キス、そしてゴブリン
「レヴィ! 私もゴブリン倒せるかな?」
「え」
ゴブリンがよく出るという森に向かっている最中、抱っこをしているミレーヌにそんな事を聞かれてしまい、俺は思わずそんな声が漏れ出てしまっていた。
「み、ミレーヌにはまだ早いからな?」
「えー、でも、さっきの話だと、ゴブリンを倒す依頼って低いランク? でも受けられる依頼ってやつなんでしょ? だったら、大丈夫なんじゃないの?」
「おー、偉いな、ミレーヌ。ちゃんと話を聞いてたんだな」
そう言って、ルアと繋がされていたもう片方の手を離して、俺はミレーヌの頭を撫でた。
「うんっ。もっと褒めて褒めて」
「あぁ、偉いよ、ミレーヌ」
「……僕だってちゃんと聞いてたのに」
何度このやり取りをやらせるんだよ。
見た目は置いといて、お前は大人だろうが。
と言うか、そもそも本当に話を聞いてたのか? ミレーヌは信用できるけど、ルアはなぁ。……別に信用できないとは言わないけど、こういう嫉妬心むき出しの時はちょっとな。
「ゴブリンの討伐証明部位はどこか分かるか? ルア。さっき受付嬢が言ってたぞ」
どうせちゃんと聞いていたってそんなことでルアの頭を撫でたりはしないから、ルアが本当に話を聞いていたか聞いていなかったかを暴く必要なんてないんだけど、俺はそう聞いた。
「えっ、あー……み、耳?」
「……合ってるな」
ただ、視線がミレーヌの方を向いていたのが気になる。
……ミレーヌがジェスチャーか何かでルアに伝えたのか? 最初の反応的に絶対聞いてなかっただろうし、そうなんだろうな。
はぁ。うちの娘は優しすぎるな。
「ほ、ほら! 合ってたでしょ? ちゃんと聞いてたでしょ? だ、だから、僕の頭も撫でてよ」
「……ミレーヌに教えてもらったんだろ」
「えっ、あっ、ち、違うよ? ち、ちゃんと聞いてたよ? だから、答えられたんだよ? その子……ミレーヌは関係ないよ!」
「はぁ。ほら、よしよし。これで終わりな」
俺もミレーヌに染まったのか、甘くなったな、と思いながら、俺はルアの頭を少しだけ撫でた。
ズルをしてるんだから、少しだけで充分だ。
「僕ももっと撫でてよ」
「……ズルしたんだから、ダメに決まってるだろ」
「……じゃあキス」
「もっとダメだわ」
「キス?」
ほら、お前のせいでミレーヌが変な言葉を……いや、別にキスは変な言葉じゃないか。
ミレーヌでも全然覚えておいていい言葉だったわ。
「あー、キスっていうのはな、好きな人とするものだよ」
「私とレヴィもする?」
「家族はしないんだよ」
「恋人ならするの?」
「まぁ、するな」
「……ずるい。私もレヴィの恋人になる」
「俺たちは家族だって話をこの前しただろ? そもそも、ミレーヌはキスがどういう行為か知ってるのか?」
「……えっと、ギュッとする?」
「違うよ。キスっていうのは……」
これ、どうやって説明したらいいんだ?
やばい。キスの説明の仕方なんか分からないぞ。
「大丈夫。僕がミレーヌの為にレヴィと実践してあげるから」
「ほんと?」
「しないからな?」
優しさのように見せかけてるけど、ただルアがしたいだけだろうし、するわけが無い。
「まぁもうキスのことはいいんだよ。ほら、ゴブリンが出てきたぞ」
「ギャッギャギャギャ」
ちょうどいいタイミングで出てきてくれたゴブリンに視線を向けながら、俺はそう言った。
すると、その瞬間ゴブリンが跡形もなく消えた。
聞くまでもない。ルアがやったんだ。
……さっき、討伐部位の話はしたよな? 何やってるんだよ。
「ゴブリンなんかより、レヴィ、キスしよ?」
……仮にするんだとしても、こんな場所ではしたくねぇよ。そもそもしないからどうでもいいけど。
と言うか、何がゴブリンなんかより、だよ。今の俺たちの目的はゴブリンだろうが。
そう思った俺は、ルアのおでこにペシンとデコピンを食らわせた。
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