第14話 イレギュラー(田中作蔵視点)
組合長室で一人、机の上の書類と睨めっこしている者がいた。そう、私だ。
既に彼女らが出ていって4時間が経った今、記憶が薄れて仕事に手がつくと思っていた。しかし、私は先程のステータスを見てから、仕事が手につかなかった。それ程のインパクトがあのステータスにはあった。
「やれやれ、とんでもない新人が人助けをしたもんだ。」
生まれてこの方、色んな物を見て来たが、あれは異質だった。
名前は不明、職業無し、レベルは4で世界最高のステータス、おまけにあんなに美人ときたもんだ。
失礼ながら、まるで、人ならざる物が人間のふりをしている様に見える程、それは完璧であった。
「ステータスオープン」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名前: 田中作蔵(53)
職業: シールドアタッカー
レベル:46
HP 500/500
MP 100/100
ATK 85
DEF 240
MATK 30
MDEF 180
AGI 100
DEX 26
EVA 80
★スキル
[言語理解][挑発][シールドアタック]
[受け身][かばう]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私のステータスを見て、彼女と比べてみても誇れるのは防御力の高さとスキルの多さ、それにランクアップしている事だろうか。
「はぁ…、16歳の少女とステータスを比べて勝っている所を探すなんて恥ずかしい事この上ないな…」
机に肘をつけ、ため息をつく。
「また、休暇をとってダンジョンにでも潜らなきゃかなぁ」
16歳の少女にステータス全てが抜かされてしまったら、流石に組合長を任されてる身なので辛い。
「はぁ、どうしたものかな……。」
私が悩んでいると部屋の外が騒がしくなった。こう言う時はいつも良い事が起きない。
「し、失礼します!!」
扉が勢いよく開かれ、情報伝達係の男が慌てた表情で駆け込んできた。
「来る時には攻めてノックを「ダンジョンブレイクが発生しました!!!」……。」
[ダンジョンブレイク]
公にはモンスターが大量にダンジョンの外へ湧き出す現象と伝えている。
ただし、本当は特殊な部屋を攻略すると1〜5階層全てが崩れ、その崩れた階層のモンスター共が外に溢れ出す現象だ。
これは冒険者組合と国による機密事項で、公にはされていない情報だ。
「ことの経緯は?」
わたしは声色を変えて、話を聞く。
「とある配信者が1階層をあえて地図と反対に行ったところ、ボス部屋が発見されて……。」
「止めなかったのか?」
「勿論、止めましたとも!配信監視係がコメントを打ち、送信までしました。けれどボス部屋の中に入っていってしまって……。」
「電話はかけられなかったのか?」
「それがその配信者達、どちらもスマホを持っていなかった様で…。」
「そうか……分かった。」
私は、ボスを倒せるくらいとんでも無いステータスを持った、スマホを持ってない、配信者になりたての人に心当たりあった。
そう、あの少女だ。
「事の経緯はもう良い!モンスター達のいる場所に向かうぞ!」
「ではこの事を皆に伝えて来ます!」
「あぁ、頼む。ついでに戦える者は急いでダンジョン前に向かうようアナウンスをしてくれ。」
「了解です!」
私はインベントリにしまっておいた装備を取り出すと、その装備に着替え始めた。
この装備は現在潜られている階層の最下層で取れた素材をオーダーメイドで作って貰ったものだ。肌が出ている部分に攻撃を受けなければ、今の1〜5階層のモンスターの攻撃は受けないだろう。
「今、多くの冒険者達にアナウンスがかかっていると思うが、私は冒険者組合のリーダーとして先に向かわねばならないだろう。」
皆と共にダンジョン前に向かおうかとも考えたが、死傷者を減らす事が最優先だと思い、冒険者組合を出発した。
***
ダンジョン前に着いた時、モンスター共が新米冒険者の人々と戦っていた。入り口近くを見ると無惨にも冒険者の死体が見つかった。
私も急いでその戦場に参加したが、異様に数が多い。おそらく、無傷で帰るのは不可能だろう。
「てやぁぁぁぁ!!」
私は殺されそうな冒険者の前にかばうをつかって飛び出て、大盾を振り回した。
自身の周囲にいたゴブリン共は吹き飛ばされ、地面にぶつかった衝撃で、消滅した。
「お前ら!!組合長が加勢したぞ!!」
私の助けた新米冒険者の男性が大声を上げた。私的には英雄の様な扱いは恥ずかしいから、顔が赤くなっていく。
「「「「おお〜!!!」」」」
さっきの男性の一言で、押されていた冒険者達の士気が上がっていく。そう分かったのは、ゴブリンの減る速度が速くなったからだった。
だが、それで怯むゴブリンじゃ無い。それに、冒険者を殺したゴブリンは知能も攻撃力も上がり、殺せるものから殺していく。
「私が血のついたゴブリンを殺る!それ以外のゴブリンを頼んだ!!」
私はその場の全員が聞こえるくらいの声量で声を上げる。
「「「了解!!」」」
周りの人々はそう声を出して、血のついたゴブリンから離れ、血のついてないゴブリンに集中する。
私は挑発を連発して使い、血のついたゴブリンを大量に引き寄せた。
今、目の前にはゴブリンの波が押し寄せて来ていた。
「痛いのは嫌いだから、やるしか無いか。」
私はシールドアタックを使用してゴブリン共に突撃していく、前方にいたゴブリン共は大盾の体当たりで消滅していったが、血のついたゴブリン共は後方に吹き飛ばされ、姿が見えなくなってしまった。
とりあえず来た時にいたゴブリンの内、10分の一は倒し切った。
「ゴブリン程度なら、そんなに心配しなくても良かったかもな。」
わたしは先程と同じく、挑発とシールドアタックで着々とモンスターの数を減らしていった。
「皆んな!聞け!モンスターの半数は削り切った!このまま行けば勝てるだろう!!」
「「「おう!!」」」
言うは易し行うは難し、半数を削った時点で挑発、シールドアタックを使えるマナは無くなりかけていた。
ただ、安心材料の一つに街にいる冒険者がこれから向かって来ると言う期待がある。予想では短くて10分でもしたらやって来てくれるだろう。
「マナ的に最後になるだろうが、挑発!!」
近くのゴブリンを惹きつけて、大盾の振り回し攻撃で薙ぎ倒す。
「お〜い皆んな!!助っ人が来たぞ!!」
そう声がしたので、私が視線を後ろに向けると後ろから大勢の冒険者達が隊列を組んでやって来ていた。
よく見ると、ダンジョン探索遠征隊を除いた街の全冒険者が駆けつけていた。
はははっ!予想の十倍早いし、十倍多いぞ!これで戦況が一気に片付く!
余裕も束の間、それは一瞬の出来事だった。
「皆んな!よく来てくれた!」
私がそう言うと後ろの冒険者達に向かって炎の球が飛んで行った。
飛んで行った炎の球は中列に当たり、中列にいたであろうヒーラー達はパタリ、パタリと倒れていった。
勿論、私が魔法を使ったわけでは無い。それ以前に使えるわけが無い。
私は視線を前に向け、炎の魔法を使った者を探し始めた。最初は人を疑った。だが、新米の冒険者達にマジシャンは見当たらなかった。次に、ゴブリンの方を見た。そして、そこにそいつは居た。
黒いゴブリンだ。いや、正確に言うと違う。全身、血で染まったゴブリンだ。おそらく、私が殺し損ねた血塗れのゴブリンの一匹だろう。
そいつは死体から拾ったのか、魔法の杖を持っていて、次に放つ、ファイアボールの準備をしていた。
「奴を殺さねば!!」
そいつを殺す為に、ゴブリン共を薙ぎ倒しながら前に行こうとするが前に行けない。皆も東京で人の波に飲まれた事はあるだろう。それと同じだ。
しかも、さらに厄介なのがゴブリン共は奴を殺させまいと、自分の身を挺して突撃してくる。
これによって、私と奴の距離は近くなる事が無かった。
「おい!冒険者共!誰でもいい!奴を!黒いゴブリンを倒せ!!」
しかし、新米の冒険者はおろか、後ろにいる冒険者は動く気配がない。視界を後ろに向けて理解した。
先程のファイアボールでヒーラーが全員やられており、全員怖気付いていたのだ。
「ポーションはどうした!!」
後ろに叫ぶ。帰ってきた反応は「すぐにかけたが意味がなかった!」だった。
「即死してしまえば、ポーションなんて意味がない。」これは攻略組ギルドの癒しのフェリアが言った言葉だが、奴はそれを体現しやがった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
私は大声を上げて、擬似的にシールドアタックを再現して奴に突撃していった。
声に鼓舞された冒険者共も私に続いて、ゴブリン共に突撃しにいった。だんだん、奴との距離が小さくなっていく、10m、7m、5m。
そして、残り3mの距離まで近づいた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
あと少しだぁぁぁぁ!!!私は火事場の馬鹿力で足の踏ん張る力を強め、奴との距離が2mに到達した。
「この距離なら!うおぉぉぉぉ!!」
盾を思い切り振り上げ、奴に振り下ろす。
刹那、私の体が上空に打ち上げられた。
「くそっ!!」
奴に大盾が振り下ろされる前に足元にファイアボールを放たれたのだ。ダメージこそなかったものの、奴との距離が開かれてしまったのだ。
そこからと言うものの一方的であった。
黒いゴブリンがファイアボールを放ち、近づいた冒険者が次々とやられていく。そして、慌てた冒険者達は我先にと、走って来た道を引き返し始めた。
私が近づこうとしてもゴブリンの波に人の波、二つの波に押されて近づけなかった。
「冒険者達よ!一旦引いて立て直すぞ!!」
私は大声を出す。こんな大半の冒険者が逃げ腰では士気も下がる一方でジリ貧になってしまうからだ。
私は助けれる者は盾を使って助け、奴が放ってくるファイアボールは盾で防ぎ、生きてる奴が逃げ切れるまで、時間稼ぎをした。
ファイアボールを跳ね返し、沢山のクレーターが出来たり、横に生えてた木々が焼けてしまったが命の方が大切だろう。
私は後ろの冒険者達がいなくなったのを確認するとすぐにその場から離れた。
後ろをチラリ、チラリと見ながら走っていたが、奴らは勝ち誇った様に笑っていた。
これが私にとって初めての敗北となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます