第4話 違和感



「ぜぇ…はぁ、ぜぇ…はぁ…、ダンタン!信じてくださいって!あのヒーラーが生きてたんですよ!!」


 男は必死になって声を出す。


「スタンフ、そんなわけ無いじゃ無いか。奴はモンスター共に囲まれて逃げれ無くなっていたんだぞ。」


「でも!他の人の配si「スタンフ!あのヒーラーの事を思い出させるな。」でも……」


 他の人の配信にあのヒーラーが老婆と共に映っていたんだ。なんて、言える空気ではなくなってしまった。


「分かった。それじゃあ、ここに来る必要も無くなったし帰るわ。」


 (ダンタン…、一応お前にも伝えたからな。)


 これでダンジョン探索遠征隊のメンバー全員にヒーラーが生きてた事を伝え終わった。だが、まともに話を聞いてくれたのはガンクしかいない。

 クランの皆んなにこの事を伝え終わったので、俺とガンクはこれから冒険者組合に自首しに行くつもりだ。

 有名なギルドにスカウトされる為とは言え、仲間を裏切ってしまったんだ。これはどんな職業だとしても到底許されることでは無いだろう。

 俺たちはこんな事を、次もしてしまいそうな自分を許せないのだ。


「ガンクとの待ち合わせ場所まで行くか。」


 俺たちは神に許しを乞う為に、自首をするのでは無い。

 自分を制御しきれなかった自分自身を封印する為に自首をするのだ。


「世界ゲーム化現象。こんなの発生して無けりゃ、俺も社会人のまま調子に乗らずに生きる事が出来たのかもなぁ。」


 そんな事をぼそりと呟いて、ガンクとの待ち合わせ場所へ向かうのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 今現在、俺たちはニ階層にたどり着いたばかりだ。

 もうそろそろで明るい空の出た大地に辿り着くのだろうと思うと感動が隠せない。この気持ちが味わえるのは暗闇に数十時間いた者だけだろう。


「そろそろ脱出だ〜!」


「そうだね。このペースで行けば40分くらいで着くね。」


「やった〜!」


 もう、気分は爆上げである。何故なら、ダンジョン生活

は飽きていたからである。

 そう言えば、胡桃から「お腹は空いてる?」と聞かれたが、「俺は10日間程飯を食べなくても元気だから大丈夫」と言っておいた。胡桃から可哀想とでも言いたげな視線を向けられたが仕方ない。だって、俺は魔族の中でも長期間、飯は食べなくても良い種族だからだ。


「地上には何があるの?」


 俺は先頭で複雑な道を歩く胡桃に質問する。

 これはちょっとした素朴な疑問だ。もしかしたら、俺の世界に存在する物と同じ物しか無いかも知れない。


「今の地上にはダンジョン前に冒険者組合があっ……モンスターの声だ。」


 俺たちが十字路に着いた時、右の道からモンスターの声が聞こえた。俺はモンスターを倒す為、胡桃より前にでてモンスターの位置を見ようとひょこっと顔を出す。

 そしたら、グロテスクな物を見てしまった。


「モンスターが人を食べてる。」


「え!?助けなきゃ!」


 後ろにいた胡桃が大きな声を出した。そのせいで、モンスターはこちらに気づいた様だ。


「ギィィ!ギィ!」


「ちょっと、胡桃静かに!あ、バレた。」


 今度からそう言うのはモンスターを倒した後で伝える事にしようと決意した。

 人を食ってたモンスターはゆっくりと歩いて来る。でも、こちらの様子を伺ってる訳では無さそうだ。こいつ、俊敏性が低いのか。


「てい。」


 こちらもトコトコと歩いて近寄って行き、手刀で頭を攻撃する。あれ、動かなくなった。人を倒したであろう、モンスターはこんなに弱いのか。いや、こいつ多分、死んだフリをしてるな。


「えい。」


 拳を握って、顔面を攻撃する。次はバキリと音がし、倒した感覚がした。


「胡桃、モンスター倒した。」


「分かった。僕はあの人にヒールをかけて見るから、周囲を警戒しといて。」


 俺は言われた通り、周囲を警戒する事にした。胡桃は何故か、驚いた顔をしていたが、知ってる人なのだろうか。


「まだ、ギリギリ息がある。ヒール!」


 ヒールと胡桃が唱えると、倒れてる人の体が光に包まれ、傷が治っていくのが見えた。


「もう警戒を解除しても大丈夫だよ。」


 胡桃はすぐに声をかけて来た。倒れてる人を見ると先程まで内蔵まで、見えていた無残な状態から綺麗な状態に戻っていた。

 俺はヒールで、死んだ者も蘇らせる事が出来るのか聞いてみたが、どうやら無理らしい。ヒールでは肉体は再生出来ても、魂を呼び戻す事はできないそうだ。

 そう言えば、胡桃にその人が知ってる人か、聞くチャンスだな。


「その人は知ってる人?」


「うん、この人は君と出会う前にパーティーを組んでた人だよ。」


 パーティーを組んでいた人?もしかして、初めて胡桃と会った時、走って逃げた人間の内の一人か?


「逃げてた人?」


「うん、モンスターパーティーに遭遇した時、逃げてたメンバーの内の一人だよ。」


 どうやら正解の様だ。


「助けなくても良かったんじゃ?」


「いや、どんな事をされたとしても人には優しくした方が良いと思うんだ。」


「ふーん、そっか。」


 そう言うのは、胡桃のモットーであり、俺には何の関係も無い物だ。


「所で、この人連れて行くの?」


 正直な所、俺はこいつを連れて行きたくない。理由は簡単だ。自分の友達が自分の知らない友達と話してると、会話に混ざれなくなるから気まずい。


「うん、勿論。」


「どうにかしておいて行く事は?」


「1階層と2階層のセーフティゾーンに着いたら、そこでなら、おいて行っても良いね。」


「分かった。胡桃、早く道案内して、私がこの人背負うから。」


 俺は急いでこの人を背負い、胡桃を急かしながら、後をついて行く事にした。



***



 ふぅ、何とか間に合った。途中でこいつが目覚めたら投げ捨てるつもりだったから別に急がなくても良かったけど。


「じゃあ、ここに下ろしてっと。早く地上目指そ。」


「いや……、ちょっと…待ってよ。急かされたから体力が……。」


「だめ、急がないと私が暴れる。」


「そんなぁ〜!」


 よし、これでバッチリ。この人が目覚める前にここから離脱する準備ができたよ。さぁ、前に行きたまえ、友達1号くん胡桃よ。


「僕、お腹空いたし眠たいし、疲れたし、やっぱり休憩していかない?」


「ダメ!」


 ふっ、友達には甘やかしちゃ行けないって執事から習ったぞ。まぁ、その頃は友達居なかったけど…。


「分かったけど、途中で僕倒れても知らないよ?」


「じゃあ、私が背負うから道案内に専念して。」


「いやいや、君に背負われるのはちょっと……。」


 え…。俺たち仲良い友達じゃ無かったの?おんぶくらい友達同士でやるでしょ?もしかして俺嫌われてる……


「ごめん、僕が悪かったから、泣かないで。」


「……ぐすん。………泣いてなんか無いもん。………ぐすん。」


「あー、疲れたなー。誰か、ここに僕を背負ってくれる人は居ないかなー。あー。」


 やっぱり、背負って欲しかったんじゃ無いか!もう任せてよ!全速力で走ってやるからさ。


「ふふん。任せてくれ!ちょうど良い所に私がいるじゃ無いか!さぁさぁ、どうぞ乗ってくれたまえよ。」


「うん…。」


 よし、乗ったな!それじゃ出発進行!!


「うわっ!?早い、早いってぇぇぇ〜!!」


「え?早かったかな?これでもまだ馬車と同じ速度しか出してないけど。」


「早いよ!せめて、人の走る速度くらいにしてくれないかな!?」


 人の走る速度か、勇者が魔王と戦っている時は目に負えない速度で移動していたっけな。よし、行こう!!


「……………いう……あ………………………」


「何も聞こえなーい!!」


「………………」


「え?」


 俺はスピードをだんだん下げて行き、移動を止める。


「胡桃?」


「………………ひ……ぃ……る」


 胡桃の体を光が包んでいき、やがて光は消えて行く。


「この馬鹿!!!速度に耐えきれなくて体が潰れる所だったじゃん!!!」


「私、馬鹿じゃ無いもん……。勇者と同じ速度出しただけだもん。」


「勇者って……、そんなのが居たら世界はとっくに平和になってるよ。」


「平和になるの〜?って、は?」


 勇者がいると平和になってるだと、勇者のせいで親を失った者、子を失った者もいる。こいつは自分の発言をもっと良く考えた方が良い。


「発言をよく考えろ。この馬鹿。」


「急にどうしたの?」


 しらばっくれるのか?こいつは。


「勇者に殺された者たちの気持ちを考えろって言ってんだ!!たちはだろ!」


「………ううん。」


「…………え?」


 俺の上にいる奴は首を振った気がする。いや、嘘だろ……こいつは魔声語を話してただろ……。信じたく無い。

 あぁ、今やっと胸の中にいた違和感に気づいた。俺はこいつにんだ。

 

 他にも、事、回復と言う技は無く、使事。

 そうである事を否定しようとしても、

 胡桃が───である証拠がどんどんと揃ってしまう。


「違うって言ってよ…。」


「いいや、違わない僕は────だから。」


 信じたく無かった。聞きたく無かった。知りたく無かった。こんなに仲良く慣れたのに、こんなに信頼しあったのに。何で……。いいや違う!きっと聞き間違いだ。


「う〜ん、なんて言…ったか!聞こえなか……ったなぁ……。」


「もう一度言うけど………」




















「僕は人間だ。」

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