第二十一話 やばい奴→チョロい奴
胡桃が寝たので、楓と二人で話し合う事になったレイは何故、楓が自分意外の人には見えないのか聞いてみた。
「楓?何で私にしか見えないの?」
一つ心当たりはあるが、ここは人の街、この可能性はかなり低いだろう。
「さぁ?……と言いたいところだけど、自分が誰にも気づかれなくなった理由ならわかるよ。」
「やっぱり、魔族?」
「魔族?あぁ、モンスターね。その通りだよ。モンスターにやられたの。一人で探索してたらモンスターに魔法をかけられちゃって……。もしかして、レイも?」
魔法?モンスターは人間と同じく魔法を使うのか?魔術ではなくて?確かに、黒いゴブリンの例がいるし、正確な情報だと思うが……
え、俺?魔法使えるよねって?生活魔法は例外だろう。あれはマナ操作の応用だから。
「いいや、違うよ。感だよ、感。」
「そうなんだ……。でも、何でレイしか私に気づけないんだろうね。」
心当たりはある。多分、暗黒魔術だろう。暗黒魔術ならば、存在感を消す事が出来る。ただ、あの魔術は基本、術者が自分にかけて使う暗殺用のものなのだ。
だから、存外に暗黒魔術だ!と決めつける事は出来ない。
「う〜ん、それは私にも分からないけど……、私が凄いからじゃない?」
とりあえず、誤魔化す事にした。モンスターと同じ、暗黒魔術が使えると知られるとモンスターと勘違いされるかもしれないからだ。
「そっか……レイだからか……。レイじゃ無いとダメなんだ……」
「あーあーあー、聞こえない聞こえない。そうだ!とりあえず寝ない?追いかけっこで疲れたよ…」
レイは楓が面倒くさくなる前に、話を遮って寝る事にした。面倒くさくなるとまた、あの場所で監禁されかねないからだ。
「うんうん。レイと寝る!……逃げないよね?」
「zzZZ………」
「って、もう寝てるし」
楓は正直、久々に人と話せたので、もっとレイと話していたかったのだが、彼女が寝てしまったら仕方がない。
楓はレイの手を繋いで目を閉じた。
***
レイ起きる。時計見る。表す短針18時。
「あぁぁぁぁぁ!!遅刻だ〜!!」
床に突っ伏している二人を揺さぶり、起こす。
「胡桃!遅刻!楓はついて来て!!」
※しかし、胡桃は起きなかった。
なぁぁぁぁ!何で起きない!しょうがない、胡桃を背負って連れていかなきゃ!じゃなきゃ…!じゃなきゃ………、あれ?別に起こさなくても良いのでは?仲間も出来たし……
「一応、この事だけ組合長に伝えてこよ。」
レイは寝起きで顔が溶けている楓をおんぶして、エレベーターを降りる。一応、レイも寝起きだが、焦りのせいですっかり目が覚めてしまっていた。
一階に着くと、監視員の人と目が合った。いつもは特にこちらを見てこないが、今日に限って凝視をしてくる。俺の可愛さにでも気づいたのだろうか。
一方、監視員目線では、銀髪の美少女が腰に手を当て、ギックリ腰になった様に見えていた。
(あんな若い子がギックリ腰だなんて、探索者と言うのは過酷なんだな……)
監視員は頭を下げて、また、仕事に戻っていった。
「はぁ…はぁ……、楓、胡桃より重ッ「何?(圧)」何でもないです…」
今の発言で、楓はすっかり目を覚ました様で、自分から背中から降りてくれた。
そして、しばらく歩いていると、組合長と待ち合わせをしていたあの部屋が目に入る。俺はドアをノックすると楓のお手本になる様に、礼儀正しく挨拶をしてから部屋の中に入った。
「失礼します」
「あぁ、やっと来たか…少々、待ちくたびれていたよ。」
「すみません。ちょっと色々あったので……」
「詮索はしないでおくが、せめて約束は守ってくれよ?」
はい。そう言うと、俺は頭を下にさげる。
もちろん、している事は形だけの物だ。楓に変な目で見られたくない、そんな理由で真面目を装っているだけである。
「……で、これだったね。」
組合長は後ろに置いてある箱から小さな箱を取り出した。その箱を開けると、小さい反射板の様な板が顔を覗かせた。
「これは?」
「あぁ、知らないかもしれないだろうから説明するね。これはスマホと言って、遠距離の会話や文通も出来る画期的なアイテムなんだ。」
「あぁ、これが……えっと、すみません。これなんですけど……必要無くなったかもしれないです……」
「え?急に?」
「はい……。私の隣に仲間が居るんですけど……、と言うか、仲間が出来たんですけど……」
俺は自分の横に座っている楓を見ながら、組合長に答える。
「仲間が?ここに?」
「えっと、はい。一応。」
「私にはその人が見えないのだが……、イマジナリーフレンドだったりしないのかい?」
「私はここにいます!!気づけ〜!!」
隣で楓が両手を伸ばして、気づけ〜!と言っているが、組合長は見向きもしない。と言うか、可愛いな
まあ、そんな冗談を心の中でしながらある事について考える。
楓の事が人に認知されないのであれば、配信画面に、自分しか映ってない事になり、俺が契約違反をしている様に見えてしまうのか…。
それだけは非常に不味いな……、さっきの発言取り消して、スマホ貰おうかな……
「ええっと、やっぱ、イマジナリーフレンドかも、し、しれないです……はい……」
「やっぱりそうか……、嘘はいけないからね。最悪の場合、罪に問われるんだから。」
「ねぇ!レイ!?それってちょっと私に失礼じゃない!?聞いてるの?レイ!?レイ〜!!?」
隣で必死に腕を振りながら楓は叫んでいる。
ごめん。許して欲しいんだ楓。これしか…!これしか選択肢が無かったんだッ…!
「はい、以後気をつけます……」
「それじゃあ、はい。これを…」
そう言って、組合長はスマホを小さな箱に閉じて渡して来る。因みに、楓は無視されている事に対して、こちらを無言で見続けている。
しかも、目にハイライト無しで…、怖いよ?泣いちゃうよ?
「これはどう使えば?」
「それの設定とか使い方とか教えてあげたかったんだけど、もう時間がなくてね。そう言う説明等は胡桃君に聞いてくれ、多分、胡桃君が何とかしてくれるよ。」
「胡桃が……、わかりました。」
組合長も言っている通り、胡桃ならきっと何とかしてくれるだろう。彼女は私の初の友達に相応しい頭脳があるのだ。スマホなんて簡単に設定してしまうに違いない。
「あぁ、そうだ。最後に何だけど……、胡桃君には無茶な事はするな!とだけ伝えておいて欲しいんだ。」
「胡桃に?私ではなくて?」
「君の強さは誰でもわかるだろう。でも、胡桃君はそこまで強く無いからね。何か無茶をしそうでならないんだ。」
「わかりました。では、これで…」
俺は立ち上がると組合長に礼をし、両手に小さな箱を持って部屋を出た。
ガチャンと音がなって部屋が閉まる。部屋の中に取り残された組合長こと、田中作蔵は一人部屋で呟く。
「
その声は部屋の中に吸い込まれていき、すぐに聞こえなくなる。
そして、田中作蔵はその場から立ち上がるとすぐに自分の部屋へと歩き出した。
***
「あの〜、そんな顔で見るのやめてもらって良いですか?あの、怖いです。凄く。」
「…………」
部屋を出たのは良いけど、右腕に目にハイライトが入っていない上目遣いで私の顔を常に凝視している生物がくっついている。目にハイライトが入っていないのが恐怖を掻き立たせ、まるでゾンビの様だ。
「あ〜わかった、わかったから、無視してごめんって!あの時はそうしないと行けない雰囲気だったから仕方ないじゃんって!」
「…………仕方ない?何が?」
あぁ、ダメだこいつ。面倒くさくなってるよ。このまま、監禁ルートも用意されそうな流れになっちゃってるよ。仕方ない、こう言う時の為に作っておいた奥義を使うか………
「はぁ……楓、こっち向いて。」
楓は常にこちらを凝視しているが、左手を使って顎からほっぺまでぷにゅっと掴み、楓のかおをあげて、俺の顔に近づける。
そして、何も発する事なく、そのままおでこにキスをした。楓は自分が急に何をされたか理解し、顔が真っ赤に染まる。
「無視してごめんね、楓。これはそのお詫びだから…」
「あ、あの、ゆ、許す…よ。」
「良いの?ありがとう!楓、大好き!」
俺はそう言って楓に抱きつく。側から見たら道の途中でエアコアラの真似をしている人に見えるだろうか。
「私もレイが大好き!」
楓が右手から離れて正面から抱きついて来る。
いや、これはそうだな。確定だ。ふっ、堕ちたな。しかも、たったあれだけで許してくれるなんて、チョロすぎるな。
今度こうなったらまた同じ事すれば良いし、俺の周りはやばい奴じゃなくて、チョロい奴だったのかもしれない。
そんな事考えながら、一通り楓を抱きしめて、ぼちぼち、家に帰る事にした。
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