第3話 友達
「うーん……ここは……」
何故だかデジャブを感じるが、俺はいつの間にか気絶してたらしい。
「え………」
で、やっぱり隣には
せめて、少し離れて話しかけないで欲しい。
「ん?ここに居たら悪いかな?」
何で、こいつは毎回、気絶した俺の近くにいるのだろうか。
「な、何故ココニイルノデショウカ……。」
ガタガタ震えながら声を出す。勿論寒い訳じゃ無い。いつも近くに来るこいつが怖いのだ。
「それは、君が28階層の入り口付近で倒れてたからじゃ無いか。」
俺が倒れてた…か、倒れる前は何をしてたんだ?確か、俺は邪魔な生き物を倒しながら
「安心して、僕が後ろから攻撃した訳じゃ無いから。」
何だこいつ、何で俺の考えてる事がわかるんだよ。やっぱネームドだからかなのだろうか。とりあえず、こいつには前に言ってもらおう。こいつが後ろに居ると不安過ぎる。
「次、前に行って!……下さい。あと、少し……離れて、……話かけないで…下さい。」
「僕のお願いを聞いてくれたら良いですよ。」
こいつ…。俺が断れないのを良い事に条件つけやがって。ストレスゲージがMAXだよ。本当に。
「………分か…りました。」
渋々、条件を呑む事にする。そしたらこいつは俺から離れてくれる訳だ。こいつと離れて悪いことなんてないだろう。
……本当に無いだろうか、少し心配になって来たが、おそらく無いだろう。
「…それ……で、な、内容は何、ですか。」
「じゃあ、僕の後ろについて来て、僕の代わりにモンスターを倒してくれない?」
俺は困惑する。モンスターって何だ?
「えっと、その、モンスターって……何ですか?」
「モンスターって言うのはダンジョン内で生まれる敵対生物のことだよ。」
俺は再び困惑する。どうして、たったそれだけで良いのか、分からないからだ。
「……嘘…ですか?」
「本当だよ。これは世界で認められた呼び名だからね。」
俺はくびを横に振り、「違う…、そうじゃない」と答えた。
「条件の…。」
「あぁ、何でそんな簡単な事をって思った?大丈夫、嘘じゃないよ。だって僕は敵を倒せないからね。」
ネームドなのに攻撃が出来ないのはおかしくないか。そしたら、こいつは何ができるのって話だ。何か弱点を補える物さえあれば話は別だが。
もし、それが無ければ、魔王直属の配下が敵を倒せない事で、その魔王の権威が低くなってしまい、入れ替わり戦を申し込まれ易くなってしまう事だろう。
だとすると、十中八九何かを使えるんだろう。
「あの、二川胡桃…様には、何が、出来るのですか?」
「様って…、呼び捨てにして胡桃でいいよ。それに敬語も使わなくて良いよ。」
ネームドを呼び捨てはどうかと思うが、敬語なしは正直助かる。同族と話す機会が少なかったせいで、敬語を話すのが苦手だったからだ。
「話を戻すけど、僕には攻撃力が低い代わりに自分にも仲間にも回復が出来るんだ。」
「回復?」
回復とは何だろうか。俺の知らない未知の技だ。
「傷を治したり、
「毒とかも!?」
「うん。」
傷を治す魔術は再生魔術という物があるが、状態異常を治す魔術は存在していない。
か、革命だ。状態異常を治せるとは…、敵を倒せなくともネームドになれる訳だ。
しかし、この技は新しく健康魔術として、取り入れても良いのかも知れない。
「だから、僕を守って欲しいんだ。」
「うん、分かった。」
出来れば回復を使ってるところを見て見たいが、痛いのは嫌なので怪我をするのはやめる事にする。
「もう行くかい?」
「そうする。」
俺たちは立ち上がって27階層へ出た。
それからと言うものの、1階層進むのに体感的に数十分しか、かからずに26階層に到着した。
俺が孤独に35階層から28階層を進んでいた時は1階層進むので大体の体感時間、数時間もかかったのにだ。
どうやら、胡桃は俺の想像以上にダンジョンに詳しいらしい。
そして、俺の見たかった回復と言うのは思っていたより、早々に見る事になった。
「キュア」
胡桃がそういうと胡桃の周りに白い光が現れる。その光は俺の体の中に入っていき、俺がモンスターを倒した時から感じていた倦怠感が消えた。
「今のは何!」
「今のはキュアと言って状態異常を治すスキルだよ」
きっと回復と言う技の一つだろう。と言うか、モンスター共は倒したら状態異常になってしまうのか?
「……モンスターは毒を持ってるの?」
「25階層から30階層のモンスター達限定だけどね。体液に毒が含まれているらしいんだ。」
なるほど、俺が気絶したのもそのせいか。
「もうそろそろ、次の階層に行こうか。」
「うん。私はもう、毒を喰らわない!」
そして、地上に出る為、俺たちは次の階層を目指していった。
***
15階層を突破した辺りから多くの人を見る様になっていた。その人々は何故かこちらを指さして、驚いた表情をしたりしていた。どうやら、俺が美少女すぎて驚いてしまうらしい。う〜ん、照れるなぁ。え?人間は殺すんじゃ無かったのかって?胡桃に止められた。どうやら、人間を殺すと地上に出た時、自由が失われるらしい。
そして、10階層を超えた時、周りの人々から「幽霊だ!とか老婆がいるぞ!!」とか言われ、指さした奴を全員、撲殺しかけてしまった。胡桃がいなければ今頃ダンジョン内で地下生活を送る事になってしまってたのかも知れない。
現在、6階層と5階層のセーフティゾーンで休憩中である。
「疲れたぁ!」
「まあ、7時間くらい歩きっぱなしだったもんね。」
異世界に来て初めての重労働は歩く事だった。まぁ、流石に7時間も歩いてたら疲れるよね。うん。
「そう言えばさ、僕と話す時の距離が近づいたよね。」
「うん。胡桃には話しかけやすい。」
言われてみればそうだ。15階層を超えた辺りから、胡桃に近づかれても恐怖を感じなくなっていたので、同族と話せる様になるチャンスだと思い、自分から近づいていたな。10階層からは悪口を言う人も増えて来たので胡桃と話す機会も増えざるを得なかった訳だが。
「そう言われると嬉しいよ。」
うん。もう、これは決定事項に近いが、胡桃は初めての友達と言っても良いだろう。さようなら、イマジナリーフレンド。楽しかったよ君との日々は。
(「ダンタン達の配信面白くて、連携とか凄かったけど…」)
(「だよな…、まさかあの配信が終わって、数時間後に、帰還途中にヒーラーが亡くなってしまった。って言われた時は何とも言えなくなっちゃったよ。」)
配信と聞いて、ふと、帰還途中の冒険者の話が耳に入って来た。…そう言えば、執事がこの世界ではダンジョン内での配信をする仕事が主と言っていたな。胡桃はそう言うのをしていないのだろうか。
「ねえ!胡桃は配信をしてないの?」
「してないよ。僕じゃ実力不足だし、それに、配信者になる為の試験にも
そう言えば、胡桃は自己紹介の時、金欠ヒーラーと言っていたのを思い出した。
「なるほど。」
「配信者になる為の試験、受けたいの?」
NOといえば嘘になるので、首を縦に振る。
「一応、君が倒したモンスターの素材はレアな物だけ回収して来たから、受けれると思うよ。」
胡桃は自分の
「何それ!」
「これはインベントリ。モンスターが落とした素材を異空間にしまったり、異空間から取り出したりする事ができるんだ。君も出来ると思うよ。」
そう言って、胡桃の真似をして「ステータスオープン」と言った。そうすると、自分の前に自分の状態を表す青い板が出て来た。見せて貰うのは2回目だが、自分で開くのは初めてかも知れない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名前: (16)
職業: 未定
レベル:4
HP 800/800
MP 600/600
ATK 123
DEF 134
MATK 240
MDEF 210
AGI 100
DEX 150
EVA 200
★スキル
[言語理解][自動翻訳][逃走(小)]
[暗黒魔術(小)]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
これを見て一言、俺のステータスは胡桃のステータスを数十倍したくらいの数値になっていた。何で!?元の世界でもHPとか250くらいだったよMAXで!!
「えっと、ごめん胡桃。これは見せられない。」
「教えたく無いなら教えなくて大丈夫だよ。じゃあ、次はインベントリオープンっていってみて。」
「インベントリオープン」そう言って見ると、格子模様の青い板が視界に増えた。
「今から、モンスターの素材を僕のインベントリから出すからそれをその格子状の枠に入れて見て。」
胡桃はそう言って、青い板からいろんなサイズの素材達を取り出した。
「こんなでかいのも入る?」
「勿論。入るとも。」
俺はとりあえず、青い板の真ん中の枠に素材を押し当てた。すると、素材が粒子状になって、そこの枠に表示された。
「すごい!ちょー便利!」
「よし、これでレアな素材は全部出したかな。これを全部インベントリにれいれて良いよ。」
俺は全部、同じ所の枠に押し当ててみたが、そこの枠には入ら無かった。確認して見ると、他の空いている枠に他の素材は入っていった様だ。
「全部入ったかい?」
「うん。終わった。」
「じゃあ、そろそろ休憩も終わりにして、地上を目指そうか」
「そうする。」
そして、俺たちは地上を目指して、再び歩き出した。
なんか大切なこと聞き忘れてる気がするけど、きっと気のせいだろう。
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