第5話 裏切り(スタンフ視点)
俺は調子に乗りすぎていたのかも知れない。これは俺たちがヒーラーを35階層に置いて、30階層に着いた時に思った事だ。正直、この世界がゲーム化した時からうまく行きすぎていた。
世界ゲーム化現象。これは世界中でダンジョン・ステータス・
名前の由来は民間会社がフルダイブ型のゲームを作る為、人間の意識を4次元に接続させ、ゲーム内に意識を送る計画[異世界ゲーム意識接続化計画]から来ていた筈だ。
今の現状を見てもらえれば分かる通り、計画は成功した様に思えたが、失敗していたそうだ。意識をゲーム内に送る筈が、ゲームにあった物が現実世界に出てきていたのだ。おかげさまで死者も沢山出てきて、その計画は中途半端な所で中止せざるを得なかったらしい。この情報はこの企業の社員が世界各国に密告した事で判明したそうだ。
四次元と言う未知の領域に触れたせいでこんな事になったんだろう。
話を戻すが、俺は上手く行きすぎていた。
例えばサポーターと言う職業だったのに、必要とされていた事や、メンバーとの初めてのダンジョン内遠征で人類初の15階層到達。
その様な事が半年も続いたら、皆だって自分の事をゲームの主役だと勘違いするだろう。
俺はいつしか、物事をゲームの様に理解していた。ここが現実世界である。と言う実感を無くしていたんだろう。
そして、あの様な事を起こしてしまった。理由は簡単、自分が上手く行って無いから。あのヒーラーが主役になる事を本能的に止めたかったんだろう。
ここまで言ったが、だからと言って、物理的にも間接的にも、人を殺して良い訳じゃない。それは当たり前だ。
だって、ここは法も秩序もある現実世界だ。それに気づいたのは30階層に着いた時だった。
でも、助けに行くには、遅すぎた。
「はぁ……本当に何でこんな事をしたのだろうか。」
反省しても仕切れない。こんな後悔をする自分が嫌いだ。
そして、自首をしに行かなければ、バレる事は無いのに途中で自首しに行きそうな、悪役になりきる事も出来ない自分が嫌いだ。
「待ち合わせ場所はここか…。」
ガンクとはダンジョンの入り口で待ち合わせの約束をしていた。俺が自首をしに行くと言った時に俺も行くと言ったのはガンクのみで、残念ながらリーダーも他のメンバーと同じで、悪役になりきる事を決めた様だった。
「えっと、そこの人!ダンジョン探索遠征隊のスタンフさんですか?」
「えっと、そうですけど、誰ですか?」
初心者装備のパーティーが話しかけてきた。
「今、サポーターが足りなくて臨時でパーティーに入ってくれないでしょうか?」
「えっと、今はメンバーと待ち合わせ中でして……」
ここで待ってたら、パーティー招待を受けてしまうな…ダンジョン前、待ち合わせにしてたのは失敗だったな。
「お願いします!スモールゴブリンのドロップアイテム、棍棒100個の納品依頼を受けてしまったんです!しかも、本日中の!サポーターがいないと持って帰れないんです!」
「サポーターなら、周りに沢山いるんじゃ無いか?」
「今日はもう時間も時間だからサポーターは周りにいなかったんです!」
確かに、周りの人々を見てもサポーターらしい人は居なそうだ。午後8時以降にサポーターをしてる人は帰りの人が多い。これから潜る人の元にダンジョンを出たばっかのサポーターは集まらないだろう。仕方がない。
「少し待っててくれ。」
俺は自分の良心に負け、ガンクにメールを送る事にした。
(ガンクへ、俺は急用でダンジョンに行く事になった。だから、冒険者組合に行くのは明日にしよう。明日が無理そうなら、返信しといてくれ。ダンジョンを出次第、連絡する。)
よし、メールの内容はこれで良いかな。
「ごめん待たせたか?」
「いえいえ、全然待ってないですよ。所で、準備は大丈夫そうですか?」
「2階層程度なら……、いや、少し待っててください。」
俺は鞄から護衛用のナイフと配信隠し用カラコンを取り出す。
一応、この時間帯さダンジョン内での犯罪が多いので目にカラコンを入れこっそり配信をつけておく事にする。
このカラコンはつけてると目から出る光が他人から見えなくなると言う物だ。防犯グッズとして優秀だが、売っている所がマイナーな裏路地なので使っている人は滅多に見ない代物だ。
「準備が出来ました。」
「そうですか…、それじゃあ最速で行って最速で戻ってきましょう!!」
スタンフはよくよく考えたら相手の名前を聞いていない事に気づいたが、臨時なので知る必要は無いから、ダンジョンに潜っている間も、聞かない事にしたのであった。
***
ダンジョンの二階層に着いた時、向こうの初心者装備パーティーのリーダーらしき人から二手に分かれた方が効率的だと言われ、俺は一人でスモールゴブリンを殺す事になった。
「もう少し離れるか…。」
遠くの目に入る所にさっきのパーティーが見えるところまで来たが、自分の配信にコメントする為、目に入らない場所まで移動する事にした。
「よし、ここなら良いかな。ごめん、コメントの皆んな待ったかな?」
『あ、気づいた』
『30分待ち最前列は私から』
『↑ファストパス使うので私が最初で〜す』
コメントの調子は20分放置していても良好の様だ。
「ごめんね。20分前、新米パーティーから、依頼を手伝って欲しいって言われちゃってさ。一応、時間も時間だし、防犯対策として配信してるから、コメントに返答が出来ない事も多々あると思うんだ。」
『防犯対策として配信とは?』
『目の光で配信してるのバレるくない?』
『コメントを返さない時がある。了』
「珍しいマジックアイテムが売っていてね。配信している時の目の光を隠せるそうなんだ。今使用してるけど、僕の今のパーティーの反応を見るに、ちゃんと効果はあるみたいなんだ。」
『売ってる場所教えてクレメンス』
『売ってる場所知りたい』
『それめっちゃ欲しい。』
う〜ん、教えても良いけど、今の時間に教えたら、犯罪グループにあの店主が狙われそうだしなぁ。現状、配信つけておく事が、1番の犯罪を防止できる唯一無二の抑止力だしなぁ。
「う〜ん。明日の昼頃に配信つけて買い物に行くから、皆んなもこのマジックアイテムが本当に欲しいなら来なよ。」
『了解』
『了』
『ぎょ』
『↑魚いて草。了』
コメントを見ていると奥に小さい影がある事に気づいた。あの影はスモールゴブリンだ。
「ゴブリン発見。」
俺は足音を殺してゴブリンに近づき、後ろからナイフを突き刺した。ゴブリンは最初こそ「グギィ!」と言い、こちらを向いたが、ナイフを引き抜くと正面から倒れていった。
『スタンフさんならスモールゴブリン程度、足音消さなくても余裕で倒せた説』
『え?何で今、ゴブリンが見えたの?』
コメントをチラ見すると、何故、俺がライトも無しにモンスターがいる事が分かったのか気になる人がいた。
「あぁ、これは職業がサポーターの人なら持ってると思うけど、暗視と言うスキルでね。MP0で使用できて、暗いところが、LEDライトをつけた部屋の様に明るくなるスキルなんだ。」
『有能スキルじゃん』
『アタッカーだけどそのスキル欲しすぎ』
「ただ、欠点もあってね。ライトとか、明るい物が近くにあると使用できないんだ。」
『あぁ、だから前回の最高到達階層更新配信では、巨大蜘蛛にビビってたんだ。』
『サポーターなのに、パーティーで組むとサポートしづらくなるの草』
「ビビってたって。ちょっと!驚いただけだろ!」
『www』
『腰抜けて立てなくなってたねww』
「そう言えば、死んだ筈のヒーラーの目撃情報が出回ってたよね」
『あぁ、あれね』
『あれ知ってたんだ。』
『老婆らしき人物と話してたね』
「実は伝えなくちゃいけ!?ごめん返答は無理かも。」
通常の声は届かない位置にいるが、遠くに人影が見えた。その人影は、位置的に奥の突き当たりを右に曲がった所で俺を待ち構えていた。身長は2m弱くらいありそうだ。
「まともに正面から行く馬鹿はいないよな。っは?」
俺は後ろを向いて道を戻ろうとすると後ろの曲がり角に先ほどの初心者装備パーティーが装備を変えて、こちらを伺っているのが見えた。
「挟まれた!?」
あのパーティーが怪しいのは分かっていた。何故なら、棍棒なんて、100円で一個買えるゴミアイテムだからだ。そんなものを100個も即日で欲しいだなんておかしい事、極まれりだよ。
ただ、唯一誤算があったとするならば、前方向にいる巨体の人物だ。まさか、ダンジョン内ですでに待ち伏せされているとは思わなかった。
「俺の俊敏性が高かったとしても、こんな狭い所で不審者に挟まれたとなったら、意味をなさんな。」
俺は前方か後方か、どちらから走って逃げようか考えたがすぐに前方へ走り出した。何故なら、簡単な話、前方の人は一人のみで、逃げ切りやすそうと判断したからだ。
「残念だったな!俺は逃げ切ってやるぜ!」
ただ、この時スタンフは目の前の人物が
「右に不審者は居るから右の道が見えた瞬間、ナイフを首に構えてやる。」
ダッダッダッ!!と走り、ナイフを構えて右を見た瞬間、待ち伏せしていた人物の顔が目に入り、驚きで動きが固まってしまった。
「ガンク!?何でお前がここに!」
ガンクは何も言わずに盾を構えて、道を塞いだ。
「おい、ガンク!何で道を塞ぐんだ?おい、答えろって!」
俺は立ち止まって、ガンクに声を出す。不審者の正体の一人が俺と自首をしてくれる筈の一人だったのだから、何故かを聞きたくなる。
「俺が何でここに来ているか分かるか?」
「わからねぇよ!」
「こうする為だよッ!!」
ガンクはそう言い放ち、俺の腹に向かって足を思いっきり振り上げた。その蹴りはスタンフの鳩尾に勢いよく辺り、スタンフの体は後ろの壁に思いっきり吹き飛ばされた。
「グハッッ!!ゴフッ!げほッ!げほッ!!ゴボッ!」
スタンフは咳き込んだ後に血を吐き出した。先程の蹴りで内臓にダメージが入ったのだ。
「ゴボッ!!げふッッ!げほッ!ごほッ!ガ……ンク……。な…何で!ゲホッ……ごほッッ!」
俺は必死にガンクに話しかける。
「スタンフ、お前は俺に騙されたんだよ。」
は?何を言っているんだ?こいつ。
「せっかくここまで来たのにあのヒーラーについて冒険者組合にバラされたんじゃ、あのヒーラーをモンスターに殺させた意味がねぇんだよ。」
「おい……何で!裏切…った!ゲホッ…」
何故ガンクは裏切ったのだろう。俺らは自分に誓ってこんな事を一生しないと言っただろうが。
「あ?今言っただろ。まあ良い、要するにお前は邪魔だから、ここで死んでもらう。」
「口封じ…か?」
「勿論だ。おい、お前ら来い!」
俺の後ろにいた連中がガンクの元に集まる。奴らが話し合っている隙に、俺はコメントを見て、通報した人がいないか確認する。
『え?ヒーラーをモンスターに殺させたってまじ?』
『スタンフさん死んじゃうよ…。』
『一応、冒険者組合に通報しました。』
『二階層への救助は最低でも20分かかるって…。』
一応、通報はされている様だが、救助は間に合わないだろう。俺は多分ここで死ぬんだな。さっき喰らった蹴りで力が入らず、立ち上がることもできない。
「よし、それじゃあゴブリンにやられた様に見せかける為、お前らが集めてた棍棒を出せ。一緒に叩くぞ。」
そう言うと、ガンク達は棍棒を振って足と腕を攻撃し、ボキッと言う音がなったと同時にとてつもない痛みが押し寄せる。
「ッあ"あ"あ"あ"あぁぁぁぁァァ!!!」
自分とは思えない程、汚い叫び声が勝手に漏れ出てくる。骨が折れた右腕と左足は曲がってはいけない方向に曲がり、とてもショッキングな見た目になっていた。
「うるせぇ!!」
ガンクがそう言うと俺の顔を棍棒でタコ殴りにしてきた。
スタンフは殴られている間、考え事をしていた。これが俺のした事の罪の重さであり、罪の苦しさだと。そして、こうも思った。こんな事じゃ、罪を償えていないな…。と。
やがて、スタンフは頬の骨が折れた辺りから意識が薄れていき、最後、脳天に向かって棍棒が振り下ろされた時、スタンフは意識を完全に失った。
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