平凡な村に守り神として君臨して早1000年、今までこんなこと無かったのにいきなり生贄が捧げられた俺はこの娘をどうしたらいいんだ?

シャルねる

700年ぶり、そして出会い

「よし、これで今日もあの村は平和かな」


 村の周りに散らばっていた魔物を適当に処理した俺はそう呟いて、1000年前から全く変わらない洞窟に戻った。

 洞窟と言っても俺は夜目が利くし、ベッドだって置いてある。快適……とは言えないけど、悪くない暮らしは出来てるし、1000年も過ごせるくらいには過ごしやすい場所だ。

 ……ただ、問題があるとすればもう700年は村の人達に会ってないってことだな。


 昔に約束した食の保証は守られてるし、忘れられてるってことは無いだろうから別にいいんだけど、流石に人肌……と言うか、誰かと喋るということが恋しくなってくるぞ。

 普通、長寿な奴ってこういう感情には乏しいはずなんだけどな。


「ちょっと久しぶりに村まで行ってみるか」


 そろそろ村の住人が食事を運びに来てくれる頃合だし、そいつと一緒に村に行くか。

 会うのは700年ぶり……なわけないか。相手は人間なんだし、俺が700年前に話をしていた人間はとっくの前に死んでいるはずだ。


「尻尾……は隠さなくてもいいか」


 一応、今は人型ではあるけど、龍の尻尾のようなものが腰の辺りから生えている。

 人間と会う時は基本的に尻尾は魔法で隠して会ってたんだけど、一応俺はあの村の守り神的な存在になってるし、このままでも大丈夫だろ。

 自分の一部を隠すのって実はちょっと違和感を感じるから、隠さないでいいのなら隠したくなんてないんだよ。尻尾だけは人型になっても何故か消えなかったからな。


 そんなことを考えていると、一人の人間の気配が近づいてきた。

 よし、いつもは会う理由も無いと思って無視してたけど、今日は喋りに行くぞ。……700年ぶりだから、上手く喋れるか分からないけど。




「よ、よう。初めましてだな」


 そして、なるべく接しやすいように、俺は気安い感じで食事を持ってきてくれた村の住人にそう言った。

 目の前の村の住人より俺は圧倒的に年上だし、少しでもフランクに行く方がいいと思ったんだよ。


「ひ、ひぃぃぃぃ。ゆ、許してくださぃぃぃぃ」


「え、いや、ちょっと……」


 俺が何かを言う前に、そんな絶叫を上げて食事を持ってきてくれた村の住人は持ってきたはずの食事を持ったまま村に逃げ帰ってしまった。

 え? 俺って守り神的な立ち位置のはずだよね? 少なくとも、700年前は慕われてたんだぞ? なんであんなに怯えてたんだ? と言うか、俺の食事は?


 なんかよく分からないけど、めちゃくちゃ怯えてたみたいだし、追いかける訳にもいかないよな。

 ……自分の尻尾でも焼いて食うか? 一応、尻尾なんて一日もあればまた生えてくるし、食べれないわけではないんだけど……流石に自分の一部を食うのは無理だな。


「はぁ。今日くらいは諦めるか」


 食事をしなきゃ死ぬ、って訳でもないんだし、今日はもう諦めよう。

 そう思って、俺は傷ついた心を癒すために洞窟に帰った。

 いや、だってさ、何もしてない……どころか、仲良くしようとしていた相手にいきなり怯えられたんだぞ? 悲しいに決まってる。

 しかもつい700年前までは慕われてたんだし、尚更だ。




 それから一日後。

 何故か俺の目の前には足枷を嵌められた12歳くらいの死んだ目をした娘が手紙を持ちながら、暗い瞳で俺を見つめていた。

 いや、何この状況。

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