第15話 思い出
胡桃がパタリと倒れた時に意識がハッとする。
「胡桃!!」
酸欠か過呼吸か、倒れた原因は様々あるが口元に手を近づけて、症状を判断する。
だが、先程までヒールを酷使していたのを見るに、マインドダウンだろう。
[マインドダウン]
これにより、戦場で次々と倒れていく人々を見た事がある。
所で、今胡桃が倒れるのは非常にまずい。俺がこの惨劇を作り出したモンスターと胡桃を背負いながら戦わなくちゃいけなくなる。
急いで、胡桃を安全な場所に運ばなくては。
「ちょっとごめんね。」
俺は再び、胡桃をお姫様抱っこし、人間の街に走っていった。
道なりに走っている時、道端に転がっている人の死骸の数が急激に減った。恐らく、撤退したんだろう。
やがて、街が見える距離になった時、同時にゴブリンの大軍が街の入り口で人間達と戦っているのが見え始めた。
「あ、あれは!」
人間の街防衛戦の最前線に見覚えのある人が見えた。
そう、組合長だ。大盾を振り回している姿が、遠くからでも目に入ってしまった。そして人間では無いが一際目につくモンスターがいる。黒いゴブリンだ。奴は組合長と対になる位置をキープして、ファイアボールを放ち続ける。非常に頭の回るモンスターの様だ。
「せっかく、あのゴブリンの背後をとってる事だし、そこら辺に落ちてる石で奇襲でもしよ。」
組合長も誰が見ても満身創痍だし、これ以上死者を出さない為にもやらなきゃ。でも、あれ?何で俺は人間の味方をしてるんだ?胡桃は友達だが、それ以外は関係ない。それに、俺は魔族なのに……。
「(……は……種………係…しに…………仲良………いきな……い。)」
キーンと耳鳴りがして、脳内に知らない人の声が聞こえて来た。誰だ?今の声は……。
胡桃か?いや、執事、組合長、最初に話しかけた魔族……。全て違う。
あれは確か……。
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あれは確か、俺が産まれて間もない頃だろう。
「あう……あう!」
「あらあら、元気な子ね〜!」
母親らしきひとが子供を抱き抱えている。抱き抱えられた子供は動く植物を見てはキャッ!キャッ!と楽しんでいる様だ。
「あう……あう!あうあう!!」
ガサガサッ!と草むらが揺れてその赤子は音のした方を指差す。
「安心してね。お母さんがついてるから。よしよ〜し。」
その子のお母さんは草むらをかき分けて、音の正体を見つけた。それは小さく蹲っている人間の子供だった。
その人間の子は驚きながらもお母さんと話していた。何を言っていたのか赤子にはよくわからなかったが、赤子はあの子は殺さなくて良いの?とジェスチャーで伝える。
何故なら赤子は家庭教師に人間は殺すものと教わって来たからだった。
しかし、その子のお母さんはううんと首を横に振った。
「よく聞いてね、あなたは人間が敵だとか、ドワーフは仲良しだとか、そう教えてもらってると思うの。」
「あう!」
「でもね、お母さんもお父さんもそうは思わないの。」
「う?」
赤子にその話は難しい様で、くびを傾げる。
「いい、よく聞いてね。あなたは種族とか、食料とか関係なしに色んな者と仲良くなっていきなさい。」
そのセリフを母親が言った事で、赤子が誰なのかを思い出した。この子は俺だ。それも、一才の頃の。
残念ながら母は顔を顔を隠していて顔が見えなかったが、母との記憶を思い出したからよしとしよう。
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あなたは種族とか、食料とか関係なしに色んな者と仲良くなっていきなさい。か、わかったよ。母さん。
「決めた。敵だとか魔族だとかどうでも良い。ただ、色んな人、動物、種族と仲良くなってやる!!」
俺は自身の命中率を信じて、石ころを黒いゴブリンに向かってぶん投げる。
黒いゴブリンは余裕の表情を浮かべ、次のファイアボールの準備をしていたが、背後から飛んでくるマナのこもってない物には気づかず、背中から胸に及ぶ穴が空き、叫び声を上げて消滅した。
冒険者達は黒いゴブリンが居なくなったのを機に押し始めた。
「一応、皆んな満身創痍だろうから手伝おっと。」
俺は皆んなの元に全速力でダッシュし、近づいていく。途中、邪魔して来たゴブリン共は全員蹴り飛ばして消滅させた。
「組合長!無事でしたか?」
「あぁ、無事とは言えないが、何とかな…。それよりそっちの連れの方が危ないんじゃないか?」
「大丈夫です。多分、マインドダウンですので…。」
「そうか、わかった。なら、お前には手伝って貰うぞ!」
俺は胡桃を病院に連れて行かなきゃと言ったが、他の冒険者達に行手を阻まれた。多分、さっきの黒いゴブリンを倒したから、実力がバレたんだろう。
「はぁ、分かりました。ゴブリン共を蹴散らして来るので、その間、
「あぁ、任せてくれ。」
「もし、傷がついていたらその時はお分かりですよね?」
念には念をで、圧をかけておく、胡桃が目覚めた時、怪我をしてたら痛そうだしね。
「あ、あぁ。勿論、命掛けで守らせていただこう。」
その言葉を聞いた瞬間、執事から貰った剣を片手に駆け出す。
それからと言うもの、俺の一方的な殺戮ショーが繰り広げられた。そして、そのショーは5分としないうちに終わってしまった。
「これで、この場にいるゴブリン全部倒し切りましたね!」
組合長の隣に行き、そう呟く。
「ああ、とても助かったよ。ありがとうね。それと、この連れも無傷だから安心してくれたまえ。」
「あ、ありがとうございます。」
「そうだ、君に聞きたい事と話したい事があるのだが、今すぐ、私と共に冒険者組合に来てくれないか?」
「も、勿論です!」
レイはしっかりしている訳ではない。
レイはダンジョンブレイクで強敵を打ち取ってくれてありがとうとか、家より豪華なお礼がもらえるんじゃないかな〜。とか、考えているのであった。
これから、配信が出来なくなる危機が待っていることを知らずに……。
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