第一章 人間と魔族
第1話 人間!?いや、同族か?
「おい、お前らそろそろ中層に突入するぞ。準備は出来てるか?」
リーダーらしき男が周りの人々に話しかける。周りにいる人々らは「おう!」と返答し、準備が出来ている合図を送った。…1人を除いて。
「ちゅ、中層!?中層には行かないと言う契約の筈です!」
貧相な装備をしている若者は抗議する。
これは冒険者組合で出されている基本的な情報だが、中層は上層と違い、魔物の量が三倍近く増えるのだ。
誰が見ても、この者の装備では生きて帰れる確率は低い。
「うるせぇ!俺達の今のペースで行けば全員がランクアップ出来るんだよ!」
「ランクアップって……僕の命はどうなるんですか!」
「あぁ?お前1人の命より、俺らがランクアップして、より下の階層にいって資源を沢山持って帰って来た方が社会の為になるんだよ!」
「そうだ、そうだ!」と周りの人々も声を出す。誰が見てもこの者は中層に行くしかないような流れだ。
「そんな……、じゃあ僕はここでパーティから抜けますから!」
「それでもいいが、お前は外に帰れるのかぁ?無理だよなぁ!ここから、ダンジョンの入り口まで30階層もあってぇ…お前には防御力も攻撃力もないからなぁ!」
男の言う通りここから入り口まで1人で戻るのは自殺行為に等しく、逆に中層に行く方がまだ安全と言えた。
「それにお前はヒーラーだ。お前がついてこないと俺たちも進みづらくなる。ここは意地でも来てもらうからな。」
それに、抗議をしたその若者はヒーラーであった。ヒーラーは滅多にいない希少な職業だったが、市場にポーションが出回った事でその必要性は皆無となっていた。
今のヒーラーの役割と言えば、周りを回復させるのはもちろんの事、囮になる役割が主な仕事となっていた。
「………」
もうその者に逃げると言う選択肢は無くなっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界に来て早々だが、俺はどうやら洞窟に転移したらしい。ここ暗いよ、俺の部屋より暗いよ。何なら静かだよ。怖いよ。
「第一魔族発見したいんだけど……出口どこ?」
とりあえず、壁沿いに進んで行くしかないか……
一歩、また一歩と足を進めていく。
そして、100mくらい歩いた所で大声が聞こえてきた。俺は寂しさのあまり、第一魔族を発見する為、足を早めた。
「この坂道の下の方から声がするな。」
漸く第一魔族と会えるのか、はぁ…長かった。まだ、10分も経ってないけど。
「と言うか、何語を話してるんだ?」
近くまで来て、分かったのだが、声の主は魔族では無いらしい。何故なら、全魔族は
「この言語どこかで聞いた気がするんだけど思い出せないなぁ。まぁ、行けば何か思い出すだろう。」
剣を構えて坂をゆっくりと降り、音のする方を見ると7人位の人間達が魔族とは違った生物と戦っていた。
「人間が戦っている。今が漁夫の利を得るチャンスだな。」
俺は子供の頃から、
「そういや、あの言語、ニホンゴと言ったかな?
ふと、その人間達が話している言語を思い出した。これは俺の祖父を殺した人間が使っていた言語と同じだった。
「まぁ、この人間は全員殺すし覚えなくてもいいかな。」
俺は剣を構え、近くにいた一際装備が豪華な人間を切ろうとした。
「──────!!!!」
だが、突如その人間が大声を出し、俺は驚いて近くの岩影に隠れた。人間達が何か大技でも使うと思い、俺はその岩影からその人間の様子を伺っていたが、7人のうち、6人は凄い形相で逃げて行ってしまった。
「人間は1人になってしまったが、あの人間放置していても勝手に死ぬよな。」
その人間は緑の人型の生物・黒い狼・でかい蝙蝠、合わせて30匹ぐらいに囲まれていて、助かりようはなさそうであった。
でも、俺は人間を殺しに行った。
「
岩影から、飛び出し大声を出しながら人間の元に向かった。
まあ、案の定と言っても良いが人間とその周りの人外共がこちらを向いた。人間は希望に満ちた目を向けていたが、人外共はそんな目を向けず半数以上が襲いかかってきた。
「邪魔だぁぁぁぁ!!」
襲いかかってきた生物を3秒で切り伏せる。次に、人間の周りいた奴らを2秒で切り伏せた。そして、最後に人間を……
「助けて下さりありがとうございます!!」
え?あれ?何でこの人間は魔声語を話せるんだ?あぁ、そうか人間に擬態する魔術でも使ってるんだな。てか、さっきの聞かれてたの恥ずかし。
魔族の歴史の中で、魔声語を覚えた人族に魔王が打たれる事例があったため、俺はとりあえず、緊張しながらも本当に同じ魔族か確認する為に聞くことにした。「貴方も私と同じ魔族ですか?」と
「あ、えっと、その、あー………あにゃ…たも魔じょ、魔族……でしゅ…か?」
「えっと、すみません。なんと言いましたか?」
うわはっず、噛んだよ。初対面に。終わったァァァァァァ!!!同族だと思ったら急に声が出せなくなって……会話なんて無理ダァァァ!!
「………ごめん。」
俺は即座に逃げ出そうとした。しかし、足を掴まれていて逃げれなかった。
「離して!離して!会話絶対無理無理!!帰る!お家帰る!」
「待って下さい!!まだ、ちゃんとしたお礼が出来てないんです!!」
お礼だと?そんなのいるかぁぁぁ!!経験値にしようとしただけだぞ!?人間と勘違いしただけだぞ!?無理無理、そんな理由で助けたと勘違いされるの余計に恥ずかしいって!
「じゃあ帰らせて!それがお願いだから!!お礼要らないから!!」
「そう言う訳には行かないんです!!僕の気がすみません!!」
「分かった!分かったから!手を離して!!!」
「絶対逃げるじゃ無いですか!」と言い、そいつは掴む力を更に込めた。
俺は掴まれた足をぶんぶん振り回したが離れる気配が一切無かった。
そして、俺は理解した。
あ、これ離してくれないパターンだ。こいつと会話しないといけないの?噛んだのに?やばい、そう思ったらどんどん息が出来なくなってきた。あ、意識消える。おわた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うーん……」
暗闇の中、パチリと目を覚ます。ここどこだっけ?
「起きましたか?ここは階層と階層の間、所謂セーフティゾーンなので安心してください。」
うわ、誰?この人。魔声語使ってるから同族なんだろうけど、距離が近いよ、怖いよ。
「………えっと、だr「改めまして、助けて下さりありがとうございます!!」え?」
目の前の擬態魔族?は頭を地面につけて俺に額付いてくる。
同族を俺が助けた?いいや、助けたのはほぼ確定で別人だな。俺が同族に近づける訳ないし。
「助けて頂いた。謝礼として、何かしてあげたいのです!」
えぇ…、初対面の魔族にいきなり、そんな謝礼とか言うの怖いよ、これって新手の詐欺だったりでもするのか?
「いやいや、そんなの要らないよ。助けたの、私じゃないし。」
「覚えてないんですか?助けて貰ったこと。」
「うん、それに、あなた誰?」
「僕は
「ぇ」
気づいたら自分の口から言葉にならない声が漏れてきていた。
え、えぇ!?こいつ、ネームドだと!?その力を魔王に認められた者のみ呼び名を貰えるあのネームドだと!?俺が失礼な事してない?大丈夫!?やべ、タメ口で喋ってたわ。あ、これから俺殺されるのか、「タメ口使いやがって」とか言って殺されるのか。
「ちょ……」
「ちょ?」
「ちょ…調子にのってすみませんでした!!どうか、命だけは!!」
即座に膝を揃え、おでこと両手を地につける。このポーズは三代目の魔王が勇者に行った命乞いのポーズとされているものだ。
そして、その名をドゲイザーと言う。
頼む許してくれ!執事に何も返せずに死ぬのは嫌なんだ!!
「えぇ…どうしたの急に……」
「まさか、ネームドだとは知らずにタメ口を使ってしまい、申し訳ありませんでした!!」
「ネームドって、名前なら普通、皆んな持ってるんじゃ……」
皆んな名前を持っている!?この世界には、魔王に認められし強い奴らが沢山いるのか!?うわぁ、今すぐ帰りたい、一年も居たくない……助けて執事……
「ごめん、失礼な事言ったよね。」
「?」
何故だか分からないが二川胡桃はこちらを向いて謝ってくる。
いや、これは煽られているのか?「ごめん、失礼な事言ったよね。名前持ってない奴なんて、居ないと思ってたw」って事か?うわ、キレた。ちょーキレた。てか、よく考えたらネームドである証拠が無いじゃん。何だよ、嘘かよ、騙しやがって。
「ちょっと!名前!見せて!自称ネームド!」
「え?いいけど…、ステータス、オープン」
二川胡桃がステータス、オープンと唱えると、二川胡桃の前に青い板が現れる。
え?何これ、俺の世界にこんなの無いよ。
「はい、勝手に見ていいよ。」
まぁ、見てみることにする。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名前: 二川胡桃(16)
職業: ヒーラー
レベル:5
HP 17/30
MP 100/190
ATK 5
DEF 9
MATK 14
MDEF 6
AGI 12
DEX 9
EVA 10
★スキル
[言語理解][瞑想][ヒール][キュア]
[クリーン]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
幼い時、これに似たような物を元の世界で見てきているから分かる。この情報は本当だ。
つまりこのお方は…マジモンのネームドだったぁぁぁぁぁ!!やらかしたぁぁ!!俺、今めちゃくちゃ失礼な事言ったよね!
くそう……、こうなったら、我が究極奥義を使うしか無い!!
「ふ、ふ、ふ、二川胡桃さま。わ、わ、私は急用を思い出したので、か、帰ろうと思います」
「いや、待ってty「さようなら!」」
これぞ我が究極奥義![あ、急用を思い出したので帰ります。戦法]だ!ふっはっは!どうだ、たとえネームドだとしても何も言えないだろう!残念だったな!ふっはっはっは!
「えっと…そっちの方向行っても地上には出れないよ?」
「え?…………あ、うん。」
やばい、恥ずかしすぎる。もう一生、
俺は向かった方と反対側に向かって、顔を隠しながら早歩きで、二川胡桃のまえを通り過ぎ、そのまま上の層に向かって歩いていく。
その場に置き去りになった二川胡桃は、一旦、一呼吸置いて自分の今の状況を把握する。
そして、あの少女と共に行動しなければ地上に帰れない事を思い出し、慌てて少女を追いかけるのであった。
「……あ!待って待って!置いてかないで!!僕は1人じゃ地上に戻れないんだから〜!!」
その声はダンジョン内によく響いたが、少女の耳には届いていなかった。
一方、早歩きをしている赤面の少女は恥ずかしさの余り、意識を失う前の自分の記憶を取り戻してしまい、叫びながら上の階への道を探すのであった。
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