酷すぎる勘違い、そして謝罪
よし、落ち着け、俺。
まずはゆっくり、この娘に状況を聞こう。
昨日は村の住人に怯えられたことが割とショックで
寝込んでたから、俺は本当に状況を理解出来てないんだ。
だからこそ、状況把握は大事だ。
「えっと、君、話は出来る、かな?」
よ、よし。昨日よりは上手く話せてると思うぞ。
昨日なんで怯えられたのかを色々と考えて、頭の中でどうしたら良かったのかを何回もシュミレーションしたんだから、完璧なはずだ。
「……」
俺が内心で自画自賛をしていると、娘は暗い瞳で俺を見つめたまま、持っていた手紙を無言で俺に突き出してきた。
……読めってことか?
そう思った俺は、手紙を受け取った。
そして、ゆっくりと手紙を開いた。
あ、文字は1000年前と同じなんだな。
良かった。読めない可能性もあったから、ちょっと怖かったんだよ。
この娘が喋ってくれない以上、この手紙が今のこの状況を理解出来るかもしれない唯一の手がかりだからな。
「えっと、なになに」
そうして手紙を読み始めようとしたところで、俺は固まった。
いや、だってさ、最初からおかしいんだよ。
え? 何この【邪神様へ】って。一体いつから俺は邪神になったんですか? 別に神ですらないんだけど、昔は守り神だなんて呼ばれてたんだぞ? それが邪神は無いだろう。
「……ふぅ。落ち着け。と、取り敢えず、続きを読もう」
全く意味が分からないが、一旦邪神という言葉は無視して、俺は改めて手紙を読み始めた。
【邪神様へ。この度は村の者が大変な失礼をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした】
ふむふむ。
全然気にしてないけどね? ……傷つかなかった、と言えば嘘になるけど、別に怒ってはいないし、気にしてないと言っても過言では無いはずだ。
【邪神様は次の生贄が遅かったからこそ、様子を見に来ようと村に降りてこようとしていたのでしょう】
???
え? なんなのこの手紙。生贄? そんなの俺は求めた覚えはないぞ?
困惑でいっぱいになりながらも、俺は手紙から目を逸らして、目の前で暗い瞳をしている娘を見た。
違う、よな? そんなわけない、よな?
そう思いながら、俺はまた手紙に視線を落とした。
一旦、手紙を全部読み切ろう。
【遅くなってしまい申し訳ありません。その娘はまだ12歳と成熟していませんが、生まれた時から生贄として育て上げた存在です。邪神様も必ず気に入ってくれると思いますので、どうか、村の者はお許しください】
……生贄として、生まれた時から育てた?
なんで俺が邪神なんてことになっていて、生贄を欲している、ということになっているのかは分からない。
ただ、一つだけ分かることがある。
俺の知らない700年の間に、アイツらの子孫は完全に腐っていた、ということだ。
俺を邪神だと思っていたのなら、教会や国に助けを求めれば良かっただろう。
ただ、それをしなかったということは……
「……すぅーはぁ」
俺は手紙を握りつぶしながら、深呼吸をした。
「娘……いや、君、名前は?」
そしてそのまま、手紙を洞窟の片隅に放り投げながら、目の前の娘と目線を合わせながら、俺はなるべく優しい声色でそう聞いた。
「……?」
すると、娘は何も言わずに暗い瞳のまま、黙って首を傾げてきた。
……言葉が理解出来てない、のか? ……そうか。そう、だよな。生贄なんてものとして育てられたんだとしたら、わざわざ言葉なんて教えないよな。
俺は目の前の娘をゆっくりと抱きしめた。
「ごめんな。俺が、俺が700年も村の住人と関わらなかったばっかりに、お前をこんな目に合わせちまった。……本当に、ごめんな」
そして、そう言った。
すると、言葉が分からずとも、何か俺の気持ちが伝わったのか、娘の瞳からは涙がこぼれ落ちてきていた。
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