデスさんからの急な告白に俺とアフロは戸惑う。


「あの、どうして隠してたんですか?」


「すまない、悪気はなかった。いつか言おうと思っていたのだが。…隠すような形になった理由も添えて説明する。いいか?」


 俺とアフロは互いに見つめあい頷く。



「……お願いします。」



「よし。まず、私とポセイドン、秋斗あきとは三つ子の兄弟だ。秋斗はポセイドンの下。つまり末っ子だな。

 奴は昔から私達の中で最も出来が良かった。小さい頃のあいつはそういう所もあってか、少しやんちゃで自己中心的な奴だった。根から悪いやつでは無かったがな。

 そして私達は大人になり離れ離れとなった。ポセイドンや両親とはよく会う機会があったが、秋斗とはまるで無かった。私達が27歳の時、あいつと連絡が取れなくなったんだ。

 それから会うことは一切無く、ほとんど忘れかけていた頃に【神力】が発現した。私とポセイドンの両方に。その二日後に、奴は現れた。」



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夏雄なつお!久しぶりだな。」


「やぁ~ぱり春人はるひともここに来るよねぇ~。つけられていなぁいかぁい?」


「あぁ。にしてもこの家も丈夫だな。もう何年ももぬけの殻だったろうに。」


 そこは幼少期を過ごした実家。立派な日本庭園のある大きな家だった。



 私達は日本庭園を見ながら縁側に座り、話し出す。


「政府はどう動くと思う?」


「ん~まぁ~狩りに来ると見ていいんじゃなぁ~い?」


 私と夏雄の意見は大まか一致していた。神力者は少ない。かつ危険だ。となると政府が狙わない訳は無いだろう。



(にしても少ない神力者のうちに良くも私達兄弟が入ったな。……秋斗…あいつは今生きているのか?もし生きていたとしたら…)


 私は我慢出来ず口を開く。



「……なぁ、秋斗についてだが…」




「呼んだか?」


「「!」」


 不意に背後から声がする。聞いた事のない声。

 私と夏雄は同時に振り返った。そこにはまるで私を生き写したかのような人間が立っていた。

 


「秋斗!お前今までどこで何をやっていたんだ!」


 秋斗はニヤリと笑う。私は冷静になり、目の前の男は髭が剃られている事に気が付いた。


「まぁ色々だ。それよりお前らもここにいるって事は、発現したんだろ?【神力】。」


「あぁ。じゃあやはりお前も?」


「あぁ、とびきりの奴を。じゃあ早速本題だ。



 俺達で日本を落とそう。」



「…は?何を言っているんだ秋斗。落とす?」


「あぁ、そうだ。何か可笑(おか)しいか?…あぁ。違うよ。別に皆殺しにしようって訳じゃない。この国の主権を握ろうって話だ。」


「別に変わらん。そこにたどり着くまでにお前、どれだけ殺す気だ?」


「なら何だ?何もせず国に殺されるのか?」



「…別の方法で生き延びる。いいか秋斗?人を殺すなんて馬鹿な事をしてみろ。その時は私がお前を殺してやる。」


「じゃあ殺り合うか。」


 次の瞬間、秋斗の拳が私の顔に迫った。が、夏雄が止める。



「なぁ~にをしてんだあきとぉ~?」


「何って、人を殺したら殺すんだろ?じゃあ殺れよって話だ。」


「待て、お前…まさかもう……?」


「まあな。お前らだっているだろう?気に入らない奴の1人や2人。色々面倒臭いよな。だが殺せば全部解決するんだ。」


「秋斗ッ!!!」


 私は秋斗に殴りかかるが、秋斗はその拳を受け止める。


「そうカッカするなよ……。大人になって少しは利口になったかと思ったが、まだガキのままのようだな、お前らは。どうせ夏雄も春人につくんだろう?

この国の主権を握らず、これからどうするつもりなんだ。別の方法?具体的な案を言ってみろ。」




 少しの沈黙の後私は口を開いた。


「私は人を殺さない。この国を脅かす神力者達を取り締まり、人々の命を助け政府公認の組織となり生きていく。」


 それを聞いた秋斗は笑い出す。


「はぁ?お前ら2人で?どうやって?お仲間でも集めるのか?そんなバカなプランに賛同する仲間を?」


「……秋斗、お前何があった?これまでの50年以上。お前はどう過ごしてきたんだ?」


 昔と違う秋斗の姿に私は混乱を隠せなかった。



「まぁ、いずれ教えてやるよ。

……お前らはヒーローごっこで生きていくんだよな。

なら、ここに宣戦布告をしよう。」


「宣戦布告だぁ~ってぇ?」



「そりゃそうだろう。俺はいつか軍隊を引き連れてこの国を落とす。その時、俺は何人民間人を殺そうとも構わない。守りたいんだろ?守ってみろよ。」



「……なぁおい秋斗よ。」


「?」


「貴様が本気でそのつもりならば、」


 私は地面から生やした骨の大剣を握りしめる。


「今、ここで始末する。これ以上人を殺す前に。」



「………お前にやれるのか?俺が」


 そう言うと秋斗は距離を詰めてくる。速い。少なくとも私よりも。

 私はすぐさま大剣を振り下ろすが秋斗はこれを軽く避ける。今度は私の腹に秋斗の拳が飛んでくるが避けられなかった。


(くっ……重いッ!)


 私は軽く外まで吹き飛ばされる。



「んー【神力】の差も間違いないが、それ以上に人間としての練度が違う。そういえばお前には昔から喧嘩の才能は無かったな。

……別に殺すつもりで来た訳じゃなかったんdー」

 秋斗が次の言葉を言おうとした瞬間、バケツ一杯程度の水に横から殴り飛ばされる。


「ぼぉ~くだって戦うよぉ~う。」


「ハッ。お前のは結構強そうだな。じゃあこれは防げるか?」


 秋斗はそう言うと右腕を胸ほどの高さまで上げ、指に力を込める。そして、指を鳴らしたと同時に周囲に轟音が鳴り響き視界が奪われた。

 


「何が起きた!おい!夏雄!大丈夫か!おい!」


 視界が回復した私は周囲を見渡す。先程まで夏雄が立っていた場所には砂埃が舞い、何も見えない。

 砂埃が消えると、そこには全身に傷を負った夏雄が立っていた。


「ゲホッゲホッ、はぁ……はぁ……」


「おい!夏雄!大丈夫か!」


「ん~この程度の出力じゃ神力者は殺せないか。」





 私と夏雄の【神力】から予想はついていた。だが今ので確信した。こいつは、秋斗の【神力】は


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「ゼウスだ。」


 ハデスさんからその神の名が告げられる。


「雷を落とす能力、他よりも高い身体能力、現在わかっている情報はそれだけだ。

 奴はその後何も無かったかのように去っていった。私達に止めを刺すことも無く。その後ホルスと私達は出会ったんだ。」


 そこから話が続きそうだったがアフロが口を挟む。



「……そいつが、私の弟を殺したんですか?そいつなんですか?ハデスさん。」


(……!そうか、モールで起きた謎の神力者犯罪による雷でアフロの弟は死んだ。ゼウスは雷を司る神、可能性はある。)

 


「……現状はわからん。だが、その可能性は高い。」


「それが言い出せなかった理由ですか。」


「あぁ。せめてその件の犯人は誰なのか判明してから全て話そうと思っていた。だが実際捜査は難航しており、お蔵が濃厚らしい。」



 ゼウス。今後俺達が戦う事になる相手。正直今の話だけ聞いたら勝てる気はしない。雷を落とすなんてパワーが違いすぎる。



「もうわかるだろうがHOPEs誕生の直接のきっかけは秋斗、いやゼウスにある。奴の暴走を止める。それがHOPEsの目的の1つだ。

 とは言えど奴の【神力】は強力だ。それに、奴は仲間を集めると言っていた。…残念だがきっと集まるだろう。この機に犯罪を起こそうなんてバカは少なくない。

だから私達は強くなる必要がある。奴から人々を守れる位に強くなる必要がある。そこで」


 



「本格的な戦闘訓練を行う。」

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