一年後、そして旅立ち

 ミレーヌの教育のためにも旅に出ようと決めてから、1年の時が経った。

 

「ミレーヌ、準備は出来てるか?」


「うんっ! 出来てるよ! レヴィ!」


 この1年でミレーヌはかなり流暢に喋れるようになった。

 だからこそ、予定通り、俺はミレーヌと一緒に旅に出ることにした。

 

「よし、だったら、出発するか」


「うん! しゅっぱーつ!」


 そう言ってミレーヌは俺に飛びついてきた。

 正直そんなミレーヌの行動は予想済みで、俺はミレーヌを受け止めて、抱っこした。

 そしてそのまま、歩き出した。

 もちろん、街に向かって、だ。


 一つ不安を吐き出すとしたら、俺もここから離れるのは1000年ぶりだから、近くの街がまだ残っているかが分からないってことだ。

 ……まぁ、なるようになるだろ。


「あ、そうだ」


「?」


「ミレーヌ、ちょっと目を閉じててくれるか?」


「頭、なでなでしてくれる?」


「これでいいか?」


「うん! 目、閉じた!」


 ミレーヌが目を閉じてくれたのを確認した俺は、一瞬だけミレーヌの頭を撫でるのをやめて、腕を振った。

 すると、パリンッ、という音が辺り全体に鳴り響いた。


「レヴィ?」


「何でもないよ。ほら、よしよし」


「んー」


 パリンッ、という音は村を守ると同時に、俺の存在も隠してくれていた結界が壊れた音だ。

 もうこの辺から離れるんだし、別に要らないしな。あの村がどうなろうと、もうどうでもいいし。


 まぁ、強いて面倒事をあげるとするなら、あいつが俺の存在に気がつく事なんだけど……まぁ、あれから1000年経つ。

 とっくの前に俺の事なんて忘れてるだろうし、そもそもの話をするのなら、生きているのかさえ怪しいんだ。気にするだけ無駄だな。


「……ん、そういえば、隠さないと、だよな」


 そう思いつつも、ミレーヌを抱っこして1000年前の記憶を辿りに街に向かって歩いていると、ミレーヌが尻尾に手を伸ばしてきたからこそ、尻尾を隠していないことに気がついた俺はそう呟いた。


「えー、隠すのー?」


「人間はこういうのを見たら怯えちゃうんだよ」


「私はレヴィのこと怖くなんてないよ?」


 ミレーヌは何も分かっていない無邪気な瞳で俺の目を見つめてきながら、そう言ってきた。

 

「んー、ミレーヌは俺を知ってくれてるからな。ただ、俺を知らない人から見たら、俺はその辺にいる魔物と変わらないんだよ。分かってくれたか?」


「違うもん! レヴィはあんなのとは違うよ!」


「……それはそうなんだが」


 子育てって本当に難しいなぁ。

 こういう時、どうやったら子供を言い聞かせられるのか、俺には全く分からない。

 ……ま、まぁ、こういう常識も街で暮らしていけば、いずれついてくるだろう。


「取り敢えず、そういうものなんだよ」


「あー!」


 そうして、俺は尻尾を隠した。

 ミレーヌの残念そうな声が響き渡ったけど、そんなのは無視だ。

 悪いとは思うけど、ミレーヌの為なんだ。分かってくれ。

 

「ほら、そう拗ねるな」


「拗ねてないもん」


 拗ねてるだろ。

 どんだけ俺の尻尾が好きだったんだよ。


 はぁ。しょうがない。

 本当はこのままゆっくり街に向かうつもりだったんだけど、少し急ぐか。

 街を見れば、ミレーヌの機嫌も少しは直るだろうしな。

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