第2話 (1) 優秀なパーティー(二川胡桃視点)


「はぁ…」


 僕はいつも通りパーティー掲示板を見てため息をつく。

 何故なら、僕はヒーラーだからだ。今のヒーラーには昔のように仕事が来ないからだ。


「半年前はもっとヒーラー募集中が貼り出されていたのに…。」


 昔のヒーラーと言えば、1パーティーに1人はいないとダンジョンに潜れないと言われる程、主戦力、いや、神のように扱われていた。

 しかし、アメリカの科学者がダンジョンの素材を利用してポーションを生み出してからは、ヒーラーの扱いは変わった。


「あ!パーティー募集中!現地集合……ヒーラーお断り…か……。」


 今のヒーラーの扱いと言えば、荷物持ちでもやっとけだの、囮にしか使えないゴミだのと酷い扱いだ。最近では、上層探索でヒーラーをパーティーに入れるのは金の無駄と言われるまでにヒーラーの立場は変わった。


「今日も仕事が来ないや…」


 おかげさまで、仕事なんか来やしない。


「1人でダンジョンに入る力さえあればなぁ……」


 そんな事嘆いても、ヒーラー全盛期の頃の貯金は刻一刻と無くなって行くばかりだ。


「はぁ……」


 そう理解はしているが、ため息が漏れる。「他にする事は無いのか?」と聞かれても未成年で働けるのは、これしか無いのだ。

 「成人まで待て。親はどうした。」正直、この言葉はもう聞き飽きた。だから、僕はいつもこう返す。「親なら世界ゲーム化現象で死んだ。家はない」と…。


「おい、お前!お前は確かヒーラーだったよな。」


 突如として、背後から話しかけられる。


「うわ!……えっと、はい。それがどうかしましたか?」


 ヒーラーを冷やかしに来る連中は一定層いる。どうせ、こいつも同じだろう。こう言う人に配慮のなってない奴は、大抵ストレス発散にヒーラーを使う。もう、馬鹿にされるのは慣れた。


「じゃあ、頼む、今回だけ俺のパーティに入ってくれ!」


 それはこの高そうな装備をした男からヒーラーに対しては、想像できない台詞であった。


「え、良いんですか?」


 思っていた反応と違い、素っ頓狂な声が出る。この人は、以外と優しいのかもしれない。


「えっと、僕は上層までしか付いて行けないんですけど、それでもパーティに入って良いんでしょうか。」


「ん?あぁ、大丈夫だとも。俺のパーティーの最高到達階層を更新したいだけだから…」


「現在の最高到達階層はどこまででしょうか。」


「今は25階層までだな。ポーションが足りなくなってしまって……」


 25階層……確か、ここから30階層は毒持ちのモンスターが出現するエリアだ。

 ここのモンスターの毒は浴びると体が動きづらくなるだけだが、多く浴びると意識を失ってしまい、気絶している間に生きたまま食べられてしまうと言う。

 だから、25階層から30階層はポーションを使わず、モンスターを無視してでも走って、下の階層に向かうのがメジャーな攻略法の筈だ。ヒーラーは必要無いだろうに。

 ともかく、今はお金が無いので、依頼を受ける事にする。


「分かりました。最後に、報酬はどれくらい貰えるか聞いても?」


「事前に山分けって、決まってんだが、それでも良いか?」


「はい。では、契約成立という事で、パーティーに参加いたします。」


 男はその言葉を聞くと、後ろを向く。


「メンバーにはダンジョン前で、集合をかけてあるから早速向かうぞ。」


「はい!」


 リーダーは誰かに配信許可を取るよう伝えて、ダンジョン入り口に向かっていった。僕もリーダーがダンジョンに向かったのを見て、それに続いて行った。


***



「よし、集まってるな。」


 男は二川と共にダンジョン前に着くなり、メンバーが揃っているかを確認する。


「おい、アカ!配信許可は貰ってきたか?」


「おうよ、リーダー!ヒーラーが付くって事で25階層から30階層の配信許可はちゃんと貰って来たぞ。」


 どうやら、このパーティーはマジシャン2人、アタッカー2人、タンクが1人、サポーターが1人、そして僕(ヒーラー)

のバランスの取れたパーティのようだ。


「あの!皆さんの名前を聞いても宜しいでしょうか。」


「俺が紹介しよう。」


 リーダーが一歩前に出て言う。


「まず、最初に俺からだな。そう言えば名前は配信者名でも良いか?」


「はい。大丈夫です。」


「俺はダンタン。役はアタッカーで、ダンジョン探索遠征隊と言うクランでリーダーを勤めている。」


 ダンタンは仲間に手を向けて紹介し始める。次に紹介するのは全身赤色の豪華な装備をした男のようだ。


「こいつはアカ。役はアタッカーで、俺のクランで一番の攻撃力を持っている。」


「1日限りだが、宜しく頼むぜ!」

 

 次に紹介するのはマリンブルー色の髪の毛をして、豪華では無いが材質を見るに高価な装備をした女性のようだ。


「こいつはマリン。役はマジシャンで、世にも珍しい回避が高いマジシャンだ。トップクラン[道を知る者達]のサードアイにも勝ちうる唯一の存在だ。」


「ちょっとやめてよ!うちのリーダーが私の株を上げてるけどそこまでじゃ無いから、宜しくね。」


 この後も、こんな感じでメンバーの人物紹介が続いた。長くなるので簡潔に紹介すると残りはこうだ。

[・スタリー(女):マジシャン(近距離対応型マジシャン)]

[・ガンク(男):タンク(クラン内一番の防御力)]

[・スタンフ(男):サポーター(クラン内一番の敏捷性)]


「じゃあ、こちらの紹介は終わったから次は君の番だ。」


「えっと、僕は金欠で配信を出来てないから、配信者名が無いので、ヒーラーとでも呼んで下さい。後は、モンスターを挑発して囮になる事が出来ます。」


 こうでも言わないと次会った時、本当に仕事が貰えないかもしれない。


「よし、ヒーラーか、分かった。それじゃあ、配信開始するけど準備は出来てるな?」


「おうよ!一ヶ月ぶりでトーク力が無くなって無ければ良いんだがな。」


「一ヶ月ぶり!?」


 ダンタンは「あぁ」と、頷き説明してくれた。


「俺らダンジョン探索遠征隊は配信を副業のように使い、全員で集まった時にしか配信をしない。主な俺らの稼ぎ方はモンスターの素材集めをしている。だが、ここ一ヶ月間は個人のレベル上げの期間にしていて、今日が集合の日にしてたんだ。」


「僕なんかが即日で入って良かったんですか!?」


「勿論だ。じゃ無いと困る。」


 その言葉は半年ぶりに聞いたが、少し涙が出そうになる。僕を必要とする人はいるんだって。


「よし、配信をつけたぞ!」


 彼の発言を聞いて目元を拭き、平然を装う。

 そして、彼の方を見ると彼の目が青く光っていた。光っていたと言っても、目に水色のカラコンを入れた。そんな感じだ。


「これを見ているファンタの皆んな!おはよう!今日は俺達のパーティーの最高到達階層を更新する配信だ!最後まで見ていってくれよな!」


 リーダーが虚空に向かって喋りかけているのを見ていると、周りのメンバーも皆、目が青く光り始めた。きっと、配信をする際には目が光るのだろう。


「レベル上げ本当はしてない、っておい!一ヶ月間ちゃんとレベル上げしてたわ!」


 リーダーが虚空に向かって喋っている。一体誰と喋っているのだろうか。そして、3分くらい話したところで、リーダーから全員に声がかかった。とうとうダンジョンに入るようだ。

 少し、チームの連携について行けるか心配だが、ゆっくりとダンジョンについて行った。



***



 パーティの連携は思いの外大丈夫になった。

 なった。と言うのは前半(1階層から15階層)辺りでは一ヶ月のハンデと僕が即日仮加入と言うのもあり、上手く、連携が取れていなかったが、20階層を超えてからは敵が強く、連携を取らないと行けないと言う危機感からか連携が上手くなっていた。この連携があって、29階層を突破したとも言って良いと思う。

 だが、それと同時に僕の囮としての役割を発揮しづらくなっていた。


「30階層到達しましたね。」


「あぁ、そうだな。じゃあ、中層の入り口まで行ってから配信を終了するか。」


「何故そこまで行くのですか?」


「到達はしたけど踏破したとは言えないじゃ無いか。」


 そんな理由か、まぁ、このクランには最高到達階層(最高踏破階層)と言う、意味合いがあったのかも知れないな、そう思った。


「俺が先程と同じで前に出ますよ。リーダー!」


「あぁ、頼んだスタンフ。」


 20階層を超えてから、僕からスタンフさんに先頭が変わった。囮としての役割があるから先頭の方が都合が良かったが、これは「ずっと前に出て疲れているだろう。」と言うスタンフさんの気遣いだと思い。ありがたく変わってもらった。


「皆さん、毒を浴びてる可能性があるので一応、キュアを使いますね」


「いや、大丈夫だ。君の魔力を使わせすぎるのもよく無いしね。」


 28階層を超えた辺りで僕に回復魔法を使わせてくれなくなった気がする。気がするだけなら良いのだろうが。


「マップによると、ここから右の壁沿いに歩き、右、左左、右、十字路についたら直進、もう一度十字路についたら右、右で着くようです。」


「よし、了解した。それじゃあ、行こうか。」


 僕たちは暗闇の中、懐中電灯の光を頼りに歩いて行く。

 20階層まで、先頭を歩いていたから分かるが、先頭から見る景色と後ろから見る景色では全然安心感が違う。

 後ろから見る景色はファンタジーといった具合だが、先頭から見る景色はさながらホラーゲームの様であった。


「ここを右、左、また左、みg「キシャァァァァ!!」うわぁ!敵!敵!」


 前から、巨大蜘蛛が降って来た事で、皆んな臨戦態勢になる。

 そして、僕は即座に回復魔法をスタンフにかけようとする。こうする事で、敵の注意がこちらに向くからだ。


「ガンク、盾で攻撃を防いでてくれ!マリンはファイアボールの準備を!俺は敵の増援に備えて前に出る!アカはスタリーと後ろを見ててくれ!」


 ここまで来れたのは連携の上手さだけでは無い。リーダーの指示が的確かつ、迅速な対応も影響している。尚且つ、チームメンバー全員のレベルが高いこともまた、ここまで来れた事に関係している。


「どりゃァァァァ!!」


 ガンクが僕の前に立ち、盾を地面に突き立てる。

 流石の30階層と言えば良いのか、盾が後ろに押される。蜘蛛一匹で、とんでもない力を有している様だ。


「スタンフ!ガンク!ヒーラー!横に回避!!」


 リーダーの声で3人一気に勢いよく横にジャンプする。

 どうやら、詠唱がもうすぐ終わるらしい。


エネミーを情熱より熱く燃やしたまえ!ファイアボール!!!」


 杖から出て来た炎の球は敵に向かって一直線に飛んでいき、蜘蛛にぶつかると同時に小爆発を起こす。

 きっと今の一撃を受けて、蜘蛛は跡形もないだろう。


「経験値を獲得したわ!多分さっきのであのモンスターは葬ったわ!」


「後ろからも前からも増援は無いぜ!」


「よし、戦闘終了!」


 リーダーの言葉と同時に臨戦態勢が、解除される。僕は、すぐ、スタンフさんの側に行き声をかける。


「スタンフさん!」


「どうした?ヒーラー。」


「先頭、代わりましょうか?」


「ああ、たn……いや、良いよ大丈夫だから。」


 今、頼むって言いかけてた気がするが、気のせいだろうと思い、自分の立ち位置に戻る。

 周りは何かを見て、「連携綺麗だった?ありがと〜!」などと、嬉しそうにしてるが、リーダーの方を見ると「チッ」と舌打ちをした気がした。


「それじゃあ、行きましょうか。」


 リーダーの一言で、周りは探索モードに切り替えて列を作る。皆んな、ここが30階層と言う認識はある様だ。

 そして、道を塞ぐモンスターのみ処理して、早歩きする事、十数分。

 ついに、中層の入り口まで辿り付いた。

 

「よし、これで最高到達階層の更新完了だ!!」


 ふぅ、何故だかわからないが疲れがどっと押し寄せてくる。


「ここまで見てくれたファンの皆んな!約7時間のご視聴ありがとう!!」


(え、7時間もダンジョン内に居たのか。それは流石に疲れるな、自分にヒールでも使うか。)


「連携が参考になったって?そりゃ助かる!もっと俺らの事布教してくれると嬉しいぜ!!それじゃあ、キリもいいし、ここらでばいば〜い!!」


 どうやら、ダンタンの配信も今終わった様だ。周りも次々と配信を終わらせて次の戦闘に続く準備をしている。


「ダンタンさん。ちょっと一息つきませんか?」


「何を言ってるんだ?回復魔法で疲れも取れるだろう?」


 そう言って、ダンタンはパーティーメンバーの所に行って、小声で何かを話していた。

 そうして僕は、魔力を使わせない様にしてたのはこの為だったのか、と感じ、パーティーメンバー全員にキュアとヒールをかけた。


「次は僕が先頭に行きますよ。確かマップを反対に進めばいin「おい、お前らそろそろ中層に突入するぞ。準備は出来てるか?」え?」


 ダンタンがなんて言ったのか理解できなかった。いや、理解しようとしなかった。


「え?ダンタンさん何て言いましたか?」


「だから、中層に行くから準備は出来てるかって言ったが?」


「ちゅ、中層!?中層には行かないと言う契約の筈です!」


 僕は必死になって抗議する。

 これは冒険者組合で出されている基本的な情報だが、中層は上層と違い、魔物の量が三倍近く増えるのだ。

 誰が見ても、僕の装備では生きて帰れる確率は低い。


「うるせぇ!俺達の今のペースで行けば全員がランクアップ出来るんだよ!」


 ランクアップ、それはレベルが30になると起きる現象だ

。ランクアップをすると上層は1人でも突破出来ると言われる程、ステータスが上昇すると言う。


「ランクアップって……僕の命はどうなるんですか!」


「あぁ?お前1人の命より、俺らがランクアップして、より下の階層にいく方が社会の為になるんだよ!」


 「そうだ、そうだ!」と周りの人々も声を出す。誰が見ても僕は中層に行くしかないような流れだ。


「そんな……、じゃあ僕はここでパーティから抜けますから!」


「それでもいいが、お前は外に帰れるのかぁ?無理だよなぁ!ここから、ダンジョンの入り口まで30階もあってぇ…お前には防御力も攻撃力もないからなぁ!」


 ダンタンの言う通りここから入り口まで1人で戻るのは自殺行為に等しい、中層に行く方が安全かも知れない。

 でも、何故、急に態度が変わったのか、何故、契約を破ったのか僕にはわからない。


「それにお前はヒーラーだ。お前がついてこないと俺たちも進みづらくなる。ここは意地でも来てもらうからな。」


「………」


 もう、僕に逃げると言う選択肢は無くなっていた。

 僕がダンタン達の方を見ると何故か笑顔だったのが不思議でならない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 正直、俺達(ダンジョン探索遠征隊)は焦っていた。

 ダンジョンに入ったばっかの時は一ヶ月ぶりのチームワークで連携が取れていなかったが、階層を進むごとにヒーラーの瞬時の判断にキレが出て来て、俺らは連携が取りやすくなっていた。

 だが、そこで問題が起きた。このヒーラーは優秀過ぎたのだ。俺達が優秀だと思う様に、コメントの皆んなも同じ事を思っていたのだ。


『このヒーラーってどこにいた子?』

『俺もヒーラーだけどモンスターの攻撃を回避しながら仲間に回復は出来ないや』


と言う感じに来ていた。


 20階層を超えた辺りから、スタンフが先頭に立ちたい。と言ったので、スタンフを先頭にしてもらった。

 きっとスタンフも同じ様なコメントが流れて来て、焦ったのだろう。

 そして、20階層を超えてから、連携も良くなった。スタンフと俺以外にもヒーラー凄い等のコメントが来てたのだろう。

 30階層でタイタンスパイダーと遭遇した時には今、日本のダンジョンでトップ層を走る[攻略組ギルド]俺の憧れの第四部隊隊長(癒しのフェリア)から、


『このヒーラーを我がクランに招待したい。』


と言うオファーまで来ていた。

 俺は攻略組が俺らの配信を見ている事を知り、連携・指揮にもより力を上げた。

 でも、攻略組のコメントはヒーラーの動きを解説し、こちらを見てくれなかった。

 そこで、配信が終わってからメンバーにコメントの事で話合った。そしたら、スタンフの方でも、攻略組ギルドの第三部隊隊長(魔法戦士キュピリオ)からコメントで、


『このヒーラーのみ我がクランに入れる程の実力を持っている』


と書かれてあったらしい。

 そこで、俺達はヒーラーを中層に連れて行き、モンスターに殺させる事に決めた。

 今、俺たちのパーティでヒーラーに注目が入っているなら、ヒーラーを殺せば、こっちに注目が行くと考えたからだ。

 あぁ、今、とても気分がいい。こいつをモンスターに殺させるだけで攻略組ギルドに入れるのだから。

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