第13話 ダンジョンブレイク
「そろそろ、降りてくれないかな?」
揺れの少ない所に行き、俺は胡桃を降ろそうとした。
「えっと、まだ無理かも。」
胡桃は降りてくれなかった。
どうしたんだ?もしかして、足でも怪我したんじゃないのか?
俺は焦りながらも胡桃の足を見る。でも、怪我らしき物は見つからなかった。
「ん、どうしたの?」
胡桃が恍惚の笑みでこちらをみて来る。これは友達のして良い顔じゃない。どちらかと言うとペットが可愛い行動をした時の主人の顔だ。
「いや、何でもない。」
「ふーん、そっか。」
俺が足を見てた事を言って変な事になるのを避ける為、俺は何でもないと返しておく。
「多分ここの入り口まで戻れば揺れがなくなるんじゃないかな?」
胡桃がそう言う。
俺はそんな気はしていたが、嫌な予感がしていた。そう、コメントを見たからだ。
『ダンジョンがヤバい!!!』
『もう初心者入れないって!!』
「胡桃、ダンジョンの外が大変な事になってるかも」
「そうなの?じゃあ、一応警戒して行こうか」
俺は胡桃を降ろして、辺りを警戒しながら進む事にした。
***
坂道をゆっくりと登って行き、外の景色が見え始める。あの時の揺れはここまで来ると、もう感じなくなっていた。
「胡桃!1階層につくよ!」
「やっとか…ながかったあ〜…。」
胡桃は腕を上に伸ばしながら、声を出す。
胡桃の気持ちが痛いほどわかる。何故なら、行きは5分くらい歩けば扉に着いたものの、帰りは2時間近く歩かされた。多分、俺たちが疲れていたのが関係しているだろう。
「胡桃は外出たら何したい?」
「僕はお風呂入って、家で寝たいかな。」
「賛成〜!」
ただ、ダンジョンはそんな悠長にしてたらいけないようだ。外に出たら、目の前に広がった景色はどう見ても
どこかで見たことのある灰色の壁、天井、床。この灰色で埋め尽くされた世界は外で何かが起こった事を物語っていた。
「どこ?ここ……、あ、ライトついた。」
ライトがついたのは唯一の救いだ。
俺はそのライトで辺りを照らす。何かわかるかもしれないからだ。
「こ……ここは…どう見ても、6階層だよ……」
6階層、[グレーケイブ]出て来るモンスターはスモールケイブバットのみ、とても楽に進めるエリアだ。
ちなみにこの情報は胡桃と地上に向かっている時に教えてもらった。
「じゃあ楽な階層だね。」
「いや、そうなんだけど、もっとさ、こう、なんか驚かない?」
「え、何が?」
驚く事があるか?6階層とわかるんだったらここから脱出できるから心配しなくて良い。それに、でかいゴブリンが急に天井から出て来た方が驚くぞ?
「なんかいつも通りだね。」
「だって階層わかるなら出られるでしょ?」
「極論そうなんだけどさ……。ここが6階層のどのあたりかわからなくない?」
俺はポカンと口を開いて固まった。
ヤバい、今、忘れてたなんて言えない。とりあえず、それっぽい事いって誤魔化すしかない。
「えーっと、あの、その、あれあれ!あの分かれ道見たことあるくない?」
右正面の方にライトを照らし、胡桃に位置を照らす。
「あ、確かに!……でも、これは……いや、何でもない。」
「どうしたの?」
「まだ、確証を持ててないからちょっと待って欲しいかも。」
「分かった。」
それから5分くらい、胡桃と辺りを見た。
その間、俺は胡桃の護衛をしたり、コメントを見たりしていた。コメントには『ダンジョンブレイク』と言うワードが沢山出ていた。勿論、知らない言葉なのでスルーする。所で視聴者数が1000人を切ったのだが、何故だろうか…。
俺がそんな事をしている間に胡桃から声がかかった。胡桃は何か気づいたようだ。
「どうしたの?胡桃。」
「さっき上がって来た坂道を降りていくよ。」
「分かった。けど、私が前衛ね。」
「オッケー。」
俺を先頭にして、さっきの坂道を降っていき初めた。だが、降り初めてすぐに違和感が襲って来た。どこまで歩いても平坦な道は現れないのだ。平坦な道に出るまで、降り続けていったが、そのまま下の階層についてしまった。
さっき自分達が来た道は消えてしまっていたのだ。
「……うん。やっと確証が持てた。」
胡桃は驚きながらも、確証が持てたようだ。
「それで?何が分かったの?」
「多分さっきの所が6階層の出口だったんだよ。」
「え、じゃあさっきの道は?」
「わからない消えちゃったのかな……」
胡桃でもわからないなら、これは冒険者組合に聞いてみるしかないか〜。
所で、胡桃にダンジョンブレイクって何なのか聞いてみようかな。
「じゃあさ、ダンジョンブレイクって知ってる?」
「え?どうして急に……」
「コメントで流れてきて……」
「……ッ!?急いで外に出るよ!レイ!背負って!」
胡桃が俺の本名を言ったが、既に視聴者数は0になっていたのでセーフだ。
胡桃が勝手に背中にしがみついて来るので、背中に手を回して胡桃が落下しないように抑える。
「道案内するから急いで地上に!!」
「分かった!」
胡桃はダンジョンブレイクについてよく知っているようだ。これは走りながら聞いてみる事にする。
俺は全力疾走…とはいかないけど、胡桃の声がギリギリ聞こえるくらいの速さで走り始めた。
てか、坂道をおんぶで駆け上るのって常識的に危なくない?
「で、胡桃!ダンジョンブレイクって何!」
声を張り上げながらじゃないと会話できないので側から見たらすごい大声で喋ってる人だが、まぁ、誰もいなので、ギリ良い。
「ダンジョン……ブレイク…って…右!…言うのは…真っ直ぐ!!…モンスッ────!!ったああぁぁぁぁ!!」
風の音で胡桃の声が聞きづらかったので、よく耳を澄ませて走っていたら耳をつん裂く声が聞こえてきた。
「胡桃!!どうした!!?」
俺は少し、速度を落として胡桃に問いかける。
「ヒーりゅ……あー、あー、良し。舌を噛んだだけだよ。」
「舌を噛んだって結構危ないね。やっぱり、外に出てから聞く、ダンジョンブレイクって何なのか。胡桃は指さして次の道を案内して!」
舌を噛む。これは人間にとって結構危ない事だ。何故なら魔術を使う時は、詠唱が必要にならないが、魔法は詠唱を必要とする技だから、舌が無いと魔法が使えない。
しかも、あの速度だ。全然舌を噛み切ってもおかしくなかっただろう。
「(ok)」
胡桃は左手でハンドサインを送ってくれた。
そして、俺は走る速度をさっきと同じ速度にして、ダンジョン内を走り出した。
胡桃の指に案内されること3分。6階層の入り口まで、到達した。ただ、そこに来るまでにも違和感が合ったが、到達してからより違和感が襲って来た。
「ねえ、胡桃…これっておかしいよね…」
「うん…」
目の前には6階層の入り口がある。ただ一つ、変な所がある。明るいのだ。入り口時点で微々たるものだが、光が漏れて来ている。ダンジョン内は闇で包まれているのに。
俺たちは急いで坂道を上っていく。最初、光は微々たるものだったが、坂道を上って行くたびにその光は強くなっていく、まるで外にでも繋がっているかのように…。
「「────ッ!?」」
俺たちは6階層から出て、息を呑む。
そう、本当に外に繋がっていたのだ。だが、そこはいつも通りの石で舗装された道、左右に広がる木々などは元々存在しなかったかの様に消えてしまっていた。
目の前に広がる景色はまさに簡易的な地獄であった。
左右に広がる炎。沢山のクレーターが出来た地面。前方に見える人と思われる生物の食い散らかされた死骸の数々。これが入り口からずっと広がっていた。正直、遅かったのだ、ここに来るまでが。
胡桃がおろして……と言ったので、降ろしてあげる。すると、胡桃はしゃがみ込み、嘔吐をする。まだ、胡桃にこの景色は早かったみたいだ。
胡桃はひとしきり吐ききると、半狂乱で人々の死骸に近づき、ヒールを唱え始めた。ヒールでは肉体しか治らないのにだ。
勿論、俺は胡桃を止めようとしたが、止まらなかった。
俺のステータスなら簡単に止められるのに、無理だった。
俺の心がここで止めたら友達を辞めざるを得なくなると言って来たのだ。
そう、俺は力の差で止められなかったわけじゃ無い。自分の心が弱いせいで止められなかったのだ。
結局、俺は棒立ちで、胡桃が死体にヒールをかけ続けるのをみることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます