第二章 レイと仲間
第十六話 国が私に課した事
「レイ、少し聞きたい事がある。ボスを倒したのはお前か?」
配信を切って、胡桃をかかえながら組合長についていくと、ダンジョンに行く前にお礼を貰っていたあの部屋まで連れて行かれ、そう聞かれた。
「ボス?あの黒いゴブリンの事ですか?」
「いや、違う。ダンジョン内に特殊な部屋があっただろう。そこで出て来る特殊なモンスターの事だ。」
特殊な部屋……、キングゴブリンのいた所だろうか。
「キングゴブリンのいた場所でしょうか?」
「キングゴブリン?まぁ、何だ。そいつを倒したのはお前か?」
「えっと、そうですけど…。」
どうだろうか。やっぱり倒したのは正解だっただろうか。それとも……
「やはりそうか……。」
「やはり?」
「いや、何でもない。ただ、つぎからはあの部屋に入らないでほしい。」
あの部屋のモンスター共は良い経験値になっている。現に、レベルも9まで上がっているのだ。あの部屋に入っては行けない理由が思い付かない。
「何故ですか?」
「ボスを倒すと……。……………ダンジョンブレイクが発生するんだ。」
ダンジョンブレイクが発生する?じゃあ、俺が大量の人を殺したのか?少なくとも十数人以上…。
目の前に同族や人間がいる時は基本、焦らない様にしているが、仲良くしなきゃ行けない人を殺してしまったとなると、流石に焦る。
「え、あ、え」
「だから、……あの部屋には入らないで欲しいんだ。と言うか、もう入れないかも知れない。」
「うん…………。」
突如として、罪悪感が押し寄せてくる。今まで、人間を殺して来た時に感じなかった物が心を埋め尽くして、胸がいっぱいになる。
「きっと─────が─────」
時間が経つにつれ、耳鳴りが激しくなり、音が聞こえなくなってきている。もう、組合長の声すら聞こえなくなってしまった。
「──────────!!」
意識が朦朧として来た。
だけど、今は寝てる暇なんか………。
***
先程いた場所で、目が覚める。
どうやら、気を失ってしまった様だ。
目線を少し上に上げると、胡桃の姿が見える。胡桃は先に起きていたみたいだ。俺はと言うと、柔らかい何かに頭の重さを乗っけている。
「あ、起きたんだ。」
「うん……。いつの間にか寝てたみたい。」
寝起き早々、体をグイッと前に持って来て体を起き上がらせる。
「あれ…?組合長は?」
「僕にも分からないよ。僕だって起きた時にはここに居た。」
胡桃は俺が気絶して、少ししてから起きたらしい。じゃ無いと、組合長と合わないのがおかしいからだ。
「じゃあ、胡桃は何でここに?」
「レイが倒れていたから…、と言いたいけど、これを見てよ。」
胡桃は目の前の机を指さした。そこには、白い封筒が置いてあった。
「何これ?」
白い封筒を開けてみると、中には組合長のものらしき文字で俺宛に手紙が書いてあった。これは置き手紙と言うものだろう。
中にはこう書いてあった。
[レイへ]
少しばかり、国にお呼ばれしてしまった。
だから、私は少しこの場を離れる。私が帰って来るまでそこでゆっくりしておいてくれ。
何だこれは。自由を束縛するための手紙か?これがおいてあるって事は、組合長が帰って来るまで動くな。と言う訳だが……
「暇だね。ってか、胡桃私宛の手紙勝手に読んだんだね。」
「まぁね。僕と胡桃の中だし良いじゃ無いか。」
うーん、良くはないと思うよ。胡桃君。
「勝手に見るのは良くないけどね。」
「ごめんね。そんなに嫌だった?」
「嫌じゃないけど…、次からは聞いてよね。」
「分かった。」
そこから、数秒沈黙が流れた。特に話すことも無いので、もう一度寝ようと────したけど胡桃に阻止された。
「どうして止めるの?」
「一人じゃつまんないじゃん。」
「じゃあ止めないでね。私はもう寝るので。」
だが、やっぱり止められる。こいつは俺が寝る事を良しとしないのか?
「いやー、胡桃!ちょっと眠たいかも!」
「さっきまで寝てたよね?」
「寝てたと言うか…」
そこでレイは自分が気絶した理由を思い出した。
間接的に人を殺してしまったショックで気を失っていたのだ。
「あ……。」
また、心の中に何かがいっぱいになっていく。それと同時に、息もしづらくなっていく。
「ちょっ!レイ!?」
胡桃は急いで過呼吸になっているレイを抱きしめる。
だからといって過呼吸が落ち着くわけでもなく、レイは慌てながら息を吸おうとする。
「はぁ……はぁ……かはッ……スゥ…」
息がしづらい。いや、しづらいと言うより空気が体内に入って来ない。逆に、空気を吐き出し続けている気がする。
「レイ、落ち着いて〜。スゥ……はぁ……スゥ……はぁ……」
胡桃はレイの目の前で息を吸うお手本をみせながら、背をさする。
「かはっ……はぁ……スゥ…はぁ…スゥ……はぁ」
俺は胡桃の真似をして、息を吸おうとする。
そして、レイはゆっくり真似をしている内に呼吸の仕方を取り戻した。
「はぁ…はぁ……ふぅ、はぁ。」
呼吸の仕方を思い出した俺は、少しでも心を落ち着かせるためにレイを抱きしめる。
「ちょっと//急に激しっ//」
「あ、ごめん。急に落ち着いた。」
俺はすぐに胡桃から離れて綺麗な姿勢で座った。
「あ、ちょっと……,」
胡桃の反応を見るに、恐らく、過呼吸は回復魔法では治らないんだろう。回復魔法と言うのはあくまで、体の不具合を回復させるだけ、病気であったり、怪我をしていないと使えないらしい。
「回復魔法は体の不具合にしか効かないっと、記憶しておこ。」
「ねぇ、レイ。ちょっと冷たく無い?」
「まぁ、変な反応されても困るし。」
正直、さっきの反応をされてもキモいとしか思えなかった。元男性でもだ。なんか、あのままくっついていたら自分の常識がおかしくなる所だったと思う。
「え、でもさッ…」
「ただいま、帰ったぞ。」
ガチャリと音がなり、部屋に聞き覚えのある声が聞こえて来る。そう、組合長が帰って来たのだ。
「組合長、何で私はここで待てと呼ばれたのですか?」
「それなんだが、お前のした事で国に呼び出されてな。」
「えっ?どう言う事ですか?レイがなんかやらかしたんですか?」
組合長から
仕方ないだろ。あれを思い出すと過呼吸になるんだよ。
「ああ、君は知らなかったね。後で伝えるから今はレイと話して良いかい?」
「ええ。勿論です。」
胡桃がそう言うと、組合長がそれでは本題に入ろうと言って、話し始めた。
「レイ、お前について国がどういう処分をするか決めた。」
あぁ、どうせ死刑とかそこら辺なんだろうな。
「お前は半年の間、モンスターの討伐禁止を下された。」
「えっ?それだけですか?」
「ああ、重要なのはそれだけだな。後は新人探索者を育て上げる事と、ダンジョン内では必ず配信をつける事だな。最初に言った方はレイだけに課されているが、二つ目に関しては全探索者に課されるから、胡桃、お前も注意しておく様に。」
新人探索者の養成?何だそれは。と言うか、条件が達成出来なくて家がなくなるんじゃ無いか?
「家を貰っている条件はどうすれば…」
「それは俺が二ヶ月間、家賃など諸々を払う、その間は条件が消えているから安心しろ。ただ、それ以降はいつもの条件に戻るから気をつけろよ。」
「つまり?」
「育て上げた新人に現在最到達階層を更新させ、そこの素材を持って帰らせれば良い。な?簡単だろ。」
組合長は簡単とか言うが、たったの二ヶ月でどうにかするのはかなり至難の技だ。少なくとも、胡桃の力を借りなければ無理だろう。
「簡単では無いですね。ただ、胡桃が入れば話は変わりますけど。」
俺は胡桃の方を見る。
胡桃は俺と目があった時、胡桃は申し訳なさそうな顔をする。
「えっと…、僕はちょっと無理かも。一ヶ月くらい用事が入ってて…。」
「一ヶ月かぁ、もっと短い期間になったりは……。」
「無理だろうね。」
「う〜ん……。」
新人を集めるだけでも疲れるのに、それを一人で育成するのか?いいや、むりだね。途中でほっぽり出しそうだ。
「じゃあ分かった。新人探索者選びは手伝って上げるから、その後はレイが頑張ってね。」
「分かった。それならギリギリ…。」
「なぁ、そこちょっと結構良い感じに決まって来た所悪いんだけど、スマホを使うって案は無いの?」
スマホ?とは何だろうか。良く分からないが、二人の意見が叶えられるマジックアイテムなんだろう。
「それってどこにあるんですか?」
「ある。と言うよりかは売っている。だから、買わなければならないよ。」
「じゃあ、買いに行こうかな。」
「でも、レイ、君は大金を持っていないだろう。だから、私達、いや、国がスマホを支給しよう。そう取り付けておくよ。」
組合長はそう言うと何処かに電話をかけた。
今回の電話はかなり早く終わり、すぐに組合長は戻って来た。
「よし。大丈夫な様だ。また、明日ここに来てくれ。そしたら、スマホを渡せるだろう。」
「分かりました。えっと、あんな悲劇を作り出してしまったのに、そこまでしていただき、ありがとうございました。」
「え、悲劇?」
「それは、組合長に聞いてね。また、過呼吸になるかもしれないから。」
俺は組合長に礼をして、その部屋を出る。
そして、俺はそのまま自分の家に向かって行った。
ちなみに、胡桃は組合長に何があったのか聞くそうなので、おいて来た。
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