第2話 (2) ダンジョン暮らしの奴隷少女?(二川胡桃視点)
中層に来てから何とか生き残り、現在35階層まで来ていた。30階層以降の階層の敵は攻撃されるだけで、HPが半分も削られてしまうので、気をつけなければいけない様だ。
「モンスターを1人で倒せる力さえあれば……」
「おい、ヒーラー?今更そんな事言ったって無駄だぜ?」
何でこんなに口調が変わったんだ?いや、それを考えると異変はもう20階層を降りた辺りから、起きていた事に気づく。
(確か、急に態度が変わったのが配信が終わった後、つまり、配信中に何かがあって、こうなったと見るのが妥当な線だろうか)
「前から三体来ます!」
「三体か…ガンク!前に!それ以外はさっきの陣形に!ヒーラーは二体を引きつけろ!!」
二体を引きつける事がどれだけ危険な事か知っているのだろうか。
とりあえず、自分にヒールをかけ続けてモンスターに近づく事にする。
時折、ダンタン達は笑みを浮かべる。しかも、敵の量が多い時に限って浮かべるのだ。
「こっち!」
あの顔は見てて気持ちが悪いが、言われたならやるしか無い。危険は既に承知の上だ。
「ふっ!」
一番危険な黒い狼は幸い、ガンクが引きつけているので
命はギリギリ助かりそうだ。
しかし、ゴブリン二体を相手に挑発するのは難しい。回避するのもギリギリで、攻撃を完全に避け切ったと思ったら、HPが半分以下になってるのはザラだ。
「溜まったなら打て!!マリン!」
「ファイアボール!!!」
「ガルルゥゥゥ!!」
マリンの打ったファイアボールを黒い狼が回避する。
黒い狼がいた場所にファイアボールがぶつかり、小爆発が起きる。
「この狼!かわしやがっ……うわ!」
ダンジョンの地面と壁が、ビキビキと音を立てて割れていく。モンスターも僕たちも足場が不安定になった事で一歩下がる。
「一旦、陣形を立て直すぞ!」
「ガンクは引き続き前に!ヒーラーは全員にヒールを!後ろはアカ!!…っな!?」
バキリと音がなり、ひび割れた床に二人が入れるくらいの穴が開く。その穴を遠目に見ると、暗闇から何かが覗いている感じがする。
「その穴に気をつけて!」
「おう!」
「ガルル……」
目の前のモンスターも、何かを待っている様に見える。
「陣形維持を続けろ!」
ダンタンが叫ぶ。あの笑顔はもう見る影もない。
「マリン!!もう一度ファイアボールの準備を!今度は天井に向けて打て!!」
「はい!」
「他の奴らは時間稼ぎをしろ!」
「おう(了解)!」
きっと今まで通りに時間稼ぎを出来ないだろう。
だから、僕はガンクや今の地形を利用して、回復魔法を酷使する事にした。
「よっ!ほっ!!ヒール!!うわっ!!」
「危ねぇ!ヒーラー!地面を見ろ!!」
段差に気づかず、思いっきり地面を転んだ。ヒールを使っていたせいでモンスター全員がこちらを向く。
僕が止まった事で、狼に腕を噛みつかれた。
だが、大丈夫だ。もうファイアボールの準備が整ったようだ。
「ファイアボール!!!」
それは天井に飛んでいき、小爆発を起こして天井が崩れる。狼諸共、僕は巻き込まれそうになったが、岩で狼が先に潰れた事でギリギリで回避する。
「危なかったがこれで戦闘終了だな。」
「終わったぁ〜…」
非常に危なかった。自分のステータスを確認するともう残りHPは5と映し出されていた。残りのMPは30、みんなにヒールをかける分しか残っていないが、ここは中層、迷っている暇などなかった。
魔法を使う前に何処からか音が聞こえて来た。
バキリ、バキリと音が聞こえて来る。
それは天井、穴どちらかがしてる音では無い事に気づいた時には、もう遅かったのかも知れない。
バキリ、バキリと音に合わせてダンジョンの壁にヒビが入っていく。
「嘘だろ……」
ダンタンのみがダンジョンの壁を見て反応する。他のメンバーは先程の戦いで疲弊しきっていて、どうやら気づいていないらしい。
どうやら、ダンタンさんはこの現象を知っているらしい。反応を見るからに良い事ではないらしい。
「おい、ヒーラー!!全員にヒールを!!モンスターパーティーだ!!!」
「はい!ヒー「ギシャァァァ!!」ル!」
前後左右、全ての方向から、声が聞こえる。壁の方を見るとひびが割れ、多くのモンスターと目が合った。
モンスターはざっと見、20体ぐらいで、ジャイアントバットとゴブリンが出て来ていた。
「前以外囲まれている!前にい……」
「どうしたんでs……」
目の前を見て、固まる。さっきの空いた穴の辺りには岩が落ちて来ていて塞がれた様に見えたが、穴は奇跡的に残っており、中から黒い狼が来るのが見えた。
「か、囲まれてるッ!!」
ダンタンは後ろに下がり、全体を俯瞰する。この場を切り抜ける何かが無いか探る。
(何か、何か無いか?)
そこでハッと気づく。今、敵の集中は回復魔法を使ったヒーラーに向いていると。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
洞窟内にダンタンの声が響き、モンスター達が一瞬怯む。ダンタンはモンスターが怯んだ隙に後ろに向かって走り出した。
「お、俺も!」
スタンフ達は一斉に後ろを向き、走り出した。
「待って!待ってよ!」
焦って走ったが、モンスターから一撃を受けてしまう。
僕よりも、この人達の方が断然走る速度が違う。レベル差だろうか、いいやそれだけじゃ無い。
僕の後ろに居たモンスターが僕の前に来て、帰り道を防がれた。どうやら、僕だけは逃さないつもりの様だ。
「い、嫌だ。」
モンスターがジリジリと近寄って来る。一歩、また一歩と行き場を失われる、僕の周りに絶望が近づいてくる。
「こんな所で……、死にたく無い…。まだ、あの時生き残ってしまった自分への理由付けも出来てないのに……」
「ギャッ!ギャッ!ギャギャギャ!!」
「ガルル!!」
(モンスター共は笑っているのか?僕を見て笑っているのか?僕は今、そんな酷い顔をしてるのか?)
どんどんとモンスターに囲まれて行き、遂にはモンスターが自身を中心とした半径1m以内に入って来た。
「誰か…助けて……」
意識せずとも声が漏れる。もう、モンスターはいつでも僕を襲える範囲に入っている。攻撃して来ないのは、きっと僕の反応を見て楽しむためだろう。
「……は良い経験値になるんだぁぁぁぁぁ!!!」
早い速度で何かが近寄って来る。人だ。それを認識した時、神様にでも声が届いたのかと勘違いしかけた。
僕はモンスターに意識を向けてて最初の方は聞き取れなかったが、きっと助けに来てくれたのだろう。
「邪魔だぁぁぁぁ!!」
さっきまで居たモンスター達は一回の瞬きの内に消えていた。ダンタン達がダンジョン攻略トップ層の人々に声をかけてくれたのだろうか、いいや、そんな事はない。ここから配信が出来る階層まで5階層もある。
いくら、彼らの足が早いとはいえ、逃げてから10分以内に5階層上まで登るのは無理だろう。
「助けて下さりありがとうございます!!」
目の前の人が僕を勢い余って剣で斬りそうな予感がして、頭を下げ、少々フライング気味に声を出す。
すると、目の前の人はピタリと動くのをやめた。
顔を上げてみると、目の前の人は暗闇で顔が見えないが困惑してる様子だ。多分、何故、一人でここに居たのかが分からなかったのだろう。
「あ……、えっと、その…、あー………あにゃ…たも同じょ、同族……でしゅ…か?」
多分、この人は日本人では無いのだろう。明らかに、不自然な日本語だ。失礼だが、もう一度聞き返す事にしよう。
「えっと、すみません。なんと言いましたか?」
「………ごめん。」
そう言うと、目の前の人は後ろを向いた。
(ごめん?話が通じないから、もう帰るつもりなのか?)
僕は助けてくれた人の不安定な日本語が聞き取れず、お礼も出来ずにこの人に帰られるのか。それだけはダメだろう。そう思うと咄嗟に体が動き、この人の足を掴んでいた。
「離して!離して!会話無理無理!!帰る!お家帰る!」
急に触られたのが嫌だったのか、大きな声を出した。
そして気づく、この声は女性か?確かに、僕でも急に触られたら痴漢だと勘違いするかも知れない。ちゃんと理由を話さないと。
「待って下さい!!まだ、ちゃんとしたお礼が出来てないんです!!」
「じゃあ帰らせて!それがお願いだから!!お礼要らないから!!」
お礼がいらないとその女性は言った。僕はそう言う人もこの世界にはいる事を知っている。きっとこの人は感謝やお礼欲しさの偽善者ではなく、本当に善人なのだろう。
(それでも!それじゃ、自分が納得出来ない!)
「そう言う訳には行かないんです!!僕の気がすみません!!」
「分かった!分かったから!手を離して!!!」
その女性は分かったと言いながら、足に力を入れ、足を早めた。
「絶対逃げるじゃ無いですか!」
足を離したら彼女は逃げる、そう直感が告げていた。
だから、僕は足を掴む力を強めた。
そしたら、彼女は動きを止めた。それに合わせて、僕も足を掴んでいた手を離す。
「お礼を受け取って頂けますか?」
(………え?)
先程まで、ギャグ漫才見たいな事を行っていたとは思えない程の静寂が訪れる。
「えっと……すみませ〜ん。」
反応が無い。
(何だか、様子がおかしく無いか?)
何かおかしい事と思い、顔を見て見ると、白目を向いて意識を失っていた。
(この人が接触恐怖症である事を考慮出来てなかった……。)
ダンジョン内で意識を失うのは非常にまずい。ダンジョンにはモンスターが出現するからだ。
「どうにか、セーフティゾーンまで運ばなきゃ。」
幸い、この自分と同じくらいの身長の女性は軽く、背負う事ができた。
だけど、それでもいつもの移動速度が半減してしまっていた。
「ここから、セーフティゾーンまで約15mか。」
15mそれは50m走経験者なら分かると思うがとても短い距離だ。だが、それは安全な地上での話。ダンジョン内ではモンスターが前に来るだけで、とても長い距離に早変わりしてしまう。
先程、モンスターパーティーが発生したから、暫くはモンスターが生み出される事はないが、僕は怪我をしている。血の匂いを嗅ぎつけたあの黒い狼が来るかも知れない。そんな可能性が脳裏をよぎった。
「急がな…きゃ!」
必死に両足を動かす。残りのHPは17で、MPはゼロ。次にモンスターが現れて一発でも攻撃を受けたら終わりだ。
「あと、少し!」
残り3mくらいだろうか、出血のせいで、僕の視界も朧げになって来ている。それでも、まだ止まるわけには行かないので足を動かす。
「うやぁぁぁ!!」
だが、ついた途端に安心感からか、僕も意識を失ってしまった。
***
「……ッは!」
自分はいつの間にか気絶していた様だ。でも、この女性いや、身長と顔の若さ的に同年代の少女だろうか。まぁ、この少女よりは先に起きれただけマシか、逃げられたら、お礼も出来ない。
「そうだ、ステータスオープン。」
うん、さっきの気絶は瞑想判定になっていたらしい。おかげでMPが100も回復している。
「うーん……」
おっと、少女は起きた様だ。
「起きましたか?ここは階と階の間、所謂セーフティゾーンなので安心してください。」
「………えっと、だr」
「改めまして、助けて下さりありがとうございます!!」
「え?」
(言葉をかき消してしまった。悪い事をしたな。)
それでも、礼だけはしたりない。土下座をしながら、礼の言葉を言う。
「感謝の品として、これを貰って欲しいのです!」
僕は首につけていたペンダントを渡す。これは、ヒーラー全盛期の頃に買った、回復効果を上げると言われていたペンダントだ。まぁ、実際は効果が無かったのだが。
「いやいや、要らないよ。助けたの、私じゃないし。それに、えっと、誰?」
これは謙遜なのだろうか、または、寝ぼけているのだろうか。まぁ、とりあえず自己紹介をしよう。
「僕は
助けてもらった事を一応確認で聞いて見たが、少女の顔が青ざめていっている気がした。
「ちょ……」
「ちょ?」
「ちょ…調子のってすみませんでした!!どうか、命だけは!!」
少女は土下座に似たポーズで謝ってきた。
(ん?え?ん?おかしいな…僕が助けてもらったんだよね?)
「えぇ…どうしたの急に……」
もしかして、やばい人に助けてもらってしまったのか?
やや焦りを感じながら、冷静を装って言う。
「まさか、ネームドだとは知らずにタメ口を使ってしまい、申し訳ありませんでした!!」
「ネームドって、名前なら普通、皆んな持ってるんじゃ……」
そこで気づいてしまった。この急な態度の変わり様、接触恐怖症、急な敬語、名前なし、ここから導き出される答えは一つ。
奴隷だ。今の日本でも、こんな事をされている人がいるのか!?いや、半年前のあの雰囲気だったらありえるかも知れない。あの時は世界中世紀末状態で、人攫いも増えていたから。
きっと、その時にダンジョンに潜り込んだのかも知れない。上層のモンスターは生でたべれるのが多いから。
「ごめん、失礼な事言ったよね。」
(奴隷であったことを察せなかったのは僕が悪かったよね。)
「名前!見せてみな!自称ネームド!」
(自称ネームド、名前見せてって、あぁ、そうかこの子は、名前がどんなものか知らないんだ。)
「え?いいけど…、ステータス、オープン。はい、勝手に見ていいよ。」
少女は肩がくっ付くほど、近くまで来てステータスを覗く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名前: 二川胡桃(16)
職業: ヒーラー
レベル:5
HP 17/30
MP 100/190
ATK 5
DEF 9
MATK 14
MDEF 6
AGI 12
DEX 9
EVA 10
★スキル
[言語理解][瞑想][ヒール][キュア]
[クリーン]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(やけに、じっくり見て来るな……。あ、どんどん顔が青ざめていってる。)
「ふ、ふ、ふ、二川胡桃さま。わ、わ、私は急用を思い出したので、か、帰ろうと思います」
「いや、待ってty「さようなら!」」
あの少女は言葉を遮って走っていってしまった。35階層の方に彼女は35階層を拠点にでもしてるのだろうか。一応、念のため聞いて見る事にする。
「えっと…そっちの方向行ったら地下に行っちゃうよ!!」
「え?」
少女は反対側を向き、顔を隠し、早歩きで僕のまえを通り過ぎる。そう言えば、僕のペンダントは置いていかれてる様だ。
(って!そうじゃない!僕一人じゃ敵も倒せないし、上層に上がる事もできない!!)
ペンダントを拾い上げ、彼女の向かっていった方に走り出す。
「あ、待って待って!置いてかないで!!僕は1人じゃ地上に戻れないんだから〜!!」
その声はダンジョン内によく響いたが、少女の耳には届いていなかった。
一方、早歩きの赤面な少女は恥ずかしさの余り、意識を失う前の自分の記憶を取り戻してしまい、叫びながら上の階への道を探すのであった。
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