説明、そして家族

「ルア、そろそろ本当に終わりだ」


「……もうちょっと、ダメ?」


「さっき約束したことをもう忘れたのか?」


「……分かったよ」


 ルアが頷いてくれたのを確認した俺は、ルアの頭を撫でるのをやめて、恐る恐る後ろを振り向いた。

 すると、そこには満足そうにしているミレーヌが居た。

 良かった。もう拗ねてもいないし、怒ってもないみたいだな。


「レヴィ!」


 そうして内心で安堵していると、ミレーヌが俺の胸に飛び込んできた。

 これがルアなら絶対に避けてただろうけど、ミレーヌ相手だから、俺は優しくミレーヌの体を受け止め、そのままさっきルアにしていたように、頭を撫でた。


「よしよし、どうした? ミレーヌ」


「えへへ、羨ましくなっちゃった」


「そうか。ミレーヌなら、何時でも頭くらい撫でてやるからな」


「うんっ!」


 そうしてミレーヌの頭を撫でていると、今度は不満そうな目で俺を見ているルアと目が合った。

 ……なんでお前はそんな不満そうなんだよ。さっきお前も撫でてやっただろ。……好きでした訳では無いけど。


「その子ばっかりずるい」


「何がだよ。お前もさっき撫でただろ」


「……それはそうだけど、僕の時はそんな優しい目してなかった」


 なんだそれ。

 と言うか、俺、そんな目してんのか? ……分からん。それに関しては、別にルアの時もミレーヌの時も同じだったと思うんだけどな。

 ……いや、ルアの頭を撫でるのは嫌々だったし、それのせいか?


「レヴィ、遅くなったけど、知り合い?」


「ん? あぁ、まぁ、そうだな。本当にただの知り合いだよ」


「……恋人だから。えっと、君、僕のこともルアって呼び捨てにしてくれたらいいからね」


「おい、ミレーヌにでたらめを吹き込むんじゃねぇ」


「レヴィ、恋人って何?」


 俺とルアはそんな関係じゃないことをミレーヌに説明しようとしたところで、ミレーヌは純粋無垢な瞳を俺に向け、そう聞いてきた。

 ……そうか、そういえば俺、そんなこと教えたこと無かったな。

 あの洞窟ではそんな知識必要なかったし、仕方ないっちゃ仕方ないと思うけど、これからはそうもいかないよな。

 いつかミレーヌにも好きな人ができるだろうし。

 ……別にミレーヌが誰かと付き合うこと自体は構わないが、そいつには俺……とまではいかないが、少なくともルアに勝てる程度には強くないと認める気は無いけど。


「あー、恋人っていうのはな、好き同士の人達がなるものだ」


 この説明で合ってるのかは分からないが、俺はそう言った。


「じゃあ、私とレヴィも恋人?」


「……そんなわけないでしょ。レヴィと恋人なのは僕だよ」


「どっちとも恋人じゃねぇよ。特にルア」

 

 ミレーヌの勘違いはともかく、ルアに関しては確信犯だろ。

 そう思って、俺は直ぐにそんな否定の言葉を口にした。


「……なんで? レヴィ、私の事嫌い?」


「違う。ミレーヌのことはちゃんと好きだよ」


「じゃあ、なんで恋人じゃないの?」


「俺とミレーヌはもう家族だからだよ」


「家族だと、恋人にはなれないの?」


「まぁ、そんなところだ」


「んー、よく分かんないけど、レヴィが私のことを好きなら、なんでもいいや」


 分かってくれたなら良かったよ。


「それじゃあ、そのルアって人は恋人なの?」


「そうだよ」


「違う」


 なんでこいつは頑なに俺と恋人だと主張し続けるんだよ。

 さっき俺を落としてみせるみたいなこと言ってただろ。それはどうしたんだよ。


「どっちなの?」


「ただの知り合いだよ」


「……僕は恋人とか、それ以上の関係になりたいと思ってるけど、今はただの友達みたい」


 俺は知り合いとしか言ってないけど、友達っていうのも間違ってはいないから、流石にそれまでは否定しないことにした。


「それ以上って、家族?」


「うん。そうだよ」


「ふーん。じゃあ、私の方が凄いね」


 ……うん。うちの娘は何変なところに対抗意識を燃やしてるんだ? 可愛いからいいけど。


「は? 何か勘違いしてるみたいだけど、恋人から家族になるのと、元から家族なのは全然違うからね? 僕がレヴィの家族になったら、レヴィと色んなことができるんだから」


「私だって色々出来るもん」


「どうせせいぜい一緒に寝るとかその程度のことでしょ」


「お、お風呂だって入るもん!」


「だからその程度でしょ。僕が家族になったら、えっちなことだって……え? お風呂?」


「おい、ルア。教育に悪いことを言うな」


「え、待って、レヴィ。お風呂って何?」


 こいつは何を言ってるんだ? 風呂は風呂に決まってるだろ。


「そのえっちっていうのはなにかは分からないけど、私の方が色々出来てるでしょ」


「え、ほ、ほんとに、お風呂も一緒に入ってるの?」


「俺の娘なんだから、別におかしいことでは無いだろ。ほら、この話はこれで終わりな」


 ルアの発言がさっきからミレーヌの教育に良くなさすぎるから、俺は無理やりにでもこの会話を中断させた。

 これから一緒に行動することになってしまった以上、ルアとミレーヌの仲がいいことに問題は無いんだが、ルアがとんでもないことを言おうとしてるからな。俺の判断は間違ってないはずだ。


「……レヴィ、一緒に行動するようになったら、僕とも、お風呂に入ってくれる?」


「入るわけないだろ」


「……ずるい」


「ズルくない。……もしも俺がルアを好きになるようなことがあったら、普通に一緒に入ることもあるだろうから、それで我慢しろ」


「……分かった。絶対、好きにさせるから」


 ほぼありえないと思う。

 そんな感情、俺が抱くとは思えないし。

 そう思いつつも、思ったことをそのまま言えば、絶対面倒なことになると思った俺は、適当な返事をして、違う街に向かって歩き始めた。

 もちろん、ルアに壊していない街を聞いてからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る