再会、そしてなでなで?

「……マジかよ」


 ミレーヌの機嫌を直す為に急いで1000年前あった街の場所まで来たところで、俺はそう呟いた。

 だって、1000年前には確かに存在していたはずの街が完全に崩壊していて、アンデッドの巣窟になっていたからだ。

 

 いくら1000年前の記憶とはいえ、こんな簡単に滅ぶ街じゃなかったはずだ。

 一体何があったんだ?


 そんな疑問を抱いた瞬間、アンデッド共が彷徨いている街だった場所の中心部から莫大な魔力が溢れ出し、俺たちを飲み込んだ。

 別に俺はこの程度じゃなんの問題もない。……と言うか、これ、知ってるやつの魔力だし。

 ただ、ミレーヌはそうはいかない。


「……レヴィ」


 さっきまで拗ねていたミレーヌは体が震えていて、声まで震わせながら、俺にギュッ、と抱きつきながら俺の事を呼んでいた。

 

「ミレーヌ、大丈夫だ」


 あいつ……やっぱり生きてたんだな。

 なんだかんだいって、知り合いが死んでるのはちょっと堪えるし、嫌だったんだが、この再会はいくら温厚な俺でも腹が立つぞ。

 誰の娘を怖がらせてやがるんだ。


 俺はミレーヌを魔力の圧から庇うようにしつつ、街ごと全てを生み出した水により飲み込み、消し去った。

 重圧が掛かった大量の水だ。

 もう既に滅んでいる街を一つ消し去るくらい容易い。


「おい、魔力を抑えろ。殺すぞ」


 ミレーヌの教育に良くないから、ミレーヌの耳を塞ぎながら、俺は目の前に現れた紫色の髪をなびかせている少女に殺気を出しながらそう言った。

 

「良かった……生きてたんだ」


 なんだかんだ言って、こいつは俺を好いてくれている。

 ……確かに、勝手にいなくなったのは悪かったのかもな。

 本当に嬉しそうにしている目の前の少女の様子を見ていると、俺の毒気も抜かれてきていた。


「僕、君が殺されちゃったんだと思って、君の反応が消えたこの街を滅ぼしちゃったよ。勘違いだったんだね」


 悪びれる様子もなくそう言う少女の様子を見て、俺は思う。

 ……やっぱり俺、悪くないわ。

 こいつ、思考が危険なんだよ。


「あれからずっと、君が死んだと思って、僕はここで絶望してたんだよ? ねぇ、だからさ、僕は君と再会できて、さっきまで凄く嬉しい気分だったんだよ? なのに、その子供、誰? なんなの? それ」


「俺の子供だ。お前には関係ないだろ。生きてるのが確認できたのは俺も嬉しいから、もうさっさとどこかに行ってくれ。お前は俺の知り合いの中で一番教育に悪いんだよ」


「は? 待って、なんで? どういうこと? 子供? の子供? 誰と? ねぇ、誰と?」


 危うい雰囲気を醸し出しながら、少女はそう言ってきた。

 

「違う。俺が誰かに産ませたわけじゃねぇよ! 色々あって血は繋がってないが、親になったんだよ」


 色々って言うか、ただの勘違いからなんだけど、それをこいつにわざわざ説明する義理もないしな。


「本当?」


「あぁ、ほんとだよ」


「レヴィ……もう、大丈夫?」


「ん? あぁ、もう大丈夫だよ」


 そうして少女……そろそろ不便だし、ちょっと嫌だけど、名前で呼ぶか。

 ルアと話していると、ミレーヌがまだ震えた声でそう聞いてきたから、俺はミレーヌの耳を塞ぐのをやめて、そう言った。


「レヴィ……? 待って、ねぇ、僕も許されてないのに、そいつにはそんな愛称を許してるの?」


「愛称っていうか、ミレーヌは少し前まで言葉を知らなかったんだよ。だから、俺の名前も途中までしか言えなくて、いつの間にかミレーヌもこの呼び方で慣れてたってだけで愛称ってわけじゃねぇよ」


「ふーん。……僕もそう呼んでいい?」


「絶対ダメだ」


「なんで? そいつはいいのに、なんで僕はダメなの?」


 お前は危険だからだよ。

 

「なんでもいいだろ。それより、もう俺たちは行くから、また100……1000年後くらいにな」


「……無理。僕も着いて行くし」


「ダメだ。着いてくるな」


 お前はミレーヌの教育に悪いんだよ! 一緒になんて着いてこさせるわけないだろ!


「……なん、でっ」


 そう思ってそう言うと、ルアは急に涙を流し始めた。

 は? なんで、いきなり泣き出すんだよ。


「お、おい、ルア……」


「レヴィ、泣かせた?」


「い、いや、違うぞ? ミレーヌ。これは本当に違うんだよ」


「レヴィ、いつも私が泣いちゃった時にしてくれてるみたいに、頭なでなでして、あの人も慰めてあげないとダメだよ!」


「は? いや、あのな? ミレーヌ、あいつはあんな見た目だが、もう何百年も生きた──」


「年齢なんて関係ないよ! 早くなでなでして、慰めてあげて! 私だったらレヴィになでなでしてもらったら、直ぐに泣き止むもん!」


 そう言うミレーヌに俺は背中を押されてしまった。

 え? 冗談でしょ? 俺、今からマジでルアの頭を撫でるの? あいつ、危険だぞ? 俺の事を好いてくれているのは分かるけど、めちゃくちゃ危険な相手だぞ?


 俺はゆっくりと後ろを振り返る。

 すると、ミレーヌと目が合った。

 その目からは早くルアの所に行ってあげて! という意思が感じられた。

 ……マジ、ですか。このまま引き返したら、ミレーヌに失望されるかもだし、俺の逃げ道、ないじゃん。

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