名前、そして初めての子育て

 生贄の娘なんてものが俺に送られてきてから、1年の時が経った。

 特にあの村に対して俺は何もしていない。

 今までのように、魔物を倒すこともしていない。

 もう、あの村がどうなろうと、俺の知ったことじゃないからだ。


「レヴィ! レヴィ!」


 ……そして、そんな噂の生贄として送られてきた娘は人が変わったように目を輝かせ、少し前に俺が切ってやった黒い髪をゆらゆらと揺らし、俺の事を呼びながら何かを俺の前に持ってきていた。

 相変わらず俺の名前が少し足りないんだけど、まぁ、それはもういいや。別に自分の名前にこだわりがある訳でもないし、問題なんて全くない。

 

「どうした、ミレーヌ」


 ミレーヌ……それが生贄として送られてきた娘に俺が付けた名前だ。


「これ! ひろった!」

 

 ミレーヌは自信満々に何かを俺に見せてきている。

 うん。なんだ? それ。

 分からん。

 全く分からん。

 ただ、たった一年とはいえ、生活の仕方や言葉を教えてきた相手だ。何をして欲しいのかくらいは分かる。


「よしよし、偉いな」


 ミレーヌの頭を撫でながらそう言うと、ミレーヌは嬉しそうに目を細めつつ、持っていた何かをポイッ、と放り捨てた。

 ……俺に頭を撫でて欲しくて、適当に変なものを拾ってきてただけね。

 ……俺、甘やかしすぎなのかな。

 いや、でも、子供の世話なんて1000年以上生きてて一度もしたことなんてなかったし、分からないんだよ。


「……ただ、このままじゃ不味い、よなぁ」


 いくら子供の世話をしたことが無いとはいえ、この洞窟でこのまま暮らすのはどう考えてもダメ、だよな。

 絶対もっと広い世界を知った方がミレーヌの為になるはずだ。

 はぁ。仕方ない。もう2年……いや、1年もしたら旅でもするか。

 ミレーヌは物覚えがいいし、1年もあれば流暢に言葉を喋れるようになるだろうしな。


「レヴィ? どう、したの?」


「ん? いや、なんでもないよ」


 まぁ、1年で旅に出る、とは思ったものの、1年で言葉を流暢に喋れるようにならない可能性だってあるし、もしその場合はゆっくりでもいいだろう。

 ミレーヌはまだ13歳だし、人間としても時間はあるだろうしな。


「レヴィ……」


「もう寝るか?」


 内心で色々と考えていると、ミレーヌの瞼が重たくなってきてるのを察した俺は、頭を撫でつつ、そう聞いた。


「んー、寝るぅー」


「はいはい、じゃあ、ベッドに行こうな」


 そうして、俺はミレーヌと一緒にベッドに入った。

 いやさ、俺はまだ全然眠くなんてないし、寝たくなんて無いんだけど、ミレーヌは寝るってなったら俺の尻尾を離さないんだよ。

 初めてミレーヌをベッドで寝かせた時も何故か俺の尻尾を抱き枕にしてたし、それが癖になっちまってるのかもな。……最初に無理にでも引き離した方が良かったか? ……いや、それは無いな。

 最初は今みたいに目が輝いたりしていなかったどころか、真っ黒な全てに絶望したような瞳だったからな。あの時はあれで正解だったはずだ。


「レヴィ……おやしゅみ」


「あぁ、おやすみ」


 そうして、ミレーヌと一緒に俺も目を閉じた。

 眠くは無いんだけど、ミレーヌに抱き枕にされている時点で俺もできることがないからな。

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