甘くなった、そしてルアのこと

「レヴィ」


 目が覚めると、ルアと目が合った。

 そして、ルアもそのことに気がついた瞬間、ルアは俺に向かって口をすぼめてきた。

 どう考えても、キスしようとしてきてるよな。

 ……ミレーヌが居るんだ。そんなことするわけないだろ。

 ミレーヌが居なくても、絶対しなかったけど。……そもそもの話、ミレーヌが居なかったら、一緒に眠ってないどころか、こうやって再会もしてないだろうけど。


「……それ以上近づいたら怒るぞ」


「分かったよ。その代わり、もうちょっとこのままでいさせてよ」


「……ミレーヌが起きるまでだぞ」


「うん。分かった」


 そんな感じで、ミレーヌが起きないように小声でやり取りをした俺はもう一度目を閉じた。

 どうせまだ暫くは起きないと思うしな。

 ルアは俺の体を色々と触って抱きしめてきてるけど、変なところにさえ触られなければ、正直問題ない。

 ミレーヌに良く尻尾だったりを触られてたから、なんか慣れてるんだよ。

 そんなことを思いながら、俺はもう一度、眠りについた。




「レヴィ、起きて、朝だよ」


「あっ、まだ起こさなくていいって言ってるのに……」


「ん……あぁ、もう朝か。……おはよう、ミレーヌ」


 なんかルアのふざけた言葉が聞こえてきたけど、それを無視しながら、俺はミレーヌと目を合わせて、そう言った。


「……僕には何も無いの?」


「ほら、起きるぞ、ミレーヌ」


「うんっ」


「無視……」


「……ルアもおはよう」


「う、うん。おはよ、レヴィ」


 単純に、挨拶もできないような奴にはなりたくないから、俺はそう言った。

 別にルアの泣きそうな顔を見てそう言った訳では無い。俺はこいつに泣かれようが、どうでもいいし。

 ……ミレーヌがまた頭をなでなでしてあげて。とか言ってくるかもだし、泣かせないに超したことはないけど。

 ……と言うか、ルアは大人なんだから、泣くなよ。

 今更だし、何も言わないけどさ。……裏を返せば、それくらい好かれてるってことでもあるし。


「ルア、朝食はミレーヌだけでいいな?」


「うん。いいよ。僕達には必要ないしね」


 そんな会話をしながも、俺は起き上がって、ミレーヌに朝食のパンを手渡した。

 そして、ミレーヌが朝食を食べている間に、俺は未だに毛布を返してくれていないルアに言う。


「そろそろ毛布を仕舞うから、返せ。別に寒くなんてないだろ」


「……寒いもん」


「そんなわけないだろ。ミレーヌが言うのならともかく、俺たちは人間じゃないんだ。寒いわけないだろ。さっさと返せ」


「……み、ミレーヌが食べてる間だけでもいいから、待ってよ」


「はぁ。ミレーヌが食べ終わったら、絶対返せよ」


「う、うん。分かってるよ」


 本当に俺も甘くなったな。

 ミレーヌを育てる前だったら考えられないし。


 ……うん。ミレーヌが食べ終わってからって約束したんだし、もう俺から言えることなんて無いんだけど、匂いを嗅ぐのなら、せめて俺から見えないように嗅いでくれないかな。

 

「ミレーヌ、こっちおいで」


「うんっ!」


 そう言って、俺は朝食をゆっくり食べているミレーヌを自分の膝に座らせた。

 ルアの方を気にしないようにするために。


「レヴィ、頭も撫でてぇ」


 そうしていると、ミレーヌは甘えたような声でそう言ってきた。

 

「はいはい」


 ルアもこんな感じに素直だったら……いや、ルアは普通に素直な方ではあるのか。

 頭おかしいけど。思考がかなり危なっかしいけど。


「レヴィ、私もレヴィの匂い好きだよ! だから、ルアのこと、嫌いにならないで?」


「……ミレーヌはルアのこと、好きなのか?」


「うん。ちょっと意地悪だけど、眠る時、レヴィと一緒にギュッとしてくれたし、好き!」


 それは……いや、別にわざわざ言う必要は無いか。

 これから一緒に旅をすることになってるんだし、嫌いでいるより、好きでいる方がいいに決まってるしな。

 ……まぁ、もし仮に、ミレーヌがルアのことを嫌いって言っていた場合、絶対置いていってたけど。

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