第7話 友頼りの日常
「やっと外だ〜!」
「あはは…元気そうだね。」
俺たちはゴウとマリの後に続き、ダンジョンの外に出た。そう、外に出れた。もう、暗い所とはおさらばだ。
「それじゃあ私たちは冒険者組合にスタンフを連れて行かないとだから。それじゃあね。」
そう言って、ダンジョンを出てすぐにマリとゴウは冒険者組合に行ってしまった。一方、俺たちはと言うと。
「わーい!外だぁ!あ、お外が真っ暗だ〜!!」
「うん。そうだね〜。」
絶賛外を楽しんでいた。
「お外綺麗だな〜!」
「うんうん。所で、君はこれから何処に行くつもりなのかな?」
胡桃が妙にニコニコしながら答えてくる。
「え?胡桃の家。」
「だよね〜。そう言うよね〜……。」
胡桃の顔が一気にがっかりした顔になる。
「ん?どうしたの?」
「僕、…今家ない。」
「え……、えぇぇぇぇぇぇ〜!!」
少女の声が暗闇の世界に響き渡る。その声は後ろのダンジョンで反響して、何回も同じ言葉が聞こえてくる。
「な、何で!」
「親が亡くなっちゃって、それと、借金のせいでね」
親が亡くなっちゃっただと?俺、まずい事聞いたかも。しゃっきん?と言うのは分からないけど、家を無くした原因の一つだろう。
「じゃ、じゃあ、胡桃は何処で寝泊まりしてるの!?」
「ダンジョンで稼いだお金でカプセルホテルに泊まってるよ。」
「じゃあ私も行く!」
「お金は……ギリギリ足りるか。じゃあ、ついて来て。」
胡桃はそう言うと歩き出した。俺も胡桃の隣を歩き出した。そして、俺は地上に来たことを後悔する事になった。
「ここ、人間が多すぎる……。」
「まぁ、ここは冒険者しかいないダンジョン街とは違って、ここは冒険者以外もいる一般街だからね。」
「この世界には人間しかいない?」
「いや、他の生き物も多くいるよ。ただ、人間が多いのはここが人間の街だからだね。」
人間の街?ここには人間しかいないのか?
「うぅ…私、ここ嫌い。」
魔族が人間を殺すのにはちゃんとした理由がある。それは魔族を殺せるのは魔族と人間しかいないと言う事だ。そして、人間は繁殖力もあるから処理しないと行けなかった。いつ殺されるかわかったものじゃないから自分たちの命の為に。
「いつかきっと君ならここに慣れるよ。」
「そう?」
目標は人気者だし、いつかはここに慣れるか。きっと慣れる!そう信じて、今は胡桃の背中に隠れながら移動する事にした。
***
カプセルホテルに着いた時、カプセルを見て驚いた。人間はこんなのに入って寝るのか!と。そして、もう一つ驚いた事がある。水が暖かいのだ。
どうやら、人間はお風呂と言う暖かい水の出る場所で、水浴びをしているらしい。
ただ、一つ悲しい事に気づいたのが、お風呂の入り口についている姿見を見た時、そこに映っていたのは、顔を見なければ老婆と勘違いしそうな者の姿であった。
髪の毛は土が付きそのまま乾燥したせいか、とてもボサボサになっており、服装は男性用のものだったのでダボダボ、しかも、地面で擦ってたからか穴まで開いている始末だ。はぁ、あの泉を出てから一旦髪を乾かして、服装を着替えて来るべきだった。俺はかなり後悔した。
次に、胡桃関係で、驚いた事がある。胡桃は女性だったのだ。胡桃は中性的な顔立ちで性別が分からなかったが、一緒にお風呂に入る際に、裸になった胡桃を見て、性別を理解した。
女友達と一緒にお風呂に入る。普通、こんな展開は男なら興奮するものなのだろうが、何故かそう言う気持ちは湧かなかった。
俺は心まで女になってしまったのだろうか…。まぁ、そう言うのは一旦置いといて、今はこの場を楽しむ事にする。
お風呂を出た後、胡桃が髪の毛を熱風のでる何かで、乾燥させてくれた。胡桃はこんな美少女を見ても一切驚きもしなかった。やっぱり服装のせいだろうか。
髪の毛を乾かしてもらって、眠くなり、そのままカプセルベッドにダイブした。ちなみに、俺の着ていた服装は髪の毛を乾かしてもらう前に、胡桃にクリーンと言う魔法をかけてもらって、綺麗になっていた。
(「……て。……きて。…起き……て!起きて!」)
「うひゃぁぁぁ何!?何!?」
胡桃がカプセルの内側から見てすぐ側に立っているのがわかった。俺はすぐにカプセルを開けて立ち上がり、寝起きながらに、いつでも外に行ける準備を整えた。
「準備で出来たよぉ〜…。」
「ダメ、それは自分を鏡で見てから言ってね、まだ準備終わってないから。」
胡桃からはまだ終わって無いと言われ、風呂の前まで連れていかれた。
「ほら、まだ髪のセットが終わってないじゃん。」
「ふぇ…?」
姿見を確認すると、数十本の髪の毛が逆立っていた。
慌てて、手で髪の毛を戻そうとしたが、俺の髪の毛は反抗期だったので直る気配が一切なかった。だから、俺はすぐに胡桃に助けを求めた。
「胡桃〜!助けて〜!!」
「はぁ…。今日だけだからね。」
そう言って、胡桃はインベントリからブラシを取り出して、髪の毛を整えてくれた。
「これで準備は終わり?」
一応、また止められるかもしれないので、胡桃に聞いてみる。
「まだだから、ちょっとこっち向いて歯見せて。」
「うん、わかった。」
歯を見せる為、「いー」と口を開き、胡桃と顔を合わせる。顔を直視するのは恥ずかしいので、目線は胡桃の後ろを向いていた。
「クリーン」
胡桃が時間差で、魔法を唱え、俺の歯と顔がサッパリした。
「この魔法凄い!私これ覚えたい!」
率直に言うとこの魔法は凄い便利だ。この魔法さえあれば水浴び等の時短になるだろう。これは是非覚えたい物だ。
「う〜ん、僕じゃ教えるのは難しいかな。一応、生活魔法の本なら持ってるから、理解できたら覚えれると思うんだけど。」
「生活魔法?回復魔法じゃ無くて?」
「そう。回復魔法は世界にダンジョンとか出来た時に獲得した魔法だけど、生活魔法は本とかを自力で理解した時に獲得出来る魔法だから。」
「へぇ〜。わかった、本貸して。」
あいにくだが、俺は生まれて来てからずっと魔術についての本を理解して来たから、魔法だって理解するのは簡単だろう。俺は胡桃に本を渡されてクリーンだけ、覚える事にした。
そう言えば、これは魔術と魔法の事前知識なのだが、魔術と魔法は使い手が魔族か人間かで名前が変わるわけでは無い。
魔術は魔法陣をマナを使って作りだし、発動する技であり、魔法はマナに
本を開いて、クリーンの使い方について調べたが、生活魔法はマナに色をつけて発動する魔法では無いようだった。
「ごめん。やっぱり私には理解できなかった。」
「うん、知ってた。生活魔法に関しては他の魔法と違って、いろんな事経験しないと使えないからね。」
「え!?それってどう言う事!?」
もし、胡桃の言っていることが正しいとしたら、この生活魔法、いやこれは魔法でも魔術でも無い、別の技という事になる。それは気になる。とても気になる。
「いや、それを伝えるのは冒険者組合に行きながらでいい?着く時間が昼過ぎになっちゃう。」
「わかった。」
そして、胡桃は二人分の料金を支払ってくれて、二人でカプセルホテルを出ていった。
ホテルをでてすぐに胡桃は生活魔法について歩きながら簡単に教えてくれた。
どうやら、生活魔法とは名だけで、マナをぶつけて綺麗にしたりしているだけらしい。要するに汚れを取る媒体を水とか洗剤とかから、マナに変えただけと言う事だ。
ただし、手を洗う時などにクリーンをする際には汚れを取る為にマナのぶつけ方も感覚も覚えないといけない。だから、色んな事を経験しないといけないらしい。
多分、原理を分かった今ならクリーンは使えるだろうが、綺麗にする物が無いので、ダンジョンに行って来るまで、使用出来なそうだ。
因みに、外を歩いている時に色んな人の視線がこちらに向いたが、今度こそ俺の美貌に虜にされたのだろうか。
***
俺たちは暫く歩いて、昼丁度くらいに冒険者組合に着くことが出来た。
「ここが冒険者組合。でっか〜!」
それを前にして俺は声が漏れてしまう。目の前の建物は上に高く、横幅は広めの形をしていた。
「こういう高いのなんて言うの!?」
「これはビルって言うんだ。」
「そうなんだ!でかいなぁ〜!広そうだなぁ〜!」
この建物はすごいぞ!?サイズ的にも一撃では壊れなさそうだし、尚且つ城よりでかい!こんだけデカければ沢山の事が出来そうだぞ!正直、胡桃と友達になった事の次くらいに感動している。
「もう、中入っても良いんだよね!」
「良いと思うけど、中でははしゃぎ過ぎたらダメだからね。」
「わかってるって!」
そして、俺たちは冒険者組合の中に入っていった。
きっと、俺たちがスタンフさんを救ったんだと言えばお礼の品に良いのがもらえる事だろう。楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます